思い出話と決意を
——ブランカ会談から一夜明け
ノルンは村に戻り自宅で考え事をしている。
考えに浮かぶのは勿論……
「ノルン皇帝」
(いやいやいや!成り行きにしてもそんな!)
ノルンは悶える、想像もしてなかった期待を向けられ果てしなく困った。
「とりあえず暫定で良い、近日中に遣いを送るので考えて欲しい」
レオンはそう言って会談は終わったが……
「腹括れよノルン」
「ハルト……あんたは妖精を盾に辞退したから良い気なものよ」
ジト目でハルトを見る。
「はっはっは、でもよく考えてみな?どうすれば多くを守れるかを」
ハルトは小窓から飛んでいってしまった。
「……多くを守れる方法」
ノルンは呟き気分転換に散歩に出た。
村を歩いて見ると得体の知れない恐怖から解放されて、以前の明るいコスモス村を取り戻した。
「ノルンお姉ちゃん!」
飛び出してきたカイと後ろから付いてくる母親のミナ。
「お姉ちゃん、ありがとう!また助けられたね!」
「ノルンさん本当にお疲れ様、家に置き手紙を見つけたカイが心配してたのよ」
「カイ君ミナさん……」
「村長から話には聞いたけど……あなたの思うままに生きてね?」
「……え?」
「ノルンさんには何度も救って貰った、私もカイも。お返しが仕切れない程にね、村の皆も同じ気持ちよ」
「そんな……目の前の事しか見えてなくて」
「だからこそ頼れる時は頼って欲しいの、私達も同じ村民なんだから!」
「僕、お姉ちゃん守れるようになるから!」
「……っ」
こんな自分を労ってくれている事が嬉しかった。
カイとミナと別れ水車小屋の方へ向かう。
何やら大掛かりな測量がされていた。
「村長?」
「おおノルン、魔鉱石の特製を活かした鍛冶施設を考えておるんじゃ」
「鍛冶施設?」
「うむ、武器防具に留まらず工具や部品。今回の事で村としては防衛力やその用具が圧倒的に無いと痛感しての」
「防衛力ですか……」
「ノルンよ、国を起こせば資源や技術が狙われるかもしれん。だからこそ守る力が必要になり正しい使い方を示せる指導者が必要なんじゃ、儂はお主は出来ると思ったから推薦し、助けになるべく知恵を出すつもりじゃ」
「村長……私、迷ってるんです、皆の事を守れる国を作れるなら協力したい、でも頂点に立つなんてって」
村長は微笑みノルンの頭を撫でた。
「じゃあ儂は頂点かの?」
「え?」
「コスモス村の頂点とノルンは思うとるか?」
「当たり前じゃないですか」
「それは周りが決めた事、儂自身は土台としか思うとらん、言わば一番下じゃな!ホッホッホ」
「そ、そんな村長……」
「でも事実なんじゃよ、儂だって村長になりとうてなった訳じゃ無い、他の者より少し知識を持っていただけで毎日手探りじゃわい」
村長は空を見て穏やかな笑顔を見せた。
「国の規模は違う、だが村も街も助けた実績に強い魔力に優秀な友人達を持つノルンだから期待してしまうんじゃ」
「……もう少し考えます」
「ああ、遣いが来るのもブランカ領が落ち着いてからだろう。話し合いは定期的にするがノルンは悩んでみてくれ、悩めどんな答えでも支持するからの」
村長と別れ麦畑へ向かった。
魔鉱石と魔力と火薬を合わせた広域農耕のおかげで収穫量はまだまだ上がっている。
コスモス地域は元々土壌は良く土地はあった、しかし人手が足りていなかったから上限があったのだ。
それを魔鉱石と魔女が広げた。
村だけでなくブランカの街もカバーできる生産性が見込める。
「おーい、雷を宿して見てくれー」
離れた所にハルトが村人を伴い何かをしていた。
(何か作っている?)
板を合わせた巻物のような見慣れない物。
「ボルト!」
バチバチ!
