番外編 双子の妖精と嫁の悩みごと
最近アルヴィドが妙に気持ち悪い。気持ち悪いと断言してしまうのは失礼かもしれないが、本当にその言葉しか思い浮かばないのだ。
正式にアルヴィドの未来の花嫁として決まった里愛に対し、ここ一ヶ月くらい毎日のように花を持ってきていた。
それも綺麗な薔薇の花を毎日一本ずつ。庭園から選定して持ってきているのなら皇妃様が怒りそうだが、今の所それはなかった。
むしろ周りの侍女たちはその光景を微笑ましそうに眺めているし、いまいち理解出来ない状態だった。
まあ、気持ち悪いと感じるのはそれだけが理由ではないのだが、今はそれが一番大きな理由だ。
部屋に飾られている花瓶にはすでに立派な花が生けてあるにも関わらず、持ってくるのだから何かしら意味があるのだろう。
しかし、この世界での常識など知らぬ里愛はその理由が分からない。
普段尋ねれば教えてくれる人たちも今回ばかりは何故か教えてくれず、お手上げ状態であった。
今日もまた薔薇の花が贈られるのだろうか。そんなことを思いながら何時ものように図書館で本を借りた帰り道のことだった。
回廊を歩いていると、突然声をかけられた。鈴を転がすような可愛らしい声音に、驚いたように振り返れば双子の美少女が立っていた。
一人は黒髪に柘榴色の瞳の少女。もう一人は銀髪に蜂蜜色の瞳の少女だ。
綺麗に結い上げられた髪には色違いの花が一輪ずつ飾られている。まるで春の妖精といわれれば納得してしまいそうな可憐なその姿に目が釘付けになってしまった。
双子にありがちなお揃いのドレスを着た美少女たちは嬉しそうに近づいてくる。
一人は満面の笑みを浮かべ、一人は完全に表情がない。
二人とも人形のような容姿なのに、表情があるかないかでここまで変わるとは思いもしなかった。
仲が良いのか、手を繋ぎながら里愛の前に立った少女達は楽しそうに口元をほころばせた。
「お久しぶりですわリディア様」
「一ヶ月ぶりですね」
「はい?」
一ヶ月ぶりと言われ里愛は瞳を瞬く。残念ながらこのような双子の妖精ちゃんに会ったのは初めてである。
確かに記憶力に自信がないとはいえ、これほど美少女を忘れることなど中々ないだろう。
しかし、美少女は不満そうに里愛を見上げながら唇を尖らせた。
「まさか、私のこと分からないのですか?」
「この姿を見た事がないリディア様からしていれば当然かと思うのですが」
「酷いですわ、リディア様ったら……一ヶ月一緒にいなかっただけで私のことを忘れておしまいになるなんて」
「ええっと……」
両手で顔を覆い隠してしまう銀髪の美少女の横で黒髪の美少女が呆れたような眼差しを片割れに向けている。
完全に蚊帳の外状態の里愛に気づいた黒髪の美少女がこちらに顔を向けた。
確かに髪の色や瞳の色はまったく異なるものの、その独特な雰囲気を里愛は何となく知っていた。
だから、失礼を承知で黒髪の美少女に尋ねた。
「あの、間違っていたらごめんなさい」
「構いませんから続きをどうぞ」
「もしかして……アデェラード様、ですか?」
「正解です」
こくりと頷く黒髪の美少女の横で更に激しく頭を横に振りながら「アディのことは分かってもわたくしのことは分からないのですねっ!」と叫んでいる銀髪の美少女に視線を移す。
顔を両手で覆い隠しているため良く分からないが、何となく今の感じで相手が誰なのか推測できた。
ただ、何故そのような姿をしているのかさっぱり分からないため、その名前を口にして良いのか分からなかったのだ。
とりあえず視線でアデェラードに確認すれば、無言で頷かれたので許可は下りた。
間違ってなければいいけど、と心の中で思いながら里愛は口を開いた。
「ココ、で合っていますか?」
「勿論ですわ!リディア様」
先ほどまで泣いていたのは何処かに吹っ飛んでしまったのか、少女が勢い良く突っ込んできた。
里愛の腰辺りに思いっきりタックルして来たココに思わず倒れそうになる。
吸い込まれそうな蜂蜜色の瞳を細めながらぐりぐりと額を押し付けてくるから思わず逃げ腰になっていると、アデェラードが暴走しがちになっているココを引き離してくれた。
