国を起こす準備
——ブランカの街
辿り着いたノルン一行は改めて街の明るい様子を見ていく、元々活気ある街だったようで、住人はしっかりと生活する姿を見せる。
「一時はどうなるかと思ったわ……皆魂抜けたみたいだったから……」
ノルンは心から安堵した。
顔を見上げると小さな丘の上に建つ元ブランカ公の館、ネクロマンサーとの戦闘で館の三階から上が半分吹き飛び剥き出しのままだ。
あのネクロマンサーは結局何者だったのだろうか……ワグナス領からの刺客とは、はっきりしていなかった。
可能性は高い、だが証拠も情報も無い。
(とりあえず退けた、今は良しとしよう)
ノルン達は館に向かった。
「英雄だ!」「街の救世主!」
所々から聞こえてくる称賛、どうにも恥ずかしい。
ノルンは顔を赤くしながら早歩きになってしまう。
「堂々としな、これからもっと姿を見せなきゃならんぞ」
バシッと背中をハルトが叩く、とは言っても目立たず生きようとしていたノルンが慣れるのはまだまだ先の話だ。
「おお、コスモスの村長それにノルン殿達もいかがなされた?」
館の復旧を進めているレオンが出迎える。
「レオンさん、ブランカ公も交え明日会談を申し入れたいのです」
「会談を……?急にどう……まさか、ノルン殿」
レオンはノルンの目を見て悟ったようである。
「少しお待ちを義父を呼んで参ります」
レオンは走り館に駆け込んだ。
すぐにブランカ公も出てきて話をする。
「……ノルン殿、背負って下さるのだな?」
「……私ができる事、人々の為に旗になれるのなら!」
「……レオン、館の復旧はストップさせて大広間を整理しろ、そして領内に知らせ周るんだ」
「義父よ、文言は?」
「明日太陽が真上に昇る時、新たな国が発足する式典を開く!とな」
ブランカ公はノルンとハルト、コスモス村代表団を館の応接室に迎えた。
「コスモス地域については村が幾つか点在しておる、関係は良好じゃが一つにまとめるのは儂が受け持とう」
村長はコスモス地域を担当。
「私はブランカ地方の元領主を活かし、速やかに国へ組み込むよう間に立とう、顔が知れてる分時間は掛からないはずだ」
ブランカ公はブランカ地域を担当。
「私は主に南側を牽制する帝国防衛騎士団の設立を推奨する、ノルン殿いかがかな?」
「はい、お願いします。そこに一つ提案ですが魔女を組み込めますか?魔鉱石を活用して防衛力を高めれればと思っています」
「それは願っても無い事だ、となれば魔鉱石の採掘も必要になるだろう」
「うん、とりあえずコスモス地域北の荒野帯は昔の坑道が残っている、何人か採掘隊を回して欲しい。俺が指揮を執る」
レオンは防衛騎士団にハルトは魔鉱石採掘隊。
「俺達は村の鍛治施設進めますわ、麦はブランカにも行き渡るよう増産ですな!」
村の代表団も村で進めている事をブランカと繋げて生産計画を立てる。
「……あれ?私は?」
ふと、皆が皆で施作や国としての在り方を会議し始めたが、ノルンは一人浮いてキョロキョロしてしまっている。
「ノルン、お前は屋上から領土を見渡して来たらどうだ?」
ハルトが言う。
「え?でも皆お話してるのに……」
「ノルンは皇帝として護るべきものを刻むんだ、お前だけは一番広く視点を持たないとな。小難しい話は俺達に任せろ、国が起こればまだまだ人は増えるぞ」
「ハルト……うん、行ってくる」
ノルンは一人離れ館の上まで上がった。
崩れてて危ないが、屋上までは来れた。
丘の上に建つ館で一帯がよく見える、街の方では人の暮らし。
離れた丘陵部では酪農だろうか、牛や馬が見える。
北に目を向ければコスモス地域の方だ、ここから村は見えないが、そこも国の範囲になる。
改めて広く、沢山の命を預かる事になる事を実感する。
だが、後には引かないと決意していた。
国を治めるには一人では無理だと分かっている、だから今応接室で話し合いをしてくれている者達が居る。
