第12話 存在しない村
GWはお芝居を見たり、カフェに行ったり、小説を書いたりしています。
皆様におかれましても良き休日を過ごされますように。
森を抜けた先。
報告にあったはずの村は——
存在しなかった。
草原。
ただ、それだけだった。
生活の痕跡はない。
建物の跡も、火の跡も、足跡すらも。
まるで——
最初から、誰もいなかったかのように。
「……どういうことだ」
隊長の声が、低く沈む。
部下が震える声で答える。
「記録では、確かに……この位置に村が……」
「分かっている」
苛立ちを押し殺すように言う。
この情報は偽装ではない。
聖教会本部に保管されていた正式記録。
教皇すら把握している。
——間違いようがない。
なのに。
「……消したのか?」
誰かが、呟く。
隊長は、ゆっくりと首を振った。
「違うな」
一歩、草原へ踏み出す。
風が、草を揺らす。
「これは“消された”んじゃない」
しゃがみ込み、地面に触れる。
違和感はない。
不自然なほど——自然だ。
「……最初から、ここには何もなかったように整えられている」
沈黙の中。誰かの息をのむ音が聞こえた。
「では……誰が……」
その問いに、隊長は答えなかった。
代わりに、ゆっくりと立ち上がる。
「聖女が——」
一度、言葉を切る。
「“先を見て動いた”可能性がある」
「そんな……!」
「あるいは——」
視線が、わずかに揺れる。
「我々が掴まされている情報自体が、“既に古い”」
その言葉の意味を理解した瞬間。
空気が変わった。
「……まさか」
「聖女は、我々の知らない情報網を持っている……?」
誰かが呟く。
隊長は、否定しない。
むしろ——
「あるいは」
さらに低く。
「“我々の知らない聖女”がいる」
風の音だけが響く。
隊長の額に、わずかな汗が滲んでいた。
(……想定が甘かったか)
あの少女は——
ただの“保護対象”ではない。
もっと別の何かだ。