何時も無表情のため分かり辛いが、何だか怒っているようにも見える。
同じ顔をしたココの頭を叩くと、静かに「リディア様が困っておられます」と注意した。
相変わらず誰に対しても他人行儀な口調だが、今回はその口調のお陰でアデェラードだと判断出来たのだ。
解り易いって素晴らしいと思う。それにしてもだ。何故ココとアデェラードが同じ姿でいるのだろうか。もしかしてドッキリ!?とか密かに考えていると、柘榴色の瞳がこちらを不思議そうに見つめるのが分かった。
「そのドッキリ、とやらが何なのかは分かりませんが、違います」
「え……もしかして口に出ていましたか?」
だとしたら不味いと口元を押さえる里愛だったが、アデェラードは無表情のまま首を横に振るった。
「違います。リディア様の心の声が駄々漏れなだけです。まあ、他の者には聞こえませんから安心してください」
それ、全然安心出来ないんですけど!何それ。読心術って奴なの?今の様子からしてアデェラードにしか聞こえてないみたいだけど、心の声を聞かれるのはあまりよろしくない。
つまり、プライバシーもへったくれもないという事だから尚更である。
しかし里愛の反応など気にすることもなく、アデェラードは更に爆弾発言をした。
「因みにココと私が同じ姿をしているのは私達が双子の姉妹だからです」
「はいぃぃ!?」
突然のカミングアウトにさすがの里愛も場所を考えずに叫んでしまった。
お、落ち着け。落ち着くんだ、私。何故そうなってしまったのか、里愛は顔を白くさせながら考え込んでいた。
妖精のような二人にここなら誰にも邪魔されないから、と連れてこられた薔薇園の一角にある休憩場。そこに里愛はいた。
魔法で出したのか、陶器のポットを片手に昔のようにココが紅茶を淹れてくれる。
漂ってくる懐かしい香りに思わず頬が弛んだ。別に他の侍女達の淹れ方が悪いわけではない。
むしろ美味しいし、いいとは思うのだが、やはりどこかココの淹れてくれた紅茶は格段に美味しかったと思ってしまうのだ。
紅茶を淹れ終えたココが席に座ると、里愛はココとアデェラードを見つめてしまう。
双子、といっていたが、それはどういう意味なのだろうか?誰もそんなこと言っていなかったのに。そんなことを考えていると、分かりやすくココが教えてくれた。
「私とアデェラードは双子の姉妹ですわ。今の姿が本当の姿でして……まあ、色々事情があって普段はこの姿でいないのです。だからこの姿を見ている者はごく僅かでして。正直私達が双子の姉妹なのを知らない者は多いのですわ」
「じゃあ、双子なのは本当なの?」
「はい。私が姉でアデェラードが妹ですわ」
へぇ、それは何だか意外だ。むしろアデェラードの方が大人っぽいから姉に思ったのだが、違うらしい。
そんな里愛を他所にココは楽しそうに蜂蜜色の瞳を細めながら色々なことを語りだす。
双子の癖に髪の毛や瞳の色が違うのはココが父親に似て、アデェラードが母親に似ているかららしい。
しかもアデェラードはかなりのシスコンらしく、姉のココにベットリとの事だ。まあ、今もココの隣に座って幸せそうに紅茶を飲んでいるからね。
まあ、本来の姿で行って驚かせようと提案したのはココらしいが、それに便乗するアデェラードもアデェラードである。
そもそも、もうじき彼女達と同じ大魔術師になるアルヴィドは酷く忙しそうなのに、自分などに会いにくる暇があるのだろうか。
里愛とお昼を一緒にするのも大変そうなのに、毎日何とか時間を作ってくれるアルヴィドには申し訳ないと思うが、別にそこまで時間を無理やり作ってくれなくてもいいと思うのも事実であった。
やはりどこかしら擦れ違いが生じていると思うのだが、言えずにいる自分が何とも歯痒い。
まあ、言うと面倒と言う理由もあるのだが。
「お二人は忙しい身の上じゃないのですか?」
「忙しい?」
「アルヴィド様は執務など、多忙ですけど……」
「そういうことですか。そうですね……ココの場合、ご存知の通り憂鬱大陸は存在しないため、統治する領土がないここは仕事は特にないのです」
「ですから、私も他の大陸が忙しそうだったら応援程度に手伝うくらいですわ」
