7話
さっき感じた不安とは裏腹に順調に森の中を進んでいる
「よっと、おい!3匹そっちいったぞ!」
「まかせて!大いなる水の力よ、我が意に従い敵を撃て!ウォーターボール!」
俺たちは一角兎の群れと戦っている
村田さんが前で一角兎を引きつけ、川村さんが後ろから魔法で砲撃する
俺がソフィアの近くで護衛して、近づいてきた一角兎を魔力弾で攻撃する、そして渡辺さんが木の上から弓を構えている
そうして最初は20匹は超えていたであろう一角兎の群れは残り2匹になった
すると残った一角兎は突如別の方向に逃げ出した
「あっ逃げられる!」
「逃がさないよ」
渡辺さんがそう呟くと、素早い動きで弓を2連射した
放たれた矢は2本とも命中し、一角兎の命を奪い去った
「お疲れ様です。今回復しますね」
ソフィアが労いの言葉をかけ、回復魔法の詠唱を開始する
「いい感じに連携できたな」「だね」そんな会話をしてるのが聞こえる
俺は役に立てているんだろうか?俺がいなくてもこの班は何事もなく試験をクリアしてしまうんじゃないんだろうか
一度湧き出した考えは止まらない
思考の深みに落ちていく中、「陽斗君も!」と聞こえた気がした
「ん?何か言った?」
「陽斗君もうまく連携できてたよって」
「そうなのか?」
「大丈夫だ、ちゃんと連携できてたぞ」
「えぇ、上から弓打ってるだけの私は連携って意味ならほとんど出来てないわよ。だから自信持ちなさい」
「そうなのか…」
そう話してると俺たちの体が淡い光に包まれた
「回復魔法をかけました。それと加護も同時に付与しました。身体能力の上昇と、ある程度の攻撃を防ぐバリアの効果があります」
その後探知魔法で旗の方向を確認し、その方向に向かって歩きだした
その途中でまたもや遠くから爆発音のような音がした
「派手にやってるね~」
川村さんが気の抜けた発言をする
「……いえ上級生の試験にしても派手すぎる気もします。もしかしたら…?」
ソフィアが考え込むが
「他のことを考えてる暇はなさそうだぜ」
村田さんがそう言うと、前から魔石狼の群れが出てきた
やることは前と変わらない、村田さんが前に出て魔石狼を引き付ける
その間に川村さんが魔法を詠唱する
違う点は俺も魔力弾を発動させたり、渡辺さんも弓を使った魔法を発動させているという点だ
何せ魔石狼は単体でも2級に位置する。群れならその分、危険度が上がるということだ
「ウィンドアロー!」
渡辺さんが魔法を放つ。風を纏った矢が二つ放たれ、魔石狼に向かっていく。1つは急所に命中したが、もうひとつは胴に当たった
「皇流ーー双刃!」
村田さんがそう叫ぶと魔石狼に向けて2連撃が叩き込まれ、首を飛ばした
順調に戦う俺たちを危険視したのか、他の個体より一回り大きめの、おそらく群れのボスであろう魔石狼が吠え、その周りに集まりだした
そこに俺が魔法を打ち込む
ソフィアから受けたアドバイス。魔力弾でも魔力を貯めるか、それが難しいなら連続して打てばいい、魔力量が多いならそこまでは問題にならない。その言葉通り魔力を貯めてから連続して撃つことにした
通常、魔法は詠唱した方が威力が出るが、魔力弾等の護衛魔法の類いは詠唱してもしなくても威力は大して変わらないという特徴がある
その特性を利用したやり方だ
ちなみに渡辺さんのようにすぐに使いたい魔法は無詠唱で使うこともある。もっともそれも練習しないといけないが
魔力を貯めた大きな魔力弾を一発、それに続けて20発以上の魔力弾を放った
魔力弾の嵐は群れの中央に叩き込まれ、3体ほどを倒し、その他の魔石狼にも多少のダメージを与えた
「私たちに聖なる守りを!ホーリーシールド!川村さん今です!」
「任せて!おおいなる水の力よ我が意に従い、今ここに純然たる力を!スプラッシュ、レイン!」
