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第二四話 ロリコンでマザコンでホモかもしれない未来の旦那様(仮)



 突然部屋に押しかけてきたフランチェスカ様には驚かされたが、告げられた内容にはもっと驚かされた。

 何故自分が花嫁に一番近い所にいるのだと憤慨したい気持ちでいっぱいだ。

 未来の旦那様(仮)はロリコン疑惑だけではなく、マザコン疑惑まで浮上しており、とてもじゃないが遠慮したい気持ちでいっぱいであった。

 むしろそんな相手などこっちから拒否したい。元より私は元の世界に戻るためにここに居るのだ。花嫁になりたいから居るわけではない。

 しかし、何故か皇妃様が私を気に入ってしまったようだし、現状を考えると色々と不味いことになっているのが分かった。

 フランチェスカ様はアルヴィドと幼馴染だからその辺は良くお判りなのだろう。

 だったら何故フランチェスカ様とアルヴィドがくっつかないのか疑問だが、色々と事情があるのだろう。

 お莫迦な私があれこれ考えた所で分かるはずがないので、里愛はそのまま長い廊下を突っ走り、随分と前に教えてもらった執務室を目指す。

 相変わらず人気のない廊下なので、走っていても咎める者は誰もいない。動きづらいドレスとて、思いっきり捲り上げて走れば少しはマシに思えた。

 誰かに見られたら大変な事になるとか、普通に考えれば分かることすら気づかないほど里愛は怒っていた。

 パタパタと軽快な足音を立てながら歩いて行くと、執務室が見えていた。

 最初ココに案内された時はこんな所に頼まれたってくるかと思っていたが、まさか自分から訪れる事になろうとは。

 息を切らしながらやっとの思いで辿り着いた執務室の前で呼吸を整える。

 深呼吸をし、ノックをする。返事はなかった。首を傾げながら把手をひねる里愛。部屋の中は他の部屋に比べ、意外と質素だった。

 応接室のような造りをした室内に、大きく開かれた窓から温かい風が吹き込んでくる。

 真っ白なレースのカーテンが風に揺れていた。

 部屋の隅には仕事で使用する本が収められた本棚に執務机が設置してある。だが、本来そこにいるべき人間はおらず、誰もいない。

 辺りを見渡しながら更に一歩踏み出せば、執務室の更に奥へと続く扉があった。

 しかも何故か半開きである。多分仮眠室とか、そんな感じだとおもうのだが、半開きの扉に視線を向けながら近づく里愛。

 何となくそこにアルヴィドが居るような気がしたのだ。寝ているようだったら叩き起こしてでも、フランチェスカ様が言っていた事実を確認せねばなるまい。

 もし仮に本当だった場合、アルヴィドはロリコンのレッテルが貼られるわけなのだが――そこに加えマザコンとは絶対避けたかった。

 息を潜めながらゆっくりと半開きの扉へ向かう。薄っすらと開いた部屋の中は薄暗く、中に寝台が置かれていた。

 本当に仮眠室のようだ。薄暗い室内の中、見渡すように瞳を細めた時だった。寝台の中で何かが蠢くのが見えた。

 一瞬アルヴィドかと思ったが、何だか違うように見える。動くたびに長髪の髪の毛が揺れているのが見えた。


 ええっと……お取り込み中かしら。


 頬を引きつらせながら、部屋に入る前の意気込みも無く、里愛は後退る。

 誰だって濡れ場に遭遇するのはいやなものだ。それよりも仕事はどうしたんだ、仕事は。

 思わずそう突っ込みそうになる里愛だったが、次の瞬間誰かが起き上がるのが分かった。

 寝台を覆い隠す布を払い除け、こちらを見据える。まるで宝石のような紅玉の双眼がそこにあった。

 ぱっちりと開いた瞳にほっそりとした輪郭。頭上で一つに纏められた髪は血の様に赤い。白磁の肌に掛かる髪が特に目立っていた。

 意外な事に一寸も乱れることなく、男性の衣類を着用している人物は観察するようにこちらを見ていた。

 まるで物珍しいものを見たように瞳を細めた後、寝台の中にいる人物の名前を口にした。



「アルヴィド、お前に可愛らしい客人だぞ」

「もう少し寝させろ……眠い……」

「お前はガキか」



 呆れたような声音で寝台に埋もれる隣人を呼びかける青年。彼のいう通り、可愛らしいかは別としても、客人であることには確かだ。

 しかし、ここに来てまさか……ロリコン、マザコン、ホモとはさすがに言葉を失うしかないだろう。

 挑発的な視線を投げかけてくる愛人さん(?)の視線を受け止めながら里愛は出来るだけ冷静になれと己の心に呼びかける。