「恵まれてるなぁ……私」
コスモス村に流れ着いた記憶喪失の女はいつしか国を持つ、その前日に館から見る世界の姿は穏やかで人々は普通の生活を営んでいた。
応接室に戻ったノルンは白熱する皆の様子に思い付いた。
一人、館を出て近くの民家を訪れる。
「すいません、突然……」
「はいは……え?英雄さん!?」
「英雄だなんて……私はノルン、いきなりで申し訳ないのですが少しばかり調理場をお借り出来ないでしょうか?」
「調理場を……?かまわないけど……」
「ありがとうございます!すぐ戻りますので!」
ノルンは次に市場へ向かった。
「あれ!英雄だ!」
「おおい!英雄のお姉さん!」
むず痒い気持ちを抑えて子供に手を振る。
「いらっしゃい……街の英雄さんじゃないか!」
「あ、そんな……えっと、コレとコレとコレください」
「買ってくれるのかい!?ありがたいねぇ!一つおまけしとくよ!」
「わぁ!ありがとうございます!」
市場で食材を抱えて戻る、人数がそれなりに居るので大荷物だったが面白半分で手伝ってくれた子供達に助けられた。
そして、民家の調理場を借り料理を作り上げる。
民家の主も何事かと始めは首を傾げていたが、料理する意味を聞いて納得してくれた。
すると、いつしか近隣住人のギャラリーまで出来ていて料理を運ぶのを手伝ってくれた。
まさかこんな大所帯で館に帰るとは思うまい。
「はいはい皆さん!少し休憩しましょう!」
ノルンは応接室を開け、料理と運ぶ村人達と共に白熱する会議の場に雪崩れ込んだ。
会議中の皆は何事だと面食らっている。
いきなり大勢の村人が押し寄せ、料理を持ってきたのだから当然の反応だった。
「もう日が傾いてますよ!国も大事だけどそれを守る自分も大切にしてください!」
ノルンは言い、料理運びを手伝った村人から拍手が起こる。
言われた会議者達は我に返り、「そうだな……」「ちょっと熱が入りすぎたな」と反省し出した。
「ノルン、やっぱりお前は導いていけるよ」
ハルトが料理をつまみながら言う。
それを機にブランカ公やレオン、村長に村の代表団も頷いて食事を摂ってくれだした。
「あなた達も含めて国民なんです」
ノルンは食べ始めたら止まらない皆を笑顔で見ていた。
——報せは旧ブランカ領全域とコスモス地域点在する全ての村へと、一番の早馬で渡った。
「国が起こる」
人々はかつてない事に興奮し話題はその事で持ちきりだった。
祝福する者、国とは何だと傾げる者、情勢を静観する者、普段通りの生活をする者。
人々は一枚岩では無いが概ね良好な受け入れをして、翌日の昼の国家生誕の祝賀式と初代皇帝のお目見えが待ち遠しかった。
「ブランカ公も大胆なお人だな、国を作るなんて」
「全くだ、北のコスモス地域も含めて相当デカイ領土になるんじゃないか?」
「ブランカ公は襲われたけど危機を跳ね除けて強くなられたんだな!王に相応しいな!」
「ん?なんか王じゃ無いらしいって聞いたぞ?」
「え?ブランカ王じゃないの?」
「ああ、確かコスモスから来た女だって聞いたが……」
ブランカの街、酒場。
人の関心は国にもあるが、「誰が治めるのか?」に尽きる。
大半の人々はブランカ公がそのまま王となり治めると初めは思っていたが、話の中でどうにも違うらしいと酒場内は盛り上がり出した。
「大丈夫なのか?」
「女に出来るのか?」
「英雄ってのは聞いたけど……」
人々の不安も巡る、仕方のない事だった。
ブランカの街が生気を抜かれてる間の出来事、人々は救われた事実を後から知ったが、直接の実感は湧きにくい。周りの空気的に英雄が生まれたと思う程度だった……
「俺はあの英雄の姉ちゃんなら信じるぜ!」
「私もよ!」
一人のおじさんがドンと酒を置き、一人のおばさんが酒を飲む。
それはノルンが調理場を借りに訪れた民家と、市場で買い物をした店の二人、実は夫妻だった。