だから花嫁候補の侍女として一ヶ月も付いて回ることが出来たんですね。
しかし、ココは大丈夫でもアデェラードが支配する虚飾大陸は存在するではないか。
アルヴィドのように忙しく駆けずり回っていても可笑しくはないと思うのだが、そこの所はどうなのだろうか。
里愛の疑問に引き続き答えるようにアデェラードは口を開いた。
「その場合、大陸の統治の仕方にも関係します。確かに私達は大陸代表としてその大陸と同じ名の称号を持っていますが、その大陸全てを統治するかは別なのです」
「別とは?」
「元々魔術師と人間の仲の悪さはリディア様も歴史の書をご覧になられてお知りのことでしょう。今でこそ表面上は仲の良い関係を築いていますが、一昔はそうはいきませんでした。魔術師は悪魔と契約した悪の根源。干ばつが起きるのも、不作が起きるのも全て魔術師達のせいにされ、大勢の罪なき魔術師が人間に殺されました」
たしかに何処にでもありそうな話だ。里愛のいた世界だって自分達の利益のために戦争を起こしたり、民族差別をしたりしていた。
それと何ら変わらない。ただ、その問題が人間と魔術師に変わっただけの話だ。
書物に書いてあることだけを鵜呑みにするわけでは無いが、結構悲惨な事も色々書いてあった。
それこそ中世で起きていた魔女狩りのようなものが、こちらの世界でも起きていたようなのだ。
そういう暗黒歴史を語る者はあまりいないが、目の前のアデェラードは隠すことなく真実を教えてくれる貴重な存在だった。
「確かに魔術師は悪魔と契約します。悪と罵られてもしかたがないでしょう。魔術師の中でも悪事を働くものもいますから。ですが、この世界の基礎を作ったのも原罪の悪魔であることも事実です。悪魔なしに私達がいる世界――このヘスペリデスは生まれなかったことを彼等は理解しない。いいえ、出来ないのでしょう。所詮逸話と言い切るのは簡単ですから」
「アデェラード様は見たことあるのですか?その原罪の悪魔に」
悪魔が本当に存在するのは知っているが、本当にそんな悪魔が存在するのか確かに疑問だった。
本では幾らでも原罪の悪魔の名は出てくる。でも、実際の特徴などは記載されず、人間に至っては見たことがないのだから信じられなくても当然だろう。
魔術師の中でもごく僅かしかその姿を見たことがないに違いない。
だから里愛の疑問は最もで、納得したように頷きながら「見たことはあります」と答えてくれた。
「ですから、魔術師が大陸全てを統治するのは色々と問題があって難しいのです。今でも魔術師に反発する国は多々ありますから。事実上、大陸全てを統治しているのは憤怒大陸と強欲大陸くらいではないでしょうか。他の大陸は各国と協力しながら統治しているので、名目上だけの統治者となりますね」
「じゃあ、アルヴィド様が毎日忙しそうに動き回っているのは……」
「これだけ広大な大陸に存在する各国との貿易に加え、力量バランスを統一しているのですから大変でしょう。昔は傲慢大陸も同じように統一していましたが、最終的にネリーが音を上げまして。それだけ広大な大陸を統治するのは難しいということです。リディア様は誇っていいと思いますよ。そんな偉大な人を旦那様にすることが出来るのですから」
押し目もなく褒められ、里愛は言葉に詰まった。そんな凄い人の妻になるのだと今更実感すると、逆にプレッシャーでしかない。
それこそ、小さい頃からそういう相手に相応しい教育を受けてきた人物がなるべきではないのだろうか。
そんなことを考える里愛を他所にアデェラードは紅茶を飲みながら思い出したように口を開いた。
「それにしても毎日薔薇の花を一輪ずつ相手に手渡すとは。意外と健気な性格の持ち主だったのですね、アルヴィドも」
「あらそうなのですか?リディア様」
驚いたようにこちらを見てくるココに思わず頬に血が昇る。一体何処から情報漏れた!?まだ二人には話してないのに、と心の中でパニックに陥る里愛を尻目にアデェラードは更に爆弾を投下した。
「そうですね……『最近アルヴィドが妙に気持ち悪い』の件の辺りから聞こえていました」
それ、ほぼ最初からですよね!最初から聞こえていたのにあえて声かけなかったんですか!