 まあ、効果があるかは謎だが、しないよりはマシだと思ったのだ。深呼吸をし、前を見据える。

 うん……大丈夫。別にアルヴィドがホモだろうが何だろうが、大丈夫だよ。私に実害さえ無ければ。

 そう思いながら里愛の口から出たのは何故か辛辣な言葉だった。



「フランチェスカ様からアルヴィド様はロリコンでマザコンとお聞きしたので確認しに来たのですが、そこに追加でホモとつけた方が良さそうですね」

「中々言うね、君」

「いえ……これがもしかしたら未来の旦那さま(仮)になるのかと思ったら身震いしたくなるほど気持ち悪くなっただけです」

「それは俺のことも否定するということかな?」



 そう赤髪の青年が首を傾げれば、一緒にポニーテールも揺れる。その仕草が何だか可愛らしくて里愛は瞳を瞬く。

 結構酷い言い草だというのに相手はさほど気にしていない様にも見える。

 心の広い青年だ、と感心しながら里愛は否定した。



「別に人の趣味を否定するつもりはありません。世の中女性が良いという人の割合が多いでしょうが、けして相手が女性ではなく、男性でも良いという人もいらっしゃりますし……何よりアルヴィド様はロリコンでマザコンらしいので、ホモでも何ら問題はないかと」

「だそうだぞ、アルヴィド。この可愛らしい花嫁候補は中々に辛辣だな」



 何が楽しいのか、しきりに寝台で寝ているアルヴィドのことを叩く青年。しかし、濡れ場にしては衣服の乱れが無いのが不思議だ。

 本当に一緒に寝ていたのか疑問にすら思った時だった。

 勢い良く寝台から飛びあがると、里愛と青年の顔を交互に凝視するアルヴィド。

 常に不機嫌そうな顔とは無縁の、どこか抜けた……子供のような呆然とした表情だった。

 そんな表情を里愛は見た事が無くて驚いたように見つめていると、アルヴィドは張り詰めた息を吐き出した。



「何でここにリディアが――これは、夢か?」



 何故ここに私がいると夢になるのでしょうか。それほどまでにこの現場を見られたくなかったようだ。

 それを望むのならここは一時退散するとしよう。きっと、アルヴィドもそれを望んでいるに違いない。

 里愛はしっかり礼をすると、その場を退出する事にする。面白おかしそうに手を振るいながら「またな」と青年が言うのを聞きながら里愛は執務室の扉を閉めた。

 ……今は夢だと勘違いしているが、これが現実だったと気づいた時のアルヴィドは一体どれだけ動揺するのだろうか。

 ある意味その光景を見て見たいような気もするが、わざわざ今し方閉めたばかりの執務室の扉を開ける勇気は無く、里愛は来た道を帰る事にした。

 それにしても意外な光景を目撃してしまったものだ。



「アルヴィド様がホモだったとは……」



 これ、ある意味凄いショッキングな話だよね。帰ったらココに教えてあげよう。きっと喜ぶに違いない。

 何だかんだ言ってそういう噂話とか好きだもんね、ココ。そんなことを思いながら自室へ向かって歩いていると、回廊を通り過ぎる際、意外な光景を目撃した。


 何と他の令嬢達が集まって何かしているのだ。他の令嬢が集まって何かやっているとしたらあれしか無いですよね、あれ。

 そう、自分以外の他者を見下し蹴落とす、あれ。

 俗に言ういじめ。

 主犯格はどうやらテオドーラ様のようだ。ああ、セシリア様もいる。で、誰が虐められているのだ?

 遠巻きに見ていれば皆さん見惚れるくらいの美女なのに好きな人を奪い合うとなると、凄くどす黒くなりますよねぇ。

 どうやら敵に回したくないナンバーワンとツーに囲まれているのは桃毛ちゃんで登録されているアルテミシア様のようだった。

 童顔の彼女は大きな瞳に涙をいっぱいに浮かべている。今にも泣いてしまいそうな光景に里愛はどうしようか悩む。

 見て見ぬ振りは実に簡単である。厄介な令嬢を敵に回さなくてすむのだから。

 だが、美女が泣いている姿はさすがに見過ごせないというか、美女好きの私としては何としても泣き止ませて上げたいところだ。

 ということで、我が身の危険も顧みず、突っ込んでしまいました。



「ごきげんよう皆様。このような場所で何をしていらっしゃるんですか?」



 出来る限り静かに、だが相手の出方を窺いながら里愛はそう問いかけたのであった。

 



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