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大魔王ターニャんの致命的な誤算  作者: 籠崎 莉々
第一部

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16/33

第16話 あの日、置き忘れてきたものは、

第一部、もう少しでクライマックスです。

風が、戻っていた。


止まっていたはずの世界は、何事もなかったかのように動き出し――


ただ、その場に残された“違和感”だけが、消えずに漂っている。


「……」


聖女リリーは、足を止めた。

振り返らない。

だが、確かにそこに“何か”を置いてきた感覚があった。

そっと、自分の手を見る。

わずかに――震えていた。


「……楽しい、などと」


ぽつりと、呟く。

あり得ない。

戦いは、討つべきもの。迷うべきではない。

感情を挟む余地など――


「私は……なぜ、あの戦いを——」


言葉が、途切れる。

胸の奥に、引っかかるものがある。

だがそれは、形にならない。


「……」


目を閉じる。


思い出そうとして――思い出せない。


それでも。

確かに“何か”が、あった。


「……確かめる必要があります」


小さく、そう呟き、リリーは歩き出した。




「……行ったか」


勇者アレクは、剣を肩に担ぎながら息を吐いた。

視線の先では、聖女の気配が完全に遠ざかっている。


「なんだったんだ、あの空気……」


眉をひそめる。

戦いの最中に、唐突に終わった感覚。勝敗も、決着もない。

ただ――


「……妙に、静かだったな」


ぽつりと漏らしたその言葉に、


「そう?」


軽やかな声が重なった。

ゾフィーだった。

すでに戦闘の構えは解き、いつもの柔らかい笑みを浮かべている。


「私はけっこう楽しかったけど?」


「楽しいってお前な……」


呆れたようにアレクは息を吐く。


「俺たちは敵対してるんだぞ」


「敵対…ですか…あなたは何と戦っておられるのですか?」


「………!!」


アレクはゾフィーがもう戦う意思がないことを知っていた。


「俺も…帰るよ」


「うん」


ゾフィーはあっさり頷いた。

そして、ひらひらと手を振る。


「じゃあね、勇者くん」


にっこりと、無邪気に笑う。


「また遊ぼうねー」


「……は?」


間の抜けた声が出た。


「遊びじゃねえんだよ!」


思わず叫ぶが、

その頃にはもう、ゾフィーはくるりと背を向けていた。

軽い足取りで、魔王のもとへと戻っていく。


「……なんなんだ、あいつら」


ぽつりと呟くアレクの声は、誰にも届かない。





「ふむ!」


その頃。

当の魔王ターニャんは、満足げに腕を組んでいた。


「なかなかやるではないか、あの聖女!」


うんうんと、ひとりで頷く。


「久々に骨のある相手であったぞ!」


やたらと上機嫌だった。


「……ターニャ様」


戻ってきたゾフィーが、くすりと笑う。


「随分ご満悦ですね」


「当然じゃ!」


ターニャんは胸を張る。


「強き者と戦うのは良いことじゃ!余の威厳も高まるというもの!」


「威厳、ですか?」


「そうじゃ!」


びしっと指を立てる。


「恐怖による支配には、適度な見せ場が必要なのじゃ!」


「なるほどなるほど」


ゾフィーは頷きながら、


「でもあの聖女さん、途中でぼーっとしてましたよ?」


「うむ」


ターニャんはあっさり答えた。


「隙だらけであったな!」


「そこを攻めたりしないんですね」


「魔王たるもの正々堂々じゃからな!」


(魔王っぽくない)


「まあよい!」


ターニャんは気にした様子もなく、くるりと背を向けた。


「次に会う時は、完全に支配してくれるわ!」


高らかに宣言する。


その姿は、どこまでも自信満々で――

どこまでも、いつも通りだった。




夜。

静かな部屋。

聖女リリは、ひとり座っていた。

灯りは小さく、影が揺れている。


「……」


ゆっくりと、目を閉じる。


意識が、深く沈んでいく。


すると——


不意に。


声がした。



『……私と……旅した記憶は……』


『……本物でしょ?』



はっと、目を開く。


「……今のは」


誰の声か。


考えるまでもない。


それなのに——


「……知らないはずの、声がする」


胸の奥が、わずかに痛む。


理由は、わからない。


気づけば——


頬を、雫が伝っていた。


「……私は」


 そこで、言葉が止まる。



 続きが——わからない。



 まるで“その先だけが、消えている”みたいに。

最後までお付き合いいただけるっと、大変うれしいです。

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