第7話 選択に宿る意思
それは、唐突に現れた。
「対象を確認」
森の中。
黒衣の一団が、道を塞いでいた。
「聖教会特務部隊です」
リリが低く呟く。
「へえ」
ターニャは、特に警戒もせずに立ち止まる。
「何の用ですか?」
リリが前に出る。
「対象——ターニャの身柄を拘束します」
空気が、ヒリついた。
「理由は?」
「危険因子と判断されたためです」
隊長と思わしき男が簡潔に答えた。
リリの指先が、わずかに強張る。
(早すぎる……)
まだ報告は途中のはずだった。
「拒否した場合は?」
リリが問う。
「実力行使に移行します」
声に迷いはない。
「リリちゃん」
背後から、ターニャの声。
「これ、どういう状況?」
「……拘束命令です」
「ふーん」
いつものように軽く答える。
「で、どうするの?」
その問いは——
リリに向けられていた。
判断を、委ねている。
(私は——)
聖教会の人間だ。
命令に従うべき立場。
だが。
脳裏に浮かぶのは英雄ターニャではなく、
ただのターニャ。
そして——
「ちゃんと見ててよね」
あの言葉。
「……」
リリは、一歩前に出た。
視線を落とし、それでも顔を上げた。
「この件は、再評価が必要です」
はっきりと告げる。
「現時点での拘束には、合理性がありません」
空気が、変わる。
「聖女リリ」
黒衣の一人が低く言う。
「それは命令への反抗と見なします」
「構いません」
迷いなく、意思のこもった返答。
「責任は、私が負います」
聖女がここまで言ったことで、立場が、変わった。
「……了解」
黒衣の一団は、ゆっくりと退いた。
監視は、続くだろう。
だが——この場は引いた。
静寂が戻る。
「……びっくりした」
ターニャがぽつりと言う。
「止めないと思いました?」
リリが振り返る。
「うん」
正直な返答。
「そういう立場だったし」
「でした、です」
リリは訂正する。
「今は違うの?」
一瞬だけ、迷って。
「……まだ、わかりません」
それが本音だった。
ただ——
「少なくとも」
ターニャを見る。
「今は、あなたを拘束する理由はないと思っています」
はっきりと、言う。
ターニャは、少しだけ笑った。
「そっか」
それだけだった。
けれど——
その一言は、不思議と軽くなかった。
草が、かすかに揺れた。
関係が、少しだけ——変わった。




