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大魔王ターニャんの致命的な誤算  作者: 籠崎 莉々
第一部

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第12話 腹心と聖女に疑われる大魔王

最初はコメディのみで行こうかと思っていたのに‥‥

―魔王領 外れ―


「……理解できない」


 勇者アレクは、地面を見つめたまま言った。


「魔王は……悪のはずだ」


 拳が震えている。


「なのに……あの国には……」


 言葉が詰まる。

 思い出すのは、笑顔。

 温かいパン。 整った街。 誰かを思いやる言葉。


「……救う必要が、ない」


 それは勇者として、最も言ってはいけない言葉だった。

 少しの沈黙。

 風が吹く。

 その中で――


「だからこそです」


 聖女リリーは、静かに言った。


「……何がだ」


「危険なのは」


 一歩、踏み出す。


「あの“完成された世界”そのものです」


「……は?」


 アレクは顔を上げる。


「人は、不完全であるべきです」


 リリーの声は冷静だった。


「迷い、間違え、悩みながら進む」


「それが、人です」


 わずかな間。


「ですが、あの国には――それがない」

 

 確証のような断言。


「揺らぎが存在しない世界は」

 

 視線を下げ、目を細める。


「“人の世界”ではありません」


「……」


 アレクは何も言えなかった。

 ただ、理解できない。


「……でも」


 やっと絞り出す。


「人は……幸せそうだった」


「ええ」


 あっさりと肯定。


「だから厄介なのです」


 その一言が、重かった。


「……昔」


 ぽつりと、アレクが呟く。


「俺は……救えなかった」


 リリーは何も言わない。


「村が一つ、滅びた」


 それだけだった。


「そのときも……」


 目を閉じる。


「“大丈夫だ”って言われてた」


 リリーは沈黙したまま次の言葉を待った。


「……結果は……」

 

 拳を握る。


「だから俺は――」


 顔を上げる。


「もう、間違えたくない」


「ええ」


 リリーは、わずかに頷いた。


「だからこそ」


 道の先を見る。


「確かめましょう」


 視線の先には――魔王城。


「“正しいのか”を」





―魔王城・執務室―


 書類が山積みになっていた。


「ターニャん様、こちら決裁を」


「多いのじゃ!」


「税収報告とインフラ予算です」


「よくわからんのじゃ!」


(完全に国家運営)


 ゾフィーは、静かにペンを走らせていた。

 淡々と。 正確に。 迷いなく。


(干ばつ対策、完了)

(物流経路、最適化)

(医療配置、再調整)

(教育機関、拡張)


 一つずつ、処理していく。


 すべては――


「これ、掲示板に貼っておくのじゃ!」


 ターニャんの雑な指示から始まったものだった。


「内容は任せるのじゃ!」


「はい」

(ほぼ丸投げですね)


 だが。


(結果は――)


 ペンが止まる。


(すべて、最適解)


 無駄がない。 偏りがない。 破綻がない。

 人が生きるために必要なものが、 すべて整っている。


(……私が整えている)


 事実だった。

 制度も。 流れも。 実務も。

 自分が構築した。

 だが――

 ゆっくりと視線を上げる。


「くくく……忙しいのう!」


 玉座で笑う魔王。


(この人は)


 考える。


(何も考えていない)


 命令は曖昧。 意図はズレている。 理解もしていない。

 なのに――


(なぜ、成立する)


 沈黙。

 そして、ひとつの結論に辿り着く。


(この人は)


(“結果だけ”を正解に導いている)


 思考ではない。 設計でもない。


(偶然……?)


 否定する。


(違う)


 ここまで積み重なった“正しさ”は、 偶然では成立しない。


(では――)


 視線が細くなる。


(誘導されている?)


 誰に?

 その答えは、目の前にある。


「ゾフィーよ!」


「はい」


「人間ども、ちゃんと苦しんでおるかの?」


「……いえ」


「なぜじゃ!?」


(なぜでしょうね)


 口をつぐむ。

 そして――

 ゾフィーの中で、もう一段、思考が進む。


(この人は、“善をなそう”とはしていない)


(だが結果的に、最善になる)


(私はそれを補完している)


 つまり。


(私がいなくても――)


 一瞬、思考が止まる。


(……いや)


(この人は、別の形で同じ結果に辿り着く)


 確信に近い何か。

 そして。

 静かに結論が繋がる。


(意図せず、世界を最適化している)


 呼吸がわずかに乱れる。


(それは“救い”だ)


 だが同時に――

 背筋に、薄く冷たいものが走る。


(最適化されすぎている)


 揺らぎがない。 余白がない。 逸脱がない。

 それは――


(選択の余地がない世界)


 人が人であるための“無駄”が、 削ぎ落とされている。

 そして。

 その答えに辿り着く。


(それが――)


 指先が、わずかに止まる。


(“歪み”になっている)


 ゾフィーは、ゆっくりと目を閉じた。


(この人は)


(魔王ではない)


 だが――


(人でもない)





―魔王領 外縁―


 リリーは立ち止まる。


「……ここから先ですね」


「……ああ」


 アレクが頷く。


「戦うのか」


「ええ」


 迷いはない。


「勝つためではありません」


「……?」


「確かめるために」


 その目は、真っ直ぐだった。


「魔王ターニャん」


 静かに呟く。


「あなたが――」


 一歩、踏み出す。


「“何者なのか”を」

当初の予定と変わって物語やキャラクターが動いてきたのかなぁ、って感じています。

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