第2話 その一手は誰のもの?
GW前哨戦として野外劇を見に行ってきました。
素晴らしすぎて己の未熟さをただただ恥じ入るばかりです。
遅い——と、思った。
詠唱も、動きも、すべてが。
目の前で杖を構えるリリを見ながら、ターニャは内心で小さく舌打ちする。
(隙が多い……)
魔物はすでに間合いの内側。
この距離でそんな悠長な構えをしていれば——
狙われる。
案の定、魔物は一直線にリリへと突っ込んだ。
「っ、危ない!」
地を蹴る。
間に合う距離ではない。
だが、間に合わせるしかない。
——その瞬間だった。
「——付与、完了です」
何も問題ないような落ち着いた声。
次の一歩を踏み込んだ瞬間、違和感が走る。
(……軽い?)
握っている武器に重さを感じない。
視界の端で、魔物の動きが鈍る。
足取りが、明らかに遅い。
違う。
速くなったのは自分だ。
いや――
(……そうじゃない)
思考が一瞬だけ止まる。
リリちゃんは——
理解が追いつく前に、体が決着をつける。
まるで空気のように振り抜いた先の一撃。
鈍い音とともに、魔物の身体が崩れ落ちた。
静まり返る。
土煙の向こうで、リリがいつも通りの顔でこちらを見ていた。
「大丈夫でした?」
何事もなかったかのように。
ターニャは、しばらく言葉が出なかった。
(遅いんじゃない)
(あれは……)
ゆっくりと、息を吐く。
「……付与までの展開が早すぎる……」
ぽつりと、こぼれる。
リリがきょとんと首を傾げた。
「そうですか?」
「そうだよ。バカなの?」
「なっ!ターニャさんに言われたくないですよ!脳筋野蛮暴虐大魔王のくせに!」
「悪口、並べすぎじゃない?」
ターニャは思い出す。
間違いない。
あの一連の動きは——
自分に“合わせていた”。
ターニャが踏み込むタイミング。
攻撃の軌道。
当たる瞬間。
すべてを見越して、整えていた。
(……怖いな)
素直にそう思う。
だが同時に、口元が緩む。
「やっぱりリリちゃん、すごい」
そう言うと、リリは少しだけ照れたように笑った。
「そんなこと‥‥ありますね」
「あるのかよ」
「私、歴代最高のスーパー高性能美聖女ですから」
「装飾語つけすぎなんよ」
おどけたように言うリリを見て、ターニャは思う。
(ああ……)
(この子と組めば——)
負ける気がしない。
―宿に戻るまでの街道―
しばらく歩いたあと、リリがぽつりと言った。
「さっきの魔物、少し弱ってましたね」
「ん?そう?」
「ええ。だから、あの付与じゃ少し過剰でした」
「……過剰?」
素朴な疑問。
「倒せたんだからよくない?」
「よくないですよ」
間を置かずに返ってきた。
「必要以上は、無駄ですから」
だがその言葉に、ターニャは引っかかる。
「ターニャさんは、強いですね」
「急にどうしたの?」
「だから、ちょっと雑です」
「ああ、リリちゃんの私生活の話ね」
「全然違いますけど!?」
「相部屋にしなくてよかったよ、ほんとに」
「う、うぐぐ」
さすがに思うところがあったのか、リリが押し黙る。
(“無駄”……ね。リリちゃんは、そう考えるのか)
けど、それだけで割り切れるほど——
人は単純ではない。
観劇後にキッチンカーで買ったふりふりポテト、美味でした。