恥ずかしさのあまり穴があったら潜りたい心境になる里愛であったが、ココは微笑ましそうに笑みを零しながら教えてくれた。
「きっと、花環選びの風習に副って渡しているんでしょうね。リディア様は花環選びをご存知ですか?」
「知りませんけど……花環選びって何ですか?」
「随分昔に流行った庶民の結婚ですわ。今でこそ生花は庶民の間でも手軽に購入できるものですが、昔は高価な物でしたから庶民が欲しても手に入るものではありませんでした。だから一生に一度きりの結婚には贅沢品といわれる生花を、頭に飾って嫁いでいったのが由来といわれています」
そんな風習があったなんてはじめて知った。随分と古い風習なのだろう。
だが、それとアルヴィドが毎日花を持ってくるのと何が関係しているのだろうか?
不思議そうに耳を傾ければココはより詳しく教えてくれた。
「きっと勉強熱心なリディア様は今回行われた花嫁選びに前例があったのをご存知ですよね」
「確か怠惰大陸だったよな……」
「ええ。その時の主催者は怠惰の大悪魔ベルフェゴールでした。お相手は強欲大陸の魔道士の女性だったそうです」
「あれ?……怠惰の大悪魔って、アチェディアじゃなかったでしたっけ?」
「ええ。現在の怠惰の大悪魔は二代目です。ベルフェゴールが死に、アチェディアが今の地位に就いたのです。そしてオリエルダは初代怠惰の大悪魔ベルフェゴールと結婚した魔道士の娘ですわ。当時は大騒ぎものでした。本来、結婚といえば契約を交わす事を前提で進むのですが、死ぬ間際まで魔道士の娘はベルフェゴールと契約を結ばなかったのですから。リディア様、人間の寿命はご存知ですか?」
突然、そう問われた里愛は「百歳くらい?」と呟く。どうやら間違ってはいなかったらしく「そのとおりです」とココは頷いた。
「人間はか弱く、寿命の短い存在です。ですから、必ず悪魔は気に入った人間を見つけると契約を求めます。契約すれば悪魔と同じく長い時を生きることが出来ますから」
つまり、生まれながらにオリエルダは魔術師ということなのだろう。半分は悪魔の血を引き、もう片方は純粋な人間の血を持った魔術師。
それも大悪魔の血を引くのだから相当なものだろう。まあ、現に大魔術師の一人なのですけれども。
「しかし、契約を結ばなかった魔道士の娘は寿命で死に、彼女を深く愛していたベルフェゴールも後を追うように死にました。しかし、大悪魔は欠けてはならない存在です。急遽、オリエルダに怠惰の名を与え、大魔術師の任に就かせました」
「それ、本人は納得していたんですか?」
「勿論オリエルダは嫌がりましたわ。大魔術師なった所で名ばかり周囲に知られるだけで、面倒事が増えるだけですから。そしてベルフェゴールの双子の弟であるアチェディアが同じように二代目怠惰の大悪魔としてその座に就かされたのです」
「ええっと……それについて本人は了承したんですか?」
「勿論嫌がりましたが、こればかりはしょうがないと周りに押し切られた形でした」
それは何というか、ド修羅場のような気がするのですが、気のせいではないに違いない。むしろ二人とも嫌がっている時点で仕事が上手く回って行くとは思えなかった。
よく机に突っ伏して寝ていたアチェディアを思い出し、オリエルダの苦労を想像した里愛は密かに感服してしまうほどだ。
そこから結婚までしたのだから凄いと思う。むしろ近視相関とか、ないのだろうか?こちらの世界では。
あったとしても悪魔とじゃあんまり関係ないのか。