ソフィアが障壁魔法を張り、川村さんが魔法を詠唱し、放った
魔石狼の群れの上からいくつもの水球が落ちてきた
それが魔石狼、あるいは地面に触れたその瞬間大きな音と共に爆発し魔石狼を殲滅した
「イェーイ!」川村さんがそう言ってハイタッチしてくる
ソフィアと渡辺さんと村田さんは川村さんとハイタッチした
村田さんは周りを警戒しながらではあったが
だが俺はそんな気になれなかった
「どしたの?」
「いやみんなはそれぞれすごいことしてたけど特に役に立ててなかった俺が、そんなことする資格あるのかな…」
「?みんな頑張ってたじゃん。だから資格とか気にする必要ないよ!ほらハイタッチ!」
「実際役に立っていたぞ?前衛俺一人だけだと圧力が足りないからな魔力量が大きい陽斗がいたから、川村さんが簡単に魔法を打てた。だからそんなに気にする必要ないぜ。それに支え合うのがチームだしな」
「役に立ててたのか、そうなのかな?」
「そうよ」と、渡辺さんからも声が飛んできた
そうして俺は控えめに川村さんとハイタッチした
回復を終えた俺たちは進み始めた
おもむろに村田さんが口を開く
「しっかし川村さんってそんなキャラだっけ?」
「今までは緊張してただけだし!それにソフィアさんが美しくて緊張してたってのもあるし」
「ソフィアでいいですよ、それに同じ生徒ですのでもっと気楽に接してくれていいですよ?」
そう軽口を叩きながら進んでいる
もっともソフィアは探知魔法を発動しながらだが
「もう気楽にしてるじゃない」
そんな声が上から飛んでくる
木の上を移動してる渡辺さんだ
そんな緩い雰囲気が漂い始めた頃
メキメキ、といった音がしたと思ったその瞬間
グルルル…グォオオ!
そんな唸り声が聞こえた
それと同時、いや少し早いぐらいのタイミングで
「皆さん!退避を!」
ソフィアがそう叫んだ
しかし、それは手遅れだった
音がした方向から現れたのは真っ黒な毛で覆われ、ところどころに黄色の毛が生えている、だいたい5メートルぐらいの大きさの熊だった
しかし本来は居てはいけないレベルの魔物だ、何せーー
「剛熊!?いえ地剛熊!危険度3級の魔物がどうしてここに!?」
ソフィアがそう叫ぶ
そう、危険度3級、
魔法高校の上級生でも単独で勝てるのは上澄みのみ。地域に出れば二桁の死者が出るのもおかしくはないような魔物だ
村田さんがすぐさま前に出る、しかし、地剛熊の大きな腕により吹き飛ばされる
村田さん!と叫ぶ暇もなく魔法を放とうとした川村さんに地剛熊の地魔法「ストーンブレイク」が放たれる
大きな岩石が川村さんに直撃し、炸裂した岩石にソフィアが巻き込まれた
そして次は俺ーー
「この!ウィンドアロー!」
渡辺さんが地剛熊に魔法を放つ。しかし地剛熊に少し刺さったがそれだけだった
しかし地剛熊は俺ではなく渡辺さんの方向を見た
気付いた時には、俺は逃げ出した
ただ、がむしゃらに。情けない悲鳴をあげながら
こんな、こんな化け物が出てくるなんて聞いてないぞ!何でこんなことに!?嫌だ嫌だ!!!
しかし、そんな悲鳴をあげれば、地剛熊の格好の標的になってしまう
地剛熊は猛スピードで陽斗を追いかける
そしてすぐさまに追い付き、腕によってなぎ払われた
幸運だったのはなぎ払われ、木に叩きつけられたにも関わらず意識を失わず、ある程度すぐに動けたことだった
しかし不幸なことに叩きつけられた先は地剛熊のすぐ近くの木だった
嫌だ!!死にたくない!死にたくない!!こんなところで!!こんなことで死にたくない!!!
陽斗は無我夢中で逃げる
火事場の馬鹿力と言うべき普段からは考えられないスピードで
しかし、地剛熊もすぐさま後を追ってきた
こうして命懸けの鬼ごっこが始まってしまったのだ




