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大魔王ターニャんの致命的な誤算  作者: 籠崎 莉々
第二部

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第10話 息を潜めた街

物語が動き出す重大な場面です

 夜の空気は無機質な冷たさを紡ぎ、

 宿の外は、静まり返っていた。

 人の気配が、薄い。


「……ねえ、ターニャさん」


 リリが、窓の外を見たまま言う。


「うん?」


「ちょっと、静かすぎませんか」


 その言葉に、ターニャも視線を上げる。

 確かに——おかしい。

 昼間はあれだけ賑わっていた通りが、まるで息を潜めている。

 風の音だけが、やけに大きく聞こえた。


「……来るね」


 ターニャが、ぽつりと呟く。

 その直後だった。

 

 ——気配が、増えた。

 

 ドアでも窓でもない。

 “最初からそこにいた”みたいに。

 部屋の中に、黒い影が立っていた。

 

 全員、同じ装束。

 顔は仮面で隠されている。

 

 リリの呼吸が、一瞬だけ止まる。

 

「……聖教会特務部隊」

 

 絞り出すような声。

 

「ご名答」

 

 中央に立つ人物が、一歩前に出る。

 

「聖女リリ。そして——」


 視線が、ゆっくりとターニャへ向く。

 

「英雄ターニャ」

 

 その呼び方に、わずかな棘があった。

 

「随分と、好き勝手してくれているようですね」

 

 ターニャは、肩をすくめる。

 

「お仕事だからね」

 

「あなたにとってはただの仕事。けれど影響は計り知れない」

 

 淡々とした声。

 感情はない。ただ、判断だけがある。

 

「あなた方の存在は、すでに“秩序を乱す要因”として認識されています」

 

 リリの指先が、わずかに震える。

 

「……どういう、意味ですか」

 

 問いかける声は、かすかに揺れていた。

 

 隊長は、ほんの少しだけ首を傾ける。

 

「そのままの意味です」

 

 以上でも以下でもなく。

 

「ここに最終通告を行います」

 

 空気が、冷える。

 

「聖女リリエルは、聖教会の管理下に戻ること」

 

「英雄ターニャは——」

 

 わずかに間を置いて。

 

「“封印対象”として同行すること」

 

「……は?」

 

 ターニャの声は、あまりにも軽かった。

 

「それ、本気で言ってる?」

 

「ええ」

 

「断ったら?」

 

 その問いに。

 

 隊長は、迷いなく答える。

 

「あなたの“家族や関係者の安全”は保証されません」

 

 その一言で、場の温度が消えた。


 リリの瞳が、大きく揺れる。


「……え?」


 声が、かすれる。

 ターニャが、軽く肩をすくめる。


「私、孤児だけど?」


 あっけらかんとした返答。

 だが、男は視線すら動かさない。


「あなたには言っていません」


 間を置かず、切り捨てるように続ける。


「これは——聖女リリ、あなたへの通告です」


「……っ」


 息を呑む音。


「まさか……お父様と、お母様が……!」


 声が震える。

 ターニャの視線が、静かに横へ流れた。

 リリを見る。

 観察する。

 その反応を——逃さないように。


(……そういうことか)


 何も言わない。

 ただ、理解する。

 体の奥がざわつき、目を細めた。

 

 一方で、隊長は続ける。


「……村の名は、“レテ”だったな」


「‥‥‥!!」


リリの呼吸が浅くなった。


「はい。確かに記録に——」


部下が答え、さらに続ける。

 

「すでに手は回しています」

 

そして隊長はこう提案する。


「こちらの提案を受け入れるのであれば、無事は保証しましょう」

 

 ターニャが、小さく息を吐いた。

 

「へぇ」

 

 一歩、前に出る。

 

 それだけで、空気が歪む。

 

「それってさ」

 

 笑っているのに、目が笑っていない。

 

「“脅し”ってやつ?」

 

 言い終わるとすぐに―

 

 圧が、落ちた。

 

 見えない何かが、空間を押し潰す。

 

 黒衣の一団の足元が、わずかに沈む。

 

「……っ」

 

 誰かが息を詰まらせる。

 

 それでも、隊長だけは動かなかった。

 

「……交渉ではありません」

 

 声は乱れることもなく。

 

「これは、“通告”です」

 

 数秒、重たい沈黙が流れる。

 

 そして——

 

 ターニャが、ふっと圧を抜いた。

 

「……はいはい」

 

 軽く手を振る。

 

「今日はもう遅いし、帰っていいよ」

 

「——」

 

 隊長は、何かを測るようにターニャを見る。

 

「……明日までに、答えを」

 

 それだけ言って。

 

 黒衣の一団は、最初からいなかったかのように消えた。

 

 静けさの中、ひゅ、と息を吸う音。 

 

「……ターニャさん……!」

 

 リリが振り向く。

 その顔は、明らかに焦っていた。

 

「どうしよう……! 村に、戻らないと……!」

 

「うん」

 

 ターニャは、あっさり頷く。

 

「行こう」

 

「……え?」

 

「リリちゃんの“家族”でしょ」

 

 当たり前みたいに言う。

 

「助けに行くに決まってるじゃん」

 

 その言葉に。

 

 リリの目が、わずかに揺れた。

 

「……ありがとう」

 

 小さな声。

 

 ターニャは、少しだけ笑って——

 

「その代わり―次はプリン、二つともターニャのね」

 

「それはダメです」

 

「即答!?」

 

 ほんの一瞬だけ。

 

 いつもの空気が戻る。

 

 けれど——

 

 その裏で。

 

 確実に、“何か”が動き出していた。

プリンは譲れません

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