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大魔王ターニャんの致命的な誤算  作者: 籠崎 莉々
第二部

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第1話 はじまりの風は、まだやさしく

第2部開始です。舞台は第1部より1000年前の話になります。

草原を、風が渡っていく。


青はどこまでも広がり、空は高く、雲はゆっくりと流れていた。


「リリちゃん、おそーい」


呆れたような声が、風に乗る。

振り返った先。

そこには、ひとりの少女――いや、聖女がいた。

白い衣に、金の髪。

少しだけ息を弾ませながら、駆けてくる。


「待ってください、ターニャさん!薬草は丁寧に摘まないと効果が落ちるんです!」


「おん?」


ターニャは腕を組む。


「敵は待ってくれないよ?」


「これは敵じゃありません!」


「似たようなもんでしょ」


「全然違います!」


ターニャは少し考えてから、うんうん、と頷く。


「ま、いっか」


あっさりしている。


「で、どれがその薬草なの?」


「さっき説明しましたよね!?」


「聞いてたけど?」


「覚えてないですよね!?」


「どうせ集めるのリリちゃんだし気にしなくて良いよね?」


「気にしてください!」


リリはため息をつきながら、しゃがみ込む。

指先で、ひとつの草を示した。


「これです。“リーファ草”」


「ふむぅ」


ターニャも覗き込む。


「ただの草にしか見えにゃい」


「だからこそ見分けが大事なんです」


そう言って、丁寧に根元から摘み取る。


「これは傷薬になります」


「ふむぅ」


「他にも、熱を下げたり、痛みを和らげたり……」


「万能なのね」


「はい。だから、こういう場所に自生してるのは貴重なんです」


リリはそう言って、少しだけ微笑んだ。


「助かる人が、たくさんいますから」


「……」


ターニャは、その横顔をじっと見ていた。


「なんですか?」


「いや」


ふい、と視線を逸らす。


「リリちゃんは、そういう顔をするよね」


「どういう顔ですか」


「世界を救いそうな顔」


「……」


一瞬の沈黙。


「はぁ」


「なんでため息!?」


「私だけじゃ無理ですよ。戦闘要員は脳筋のターニャさんに担ってもらわないと」


「誰が脳筋か。リリちゃんだって物理でも魔法でもどっちでも行けるでしょ」


「私、か弱いものですから」


「ダウト」


「ダウトじゃねーし」


お互いに軽口を叩きながらも、どこか楽しそうに二人は笑った。





森から戻る途中、ターニャが言う。


「あ、ちょっとこっち近道じゃない?」


「絶対違うと思う」


即、否定。


「大丈夫だって、ターニャの勘を信じなよ」


「その勘で何回迷ったと思ってるの?」


ため息をつきつつも、ターニャの後ろを追いかけるリリ。

近道どころか森の奥へ足を踏み込んでいた。


ふと、リリが立ち止まる。


「……あれ?」


「どうしたの?ターニャ迷ってないよ!(汗)」


リリは、しゃがみ込む。


そこには、淡く光を帯びた白い花。


風もないのに、かすかに揺れている。


そして、それが——一面に広がっている。


「これ……サナスの花」


リリが呟いた。


「サナス?」


「女神サナスタシア様のお名前から取られてるの」


少しだけ、声の調子が変わる。


「人と女神は、同じ階層に存在できないって言われてる」


「この花はね、人が立ち入らない場所にしか生えないの」


「だから——」


リリはほんの一瞬、言葉を切った。


「これが群生している場所は、“人がいない場所”ってこと」


「へぇ〜、じゃあターニャたちアウトじゃん」


「……」


「ほら見てよ、踏み荒らしてるよ完全に」


「もういいから戻るよ」


「怒られた」


「ターニャさん、先頭だとすぐ迷子になるから私が前を行きます」


「えっへん」


「無い胸張ってどうしたんですか?」


「えっ、いまナチュラルに悪口言った?」


そうしてたどり着いた森の外。


開けた草原に出たすぐあと、風が、変わった。


「……来るよ」


ターニャの声が低くなる。

空気が張り詰める。


「はい」


リリはすぐに魔力を巡らした。

次の瞬間。

草原の向こうから、影が現れる。

魔物。

低く唸りながら、こちらへと駆けてくる。


「オーク型、三体かぁ」


ターニャは一歩前に出た。


「右の一体だけ任せるね」


「はいはい」


「いつもの金剛斧でサクっと真っ二つにしてあげれば良いよ」


「私、斧とか使ったことないんですけど!?」


言いながら、リリは杖を構えた。

ターニャも小柄な身体からは不釣り合いの大剣を構える。


「さて、いこうか」


「いきます!」


瞬間――

ターニャが踏み込んだ。

速い。

一瞬で距離を詰め、最初の一体を叩き伏せる。


リリも高速詠唱を開始し――


「ホーリーアロー!」


一筋の光の矢がオークの心臓を貫いた。

ターニャは大剣を返し、残りの一体を両断する。


「ふぅ」


「まぁ、こんなもんよね」


「でも、上位種でしたよ」


「そうなの?」


「……やっぱりターニャさんはすごいですね」


ぽつりと、リリが言う。


「英雄だからね!」


ドヤ顔である。


「はいはい」


少しだけ笑う。

そして、ふと。


「……でも」


視線を落とす。


「私も、頑張ります」


「ん?」


「隣に立てるように」


小さな声だった。

だが、確かに届いた。

ターニャは一瞬だけ目を細め――

すぐに、いつもの調子で言った。


「ターニャの隣は、誰にでも務まるものではないからね!」


「あ、やっぱり私は後ろに下がりますね。物理に強そうな体に守ってもらわないと」


「リリちゃんほどではないよ」


「いやいや、ターニャさんほどでは」


軽口を叩きながら、笑う。


風が、やさしく吹いた。


まだ、この旅は――


穏やかだった。



何も失っていない。


何も壊れていない。


ただ、


ふたりで歩いているだけの時間。


それがどれほど尊いものかを、


まだ誰も知らない。


第1部より第2部の方が少し長めになります。

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