「実は家に調理場借りに来たんだよあの子、頭を悩ますお偉いさん達に息を抜ける料理を作りたいってね」
「うちの店にも来てくれて荷物が多いのに他人の為にと頑張って選んで持ってな……」
ノルンが訪れた事は小さな事だったが、初めの一歩を踏み出していたのだ。
人柄が夫妻の心を掴み、酒場と言う情報が集い持ち帰る場所で貯められる。
そして翌朝には一気に街に拡散していった。
「皇帝は人を思い遣る人だ」と……
——太陽が昇る。
ノルンはブランカの館一室で目覚め外の朝日に目を細める、今日は建国の日となる。
ノルンは式典があるからと寝室に促されたが、昨日から会議をしていた応接室の皆はどうなったのだろうと覗きに行く。
そっと扉を開け覗き込む……
皆、机や床で寝ている。
「もう、皆!」
慌ててノルンは皆を起こす。
食事を摂った後も会議は終わらず夜通しやっていたようだ、ハルトを掴み揺らす。
「ちょっとハルト起きなさい!」
「……ん?おおノルンおはよう」
「おはようじゃないわよ!皆も起きて!一晩中やってたの!?」
その声に皆が動き出す、呆れたものだとノルンは息を吐く。
「……む、白熱してしもうたの」
村長は伸びをしながら紙を眺める。
「ノルンや、草案の形じゃ目を通しておいてくれ」
「ノルン殿、今日の式典はあなたの宣言で決まる。よろしく頼みます」
ブランカも起きて頭を下げる。
「村長!俺達は村の皆連れて来るぜ、昼には戻る!」
村の代表団はゾロゾロと館を後にして行った。
「あれ?レオンさんは?」
「レオンなら既に広場で式の用意を始めている、そうだノルン殿こちらへ」
ブランカは立ち上がりノルンを連れて部屋を出る。
道中館に残るメイドを集めブランカは指示を出した。
「手筈通りメイド長と一人はノルン殿の身支度を、後の者は広場へ運ぶ料理を作りレオンの支援に急いでくれ。本日は館の復旧等要らん!時間は無いぞ!」
「はっ!かしこまりました!」
「身支度?えっえっ?」
「私はブランカの館メイド長のヒスイ、本日はよろしくお願い致します」
「私はブランカの館メイドのヨウメイ、尽力を致します」
二人に両腕を掴まれ、何をされるのかわからぬまま四階まで連れて行かれる。
四階、大きく吹き飛んだ館部分がそのままだ。
まだまだ復旧には時間がかかるだろう。
一つの部屋に連れ行かれる。
「ここが残っていて本当に良かったですわ」
ヒスイが言う、ズラリと並んだドレス達。
「あの、これって……」
「こちらはブランカ様の亡き奥様のドレス、ノルン様に選んで頂いて手直し致します」
「ええ!?そんな大事なドレスをダメですよ!!」
「ブランカ様が託すとお決めになられた事、私共はそれに従うのみです」
「ノルン様、今後の私共の主は貴女様になります」
「そ、そんな……」
ヒスイは微笑みノルンを見る。
「ノルン様、ブランカ様より私共に賜ったお言葉がございます」
「言葉?」
「はい、次の主君は人を思い遣る優しき王となる、その優しさが遠慮を生み足を止めてしまうかもしれない、その時は私達で動くのだと」
ブランカは小さな身の回りの事も自分でしてしまうであろうノルンの為に、先手を打っていた。
これから皇帝となる者は国を導かなければならない、その光を存分に発揮できるように、専任メイド長ヒスイを付けたのだ。
「私も若輩ながらお手伝い致しますので、お見知りおきを」
ヨウメイが礼をする、年頃は同じようだが顔立ちが見ない顔立ちをしている。この地方には無い顔立ちに褐色の肌、珍しい。
「私は遥か東の生まれでございます、ヒスイ様とブランカ様に拾って頂き生きております。どうか私にもノルン様に支えさせて頂ければ……」
「お、お二人共そんな下に下に来ないで……わ、わかりました選びます、ドレス選びますので!」
式の開始まで後三時間程だった、広場の方では既に人集りが出来つつあった……