まあ、そんな裏事情というか、修羅場など庶民は知らない。知らぬからこそ初代から続き、二代目まで続いた結婚話に尾鰭がついて、一時期貴族や国同士の間でも流行したそうだ。
勿論貴族は簡単に生花など手に入るため、気にいった相手がいた場合、相手に気持ちを伝える代わりに花を渡すそうだ。
花を渡す量にもよるらしいが、大量に渡すのはあまり品がないそうで、毎日一本ずつ送るのがロマンらしい。
何がロマンなのかさっぱり分からないのは私だけだろうか。むしろそんな物いらないし、食べ物をもらった方がよっぽど有難いというものだ。
花より食い気の傾向がある里愛にとってあまり花は意味をなさないものだが、一応意味がある行動だったらしいのでそこの点だけは安心した。
「じゃあ、毎日花を持ってきているのは……あの、その……」
「アルヴィド様は口ベタですから言葉で伝えるのが恥ずかしいのでしょうね。だから何も知らないリディア様にそっと花を渡されるのですわ」
あえて教えずにそっと自分の思いだけを相手に手渡す。そこに見返りはない。本当はほしいけれど、強制はしない。
相手が気づいてくれるまで続ける花環選びの本当の理由。
何だそれ!?そんな恥ずかしいこと毎日していたの、あの人!アルヴィドの性格を考えるに相当恥ずかしかったのではないかと思うのは自分だけだろうか。
よく周りで控えている侍女さん達が微笑ましそうに見守っていた理由はそれだったのか。
「止めてもらうにはどうしたらいいんですか?」
「あら止めてもらいたいのですか?」
「……周りの人たちの視線が見守っているようで嫌なんです」
誰だってあんな視線を向けられれば嫌になるものだ。里愛の言葉にココは楽しそうにコロコロ笑いながら返事の返し方を教わり、その日の茶会は終わりとなった。
また来ると言っていたから二人はやって来るのだろう。
そして夕食の時間になり、少し遅れてアルヴィドはやってきた。毎日朝一番に花を渡すアルヴィド。
渡す時間帯によって意味が変わるらしいが、朝が一番マシな理由だったのでまだ良かった。
いや、あんまり良くないんだけどさ。他の時間帯に比べればマシだったというだけだ。夜の時間帯に花婿が花嫁に花を渡すと「貴女がほしい」という直球な意味合いに変わるのだから恐ろしい。
……まあ、アルヴィドが渡すのは朝だからいいんだけどさ。
夕食の準備を済ませた侍女たちは一時的に部屋から出ていく。最初に二人きりで話したいことがあると伝えといたら快く了解してくれたのだ。
特に疑問に思うことなく席に座ったアルヴィドに里愛は円卓の下に隠してあった花を取り出した。
――生花ではなく、造花。
あの後、二人に教えてもらいながら生花を色々加工して造花を作ったのだ。
一枚一枚綺麗に凍らせてある花弁は光を浴びてキラキラと輝いており、綺麗だ。
まるで宝石のような美しさのようでありながら、永遠に溶けない魔法をかけてもらったのでこの姿のまま保存することが出来る。
この先アルヴィドに花を渡されても、返すのはこの一度きりと言う意味合いも込めてある花には特別な意味が込められていた。
「感謝の印です」
目の前に差し出された花に驚いたように瞳を見開くアルヴィド。まあ、そうしたくなる理由もよく分かる。
花と里愛を交互に見比べるアルヴィドの表情は驚きに満ち溢れていた。耳が真っ赤になっているところが可愛らしい。
きっと、彼にもこの意味が分かっているのだろう。自分も髪の毛で隠れているから耳は見えないが、きっと赤らんでいるに違いない。
この先、これ以上渡すことのない花――。
この思いは、永遠に貴方のもの。