ギギギ……
「おー動いた!」
「石のせて……動く!いけるぞ!」
「ハルトさん、すぐ増設しましょう!」
「ハルト何やってるの?」
「おお、ノルン!前々から試作してたコンベアーをな、ほら途中で中断しちまったから」
「コンベアー?」
「ほらくるくる長く回るだろ?これを水車小屋まで繋げて麦回収の手間を省くんだ、地味に遠いからな」
確かに距離はある、これが出来れば更に生産性が高まる。
「……っ!」
ノルンはコンベアーを見て頭に何かがフラッシュバックした……
(ノルン、物を運ぶだけでも人は大変なの。だから道具を発明して楽にしていくのよ)
ぼんやりだが優しく懐かしい顔がノルンを見ている……
「おい!ノルン!……何か思い出したのか?」
「……母さん」
「……少し思い出したんだな、お前の母さんの名前はエレノア、魔鉱石と工学を組み合わせた人だ」
「私……教えて貰ってたんだね……」
母との記憶が蘇り、朧げながら温もりを思い出す。
一人じゃなかったと立ち上がりハルトに笑いかける。
「うん……!決めた!」
——水車小屋横、川辺
ノルンとハルトは腰掛けて水車小屋の麦を挽く音を聞きながら語り出す。
「ねえハルト、お母さんってどんな人だったの」
「エレノアは天才だった、そして誰からも好かれる人だったよ」
「天才?」
「言い方が難しいが閃きと形に起こす技術に優れて、人々の役に立つ物を作って喜ばれる事が多かったな、たまに失敗もしてたけど」
「ハルトはお母さんとずっと居たの?」
「俺はエレノアから工学を教わっていたんだよ、始まりは人間が作った動かせる物に興味を惹かれてな、たまたま妖精の村を出た時に見ちまったところから始まったなぁ……」
懐かしそうにハルトは話す。
「ノルンのオムツだって替えた事あるぞ!」
「ちょ!バカ!そんなのは良いの!!」
ずっとハルトは居てくれたのかと感謝をする。
「ある日の事だった、俺とエレノアが目を離した時にノルンが魔女覚醒してしまったんだ」
魔女覚醒、魔女族は生まれた時から魔女では無く、ある日突然魔力が発現するのだ。意思で魔力が出せると魔女になる。
「エレノアは魔女じゃなかったからな、まさかノルンがと思っただろう」
「え?お母さんは違うの?」
「エレノアは普通の人間だ、別に珍しくは無いだろう?遺伝でも無いし」
「まあ確かに……でも工学って」
「あくまで工学、魔鉱石や魔力を使わない物を組み合わせただけの技術だ」
「じゃあ魔鉱石はどうして……」
「前にも言ったが、魔鉱石の特性を見つけたのはノルンだったんだ」
「私が……?」
「ノルンが魔女覚醒した時に石材代わりに置いていた魔鉱石に魔力が当たったんだ、もうパニックさ」
「あはは、それは飛んだご迷惑を……」
「その時エレノアは魔鉱石の特製に気付き閃いた、魔鉱石と工学を組み合わせた技術を」
「それが魔鉱石と道具や環境の始まり……」
「エレノアは魔工学と名付けたよ」
魔力を供給して魔鉱石が留める、留めた魔力を動力に変えて組んだ部品や環境を動かす。
「世紀の発見だとエレノアは喜んだよ、数少ないとは言え魔女も居る、作る環境が整っていた」
「それでその時の記憶が繋がったのね……」
(楽をするために)
母の言葉は人々の負担を減らすためにと言う事だろう。
少し分かってきたところで、ハルトのことを聞く。
「ハルトはどうしてそこまで人間に関わるの?」
「……まあ妖精なら珍しいが、前も言った人間が好きってのもある、工学が面白いのもある、ただ一番は……」
「一番は?」
「ノルンのそばに居てやって欲しいってな、エレノアからの……遺言だったんだ。」
「……お母さん、そうよね昔なんだもんね」
「……ノルン、お前達親子は襲われたんだ」
「え……」
「魔工学を狙った古代人の襲撃だった、便利な物を作れなければ奪えば良い、そんな野蛮な集団だった」
「そんな……!」
ノルンは頭を抱えた、人々の楽の為に作った物が争いになるなんて。
「いくら考えても事実だ……エレノアは最新の魔工学で作った装置でお前を眠りに付かせ守った」
「眠り……まさか」
「五百年の眠りさ、この装置は難解過ぎて俺には分からない、ただエレノアは五百年後に迎えに行って欲しいと言って帰らぬ人になっちまった……」
「お母さん……」
「後は目覚めたノルンの魔力に合わせて俺が探しに出た訳だ、まさかドラゴンの奴が、昔の古代人を襲うよう設定されていたことには焦ったがな」
あの日始まった出来事が今に繋がる。
ノルンは力があれば守れたかもしれない、牽制できたかも知れないと考え、自分の中で消化していく。
「皇帝になったら力付けれるかな」
「ああ、お前の為に様々な知恵と技術が集まる」
「皇帝になったら皆を守れるかな」
「今よりももっと沢山を守るだろうな」
「……明日村長とブランカへ向かうわ、ハルトも来て」
もう覚悟は決まっていた、更に再確認が出来て過去も知った。
ノルンの迷いは晴れた。
——翌朝
「じゃあ行ってきます!」
ノルンは村長と村の代表団とハルトを率いて村を出た。
この時の様子を後世に語った村人は言う。
「聖女皇帝の出発のよう」だったと。
この日コスモス、ブランカ両地域にとって歴史的な日となろうとしていた……




