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大魔王ターニャんの致命的な誤算  作者: 籠崎 莉々
第二部

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第11話 サナスの花

第2部前半の山場に入ります

 朝。

 

 二人は、走っていた。


 道を外れ、森へ。

 

 リリの記憶にある“故郷”へ向かって。

 

「この先です……!」

 

 息を切らしながらも、リリは迷いなく進む。

 

 木々の間を抜ける。

 見慣れたはずの道。

 何度も歩いたはずの場所。

 

 ——の、はずだった。

 

「……あれ?」

 

 足が、止まる。

 

「……ここ、のはず……」

 

 視界が開ける。

 

 そこは——

 

 ただの、草原だった。

 

 家はない。

 柵もない。

 井戸もない。

 

 “村”の痕跡が、何一つ存在しない。

 

「……え」

 

 リリの声が、震える。

 

「……そんな……」

 

 ゆっくりと、歩き出す。

 

 地面に触れる。

 

「……ない……」

 

 何もない。

 

 焼け跡すらない。

 争った形跡もない。

 

「どうして……」

 

 呼吸が浅くなる。

 

「……ここに……あったのに……」

 

 振り返る。

 

 助けを求めるように。

 

「……ターニャ……」

 

 ターニャは、静かに周囲を見ていた。

 

 しゃがみ込む。

 草を一つ、摘む。

 

「……リリちゃん」

 

 その声は、いつもより少しだけ低い。

 

「ここさ」

 

 言葉を探すように、視線が揺れた。

 

「“人が住んでた場所”じゃないよ」

 

「……え」

 

「地面、固まってない」

 

「踏み固められた跡もない」

 

「建物の基礎も、何もない」

 

 淡々とした指摘。

 

「それに——」

 

 手にした草を、軽く揺らす。

 

「これ」

 

 リリの目が、ゆっくりとそれを捉える。

 

「……サナスの、花……」

 

 白く、淡い光を帯びた花。


 あのとき見たものと同じ。

 

「群生してる」

 

 ターニャが言う。

 

「言ってたよね」

 

 静かに。

 


「“人が立ち入らない場所にしか生えない”って」


 

 その言葉が。

 


 ゆっくりと、リリの中に沈んでいく。


 

「……じゃあ……」

 


 唇が震える。


 

「ここは……」


 

 声が、かすれる。


 

「……最初から……」


 

 ターニャは、何も言わない。

 


 ただ、事実だけがそこにある。

 

 


 ——“なかった”。

 


 

「……そんなの……」

 

 

 リリの視界が、揺れる。

 

 

「……だって……私……」

 

 

 記憶が、浮かぶ。

 

 笑っていた人たち。


 名前を呼んでくれた声。

 

 

 ——全部。

 

 

「……うそ……」

 

 

 膝が、崩れる。

 

 

「……私……どこで……」

 

 

 呼吸が乱れる。



 よぎる優しかった父と母の姿。

 

 

「……誰に……育てられて……」

 

 

 答えが、ない。

 

 

「……私って……」

 

 

 その瞬間。

 

 

 ターニャが、手を掴んだ。

 

 

「大丈夫」

 

 

 強く。

 逃がさないように。

 

 

「そんなものは気にしないで」

 

 

 まっすぐな声。

 

 

「大事なのは、“今”でしょ」

 

 

 リリの視線が、揺れる。

 

 

「この英雄ターニャと一緒に旅してるんだからさ」

 

 

 少しだけ、笑って。

 

 

「それ以上に楽しい記憶なんて、ないでしょ?」

 

 

 強引で。

 でも、優しい言葉。

 

 

「……ターニャ……さん」

 

 

 涙が、こぼれる。

 

 

「だからね、リリちゃん」

 

 

 手を、引く。

 

 

「リリちゃんが泣きそうなときは、ターニャが手を取ってあげる」

 

 

 一歩、近づく。

 

 

「何度生まれ変わってもね」

 

 

 

 その言葉に。

 

 

 リリは、声を失った。

 

 

 ただ。

 

 

 その手を——

 

 

 強く、握り返した。

 

 

 

 風が、草原を揺らす。

 

 

 そこには、何もない。

 

 

 最初から。

 

 

 何も、なかった場所。

 

 

 けれど——

 

 

 二人は、そこに立っている。

 

 

 確かに、今を持って。

 

 

 ——それだけが、本物だった。

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