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大魔王ターニャんの致命的な誤算  作者: 籠崎 莉々
第二部

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第8話 いつものふたり

プリン回

 朝の空気は、まだ少しだけ冷たい。


 街道を外れた草原に、二つの影が並んでいた。


「……いたね」


 ターニャが目を凝らす。

 視線の先。 

 群れを成した魔物が、低く唸り声を上げていた。


 頭部は狼、その下は筋骨隆々の獣の毛が生えた男の体。

 ワーウルフの一団だ。

 数は十数体。 大型種が三、小型種がその周囲を囲んでいる。


「どうしますか?」とリリ。


「どうするもなにも——」


 ターニャは一歩、前に出る。


「さっさと終わらせて、朝ごはんにしよ」


 その声音は軽い。 

 けれど、言い終わると同時に―空気が弾けた。

 

 ——速い。

 

 地面を蹴った音すら遅れて聞こえる。

 最前列の魔物の首が、何が起きたか理解する前に落ちた。


「え」


 リリが小さく声を漏らす頃には、もう三体目が崩れ落ちている。

 だが、そこで——


「右」


「了解」


 リリの声が差し込まれる。

 ターニャは振り向きもせず、体をひねる。

 背後から飛びかかってきた影が、空中で弾かれる。

 透明な障壁。

 リリの支援魔法。


「ナイス」


「どういたしまして」


 短いやり取り。

 無駄はない。

 言葉が少なくても、動きが噛み合う。

 

 以前までとは、明らかに違う。

 

 ターニャが踏み込み、大型種の懐へ入る。


 振り上げられた腕を紙一重でかわし、そのまま懐へ。


 地を滑らせた剣が獣の胸を切り裂き――

 巨体が、ゆっくりと崩れた。


 最後の一体が逃げようと背を向ける。


「逃がす?」


「まさか、ですよ」


 リリにの手には光の矢が顕現していた。


「ホーリーアロー」


 風が裂け、遠くの影を貫いた。

 リリは索敵魔法で反応を確認する。


「生命維持活動、停止」


「終わり、だね」


 ターニャが肩を回す。


「うん。今日も早かったですね」


 リリが微笑む。

 

 その様子を、少し離れた場所から見ていた人々がいた。

 

「……すごいな」


「噂には聞いてたけど……」


 村人たちが、ざわめく。

 誰かが、ぽつりと呟いた。


「本当に、あの子たちだけで……」

 

 やがて、一人の老人が前に出る。


「助かりました……本当に」


 深く頭を下げる。

 それに続くように、周囲の人々も頭を下げた。

 

 ターニャは、少しだけ目を丸くしてから——


「いえいえー、どういたしまして」


 嬉しそうにターニャが笑う。


 その横で、リリがぺこりと丁寧に頭を下げた。


「お役に立ててよかったです。対価分の働きはできましたね」

 

 対照的な二人。


 けれど、その空気はどこか柔らかい。

 

「これ、よかったら……」


 村の女性が、小さな包みを差し出す。


 布に包まれたそれは、ほんのり甘い香りがした。

 

 宿へ戻る道すがら。

 

「開けていい?」


 ターニャが包みを掲げる。


「どうぞ」

 

 中には、小さな瓶が二つ。

 白く、なめらかな——

 

「プリンだ」

 

 ターニャの目が、少しだけ輝く。


「いいね、これ。あとで食べよ」

 

 ――そして。

 

 数時間後。

 

「…………」

 

 ターニャは、机の前で固まっていた。

 

「……ない」

 

 もう一度、確認する。

 

「ない」

 

 瓶の中身が。


 二つとも。

 

 ゆっくりと、振り向く。

 

 ベッドの上。

 リリが、にこにこと座っている。

 

 口元に、ほんの少しだけ——甘い痕跡。

 

「リリちゃん」

 

 静かな声。

 

「なに?」

 

 きょとんとした顔。

 

 ターニャは、一歩近づく。

 

「……また勝手にターニャのプリン食べたでしょ!?」

 

「ᐠ( ᐢ ᵕ ᐢ )ᐟ」

 

「その顔やめろ!!」

 

「おいしかったよ」

 

「感想じゃねぇ!!返せ!!」

 

「もうないよ」

 

「知ってる!!」

 

 ターニャは、大きくため息をついた。

 

「……1個は残すとか、そういう発想ないの?」

 

「なかった」

 

「即答すんな」

 

 リリが、少しだけ笑う。

 

「じゃあ、今度は一緒に食べよ?」

 

 その言葉に。

 

 ターニャは、少しだけ視線を逸らして——

 

「……最初からそうしろよぉ」

 

 ぼそっと呟いた。

 

 

 窓の外。

 夕焼けが、街をやさしく染めている。

 

 誰かが笑い、誰かが今日を終える。

 

 その中に、二人もいる。

 

 少しだけ近くなった距離で。

 

 少しだけ、当たり前みたいに。

 

 

 ——関係は、もう“少し”じゃなかった。

 

 確かに、変わり始めている。

 

 

 そのことに。

 

 まだ、二人は気づいていない。

͟͟͞͞= ͟͟͞͞=(‘〇’- )スゥ-

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