第9話 不穏の兆し
ご、GWだぁ‥‥!( ˶’ᵕ’˶ )
街道を外れた、森の縁。
空気が重かった。
"二人の"というわけではない。
これは森を取り巻く魔力の密度だった。
「……ここ」
リリが周囲を見渡す。
音が薄い。
「静かすぎるんだよねー」
ターニャがおどけたように言う。
「普通、この手の森ってさ」
「小動物とか、もっと気配があるはずです」
「だよね」
風が止んでいる。
鳥の声も、虫の羽音もない。
「それよりも森を満たしているこの魔力」
リリの声も、少しだけ固くなる。
「……いるね」
ターニャが小さく呟く。
リリは頷いた。
「はい。補足できています。かなり大きい……単独個体ですね」
リリが杖を構えてひと時ののち、
地面が、めくれ上がった。
――轟音。
土と根を巻き上げながら、巨大な影が姿を現す。
四肢は岩のように太く、皮膚は樹皮のように硬い。
そして、胸の中央に――不自然な“核”。
「……トレント変異種ね」
「ただのトレントではありませんね。あの核、魔力の集中が異常です」
ゆっくりと、怪物がこちらを向く。
赤く、光る。
「来るよ」
「知ってます」
2人が左右に散ると同時に、
振り下ろされた腕が、大地を砕いた。
ターニャは横に跳び、間合いを取る。
(硬いな……まともにやると時間がかかる)
そう判断した、そのとき。
「左、三歩。次、跳びます」
リリの声。
迷いはない。
ターニャは考えるより先に、体が動いた。
――踏み込み。
同時に、足元に光が走る。
「加速、付与」
体が軽い。
視界が、引き延ばされる。
次の瞬間、巨大な腕が振り下ろされる“前”に潜り込んでいた。
(……早い)
違う。
(合わせてる)
「次、来ます。防御」
背後から迫る枝の槍。
――弾かれる。
透明な障壁。
「右、核が露出します」
その言葉と同時に。
怪物の胸部が、わずかに開いた。
(なんでわかるの?)
考える暇はない。
ターニャは、そのまま跳躍する。
振りぬく剣に、腕に、リリの魔力が乗っている。
(それに、これは――)
核を、叩き割る。
鈍い音が響き、核が炎に包まれた。
(属性付与まで……いつの間に?)
巨体が、崩れ落ちた。
核が燃えたからか巨体を構成する木も燃えていく。
「……終わり、ですね」
リリが、息を整えながら言う。
ターニャは、しばらくその場に立ち尽くしていた。
(今の……)
完璧すぎる。
判断も、タイミングも、全部。
“考える余地がなかった”。
「ねえ、リリちゃん」
「はい?」
「……いつ見てたの?」
「最初からですけど?」
きょとんとした顔。
当たり前のように。
(いや……)
違う。
(“見てた”んじゃない)
もっと、深い。
まるで――
(……なんだ、今の)
「……どうかしました?」
「いや」
ターニャは小さく息を吐く。
「やっぱりリリちゃん、すごいね」
「それも知っています。スーパー高性能美聖女と呼んでくれても良いですよ」
「スーパー高脂肪聖女」
「えっ、いま変な単語入れませんでした?」
「ううん、いれてない」
こんなときでも軽口を叩けるのはありがたい。
リリの表情は、いつも通りで。
――だからこそ。
少しだけ、怖い。
(……このまま)
(全部、リリちゃんの言う通りに動いたら)
ふと、そんな考えがよぎる。
——振り払う。
「どうしたんですか?蜘蛛の巣にでも引っかかったんですか?似合ってますよ」
「‥‥‥」
こちらの悩みを知ってか知らずか普段通りのリリに、ターニャはふっ、と息を吐いた。
森を抜ける。
草原を凪ぐような爽やかな風が吹いた。
二人の髪を梳いて流れていく。
「さっきの、そこそこ強かったですね」
「うん。あれは単独で出てくるレベルじゃないでしょ」
「そうですね。……誰かが“配置”した可能性もあります」
「……は?」
ターニャが眉をひそめる。
「どういうこと?」
「自然発生にしては、場所が不自然ですから」
さらりと言う。
(……誰かが、置いた?)
「……“ここにいた”みたいでした」
まるで——
待っていたみたいに。
違和感が、ひとつ。
「……ま、いいや」
ターニャは肩をすくめる。
「倒せたし」
「そうですね」
今日の仕事はこれで終わり。
「さて、町に戻って休みましょうか。買い出しもしないともぐもぐ」
「えっ、リリちゃん何食べてるの?」
「ターニャさんもそろそろおやつ補充しないとですしね」
「ねぇ、リリちゃん。ターニャのポッケに入れておいた焼き菓子知らない?
見当たらないんだけど」
「ちょっとわからないですねぇ‥‥‥なくなっちゃったんですか?
不思議なこともあるものですねぇもぐもぐ」
「それ、ターニャのだよね!?呼吸するように嘘つくじゃん!?」
「ターニャさん」
「ん?」
「さっき、無駄がなかったです」
「それ褒めてる?」
「褒めてますよ」
「じゃあもっとわかりやすく言って」
「すごいですぅ」
「雑ぅ」
笑い合う二人の声。
「ごまかさないで!おやつ!ターニャのおやつ!」
「ターニャさんはがめついですねぇ」
「ちょっとこの聖女(?)手癖悪すぎー!」
騒ぎながら街へと向かう二人。
この心地よさは、
どちらか一人だけのものではないと信じたかった。
けれど。
違和感は残る。
お互いにお互いの存在に引っ掛かりを覚える。
それでも――
二人の旅路は続いていく。
その時まで。
GWだしちょっと贅沢に焼き菓子買いに行こうと思ってます。




