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大魔王ターニャんの致命的な誤算  作者: 籠崎 莉々
第二部

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第19話 海と森とにわかたれて

 夜は、深かった。

 

 森の奥。

 風も届かない場所で、二人はようやく足を止めていた。

 

「……はぁ……っ……はぁ……っ……」

 

 リリの呼吸は荒い。

 喉が焼けるように痛い。

 足はもう、動く気配がなかった。

 

「……ここまで来れば、少しは持つかな」

 

 ターニャが周囲を見渡す。

本来はリリが担う役割を今はターニャが担う。

 

 索敵。

 気配。

 魔力の流れ。

 

 すべてを一瞬で確認して――

 

「……うん。とりあえず、今は大丈夫」

 

 その一言でリリの身体から、力が抜けた。

 

 ――どさっ

 

 その場に、崩れ落ちる。

 

「……っ」

 

 言葉が出ない。

 

 息だけが、乱れている。

 

 しばらく。


 何も、なかった。


 ただ。


 静けさだけが、そこにあった。


「……ねえ」

 

 やがて、リリが、声を出す。

 

「……どうして」

 

 かすれた声。

 

「……こんなことに……なったの……?」


 問いは、弱かった。

 

 でも、逃げ場のない問いだった。


 ターニャは、すぐには答えない。


 少しだけ、考えるように目を伏せる。


「……さっきの、見たでしょ」


「……うん」

 

「アイツ、ゼファエル。最初から、ああするつもりだった」


 リリの指先が、わずかに震える。


「どうして……」


「さあね」


 あっさりとした答え。


「でも、“そうなるように”準備してたのは確か」

 

 あの魔法刻印。

 

 あのタイミング。

 

 あの、笑み。


「……じゃあ」

 

 リリの声が、さらに小さくなる。


「……私が……報告したから……?」

 

 空気が、わずかに止まる。

 ターニャは、リリを見る。


「……違うよ」


 静かに否定する。

 

「関係ない」


「でも……!」

 

「関係ないって」

 

 強い声で遮る。

 

「リリちゃんがしてもしてなくても、結果はたぶん同じ」


 リリは、言葉を失う。

 

「……最初から」

 

 ターニャは、続ける。


「“私をそうする”ための舞台だった」


 その言葉は。


 冷静で。

 

 残酷だった。

 

「……っ」


 リリの視界が、歪む。


「……じゃあ」

 

 震える声。


「……もう……どうにもならないの……?」


 ターニャは、答えない。


 代わりに。


 一歩、近づき、リリを立たせる。


「このすぐ先に岬があるの」


「‥‥‥え」


「そこにある灯台、中で休めるかもしれない。行こう」


「ちょ、ちょっと」


ターニャは歩き出す。


リリはまだ体力が回復しきれていない。


呼吸を乱しながらも、ターニャを追いかける。


やがて森は開け、潮風が髪を撫でた。


逃げている今、こんなことを思うのは場違いかもしれないが――


海から凪ぐ風が火照った身体を冷やしてくれるようで心地よかった。


ターニャは振り返る。


視線がリリと交わった。


「え、ターニャさん、なに‥‥?」


「ごめん、噓」


「えっ」


「"とりあえず、今は大丈夫"って言ったこと。聖教会の人たちに補足されてる」


「えぅ、どういう‥‥」


リリが喋り切る前にターニャはリリの手を引き、強引に引き寄せた。


腰元から短刀を引き抜き――


「そこまでだ!」


聖教会の党員が森からゆっくりと出てくる。


ターニャはリリの首元に短刀を当て、


「それ以上近づくと、聖女の命はないものと思え!」


警告。


「くっ」


「聖女様を盾にするとは‥‥‥なんと卑劣な!」


「これが英雄の正体か‥‥」


ターニャはリリの耳元で囁いた。


「ターニャ一人なら逃げ切れる」


「‥‥‥‥!!」


「リリちゃんはターニャにさらわれただけだから、教会に保護してもらえるはず」


「そんなの……!」


「リリちゃんを連れては逃げきれない。足でまとい」


「‥‥っ!」


「それにゼファエルに手をかけたのはターニャだけ。リリちゃんは逃げる必要なんてない」


教会の党員が叫ぶ。


「反逆者め!聖女様から手を放せ!」


「ふっ」


ターニャは軽く笑って、リリにあて身。


「うぐっ」


ターニャは党員に向ってリリを突き飛ばした。


「聖女様!」


リリが支えられたことを黙視すると、ターニャは岬から海へと飛び込んだ。


まぶたが重く、目が自然に閉じていく中、


(ターニャさん…あなた泳げないでしょう…)


と考えながら意識を手放した。



夜の海が闇を暗示しているような黒くよどんで見えた。



ターニャはその海が未来につながることを信じて、


深く、


深く、


沈んでいった。

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