真相とこれから
——街を覆っていた薄暗く重い空気が晴れていく。
吹き飛んだ館の一部から街を見下ろし三人は安堵する。
「ふぅ……色々話さなきゃならないな、とりあえずノルンとレオンこっちへ来てくれ」
ハルトは二人を連れて一階へ移動した。
「おー相当暴れたなぁ」
「影の数が多かったもので」
ハルトは辺りを見渡しレオンは申し訳なさそうにしている、ある一つの柱にハルトは手を合わせる。
「ハルト殿、そこは……」
「レオンは分かるだろう?緊急避難場所に繋がる仕掛けだ」
ガコン
エントランスの角に隠し階段が現れる、三人は地下へと向かった。
少し降りて石造りの薄暗い部屋に辿り着く。
「あれって……魔法陣?」
ノルンは妙な形の陣を見て首を傾げた。
「なんだあれは?あんな物は無かったはず」
「あれがブランカ領を狂わした元凶だ」
ハルトは語り出した。
——三日前
ハルトはコスモス村から飛びブランカ領へ着いた。
空を飛べるのもあり敵に遭わなかったものの、その動きは領内に支配された鳥の目を通じて把握はされていたらしい。
街を見て、生気の抜けた人々と黒いモヤが集まる領主の館を見て初めは全滅しているのを覚悟した。
せめて館の様子を見て村に戻ろうとしたが、館周囲を飛び回るカラスに阻まれ出れなくなってしまった。
隙を伺いながら館を探索する内に一つの魔導書と生気の抜けた人間を見つけた。
抜け殻になったブランカ公の前に魔導書が置かれ、その横に黒いローブの者が居たのだ。
動向を伺いハルトは気付いた、魔導書を介してブランカ公と黒い煙で繋がるローブの者。
魔導書を介して支配されてるとすれば、楔になっている魔導書を消してしまえば……
ハルトは黒いローブの者の隙を突いて風の魔力を放ち、魔導書を引き裂いた。
予想は的中した。
ブランカ公とローブの者は同時に苦しみだし、正気を取り戻したブランカ公はローブの者と対峙したのだ。
ハルトはいつでも出れるよう待機しながら言い争いを聞いた。
「な、何事だ……!悪魔の契約がぁ……」
「うぅ……貴様、人では無いな!」
「人形のままで居ておれば良かったものを……」
「何者だ!」
ブランカ公は近くの剣を取りローブの者に斬りかかる!
切先がローブを掠め顔が見えた瞬間ハルトは驚いた。
爛れた顔、もはや表情を保てない程醜悪な顔が見えたのだ。
「化け物め!」
続いてブランカ公は斬りかかるが生気を吸われてて力が出ない、弾き飛ばされ膝を突く。
「俺様は人間を超えたもの……屍人を操るネクロマンサー」
ハルトは物陰からチャンスを待った。
ネクロマンサーと名乗った者はブランカ公にトドメを刺そうと黒い煙を集める!
「くっ……」
ブランカ公が立ち上がれず更に膝を曲げてしまったった時だった。
「ウィンドバースト!」
ハルトの魔法が吹き荒れた!
パァンと風の爆発で黒い煙が爆散する。
「何だ貴様!」
「どうやら相性良いみたいだな!オッサン逃げろ!」
追加の風を起こし場を荒らす。
その混乱に乗じブランカ公は逃げられた。
対峙するハルトとネクロマンサー。
ここから館内全体を使った鬼ごっこが始まったのだ。
ハルトの風とネクロマンサーの煙では圧倒的にハルトに分があった、しかし小さなハルトでは威力が足りず仕留めれない。
対してネクロマンサーも魔導書「悪魔の契約」を失い力を落としていた。
膠着状態のまま二日間戦い続けていたのだ。
——「いやぁ〜二人が来てくれて本当に助かった」
「ハルト、二日間も……お疲れ様」
「……ハルト殿、今の話ならブランカ公は!」
「ここだレオンよ……」
背後から声がする。
暗がりの奥から姿を見せたやつれているが、威厳ある人。
「あ、あ……ブランカ公!」
レオンはブランカ公を抱きしめ無事を喜んだ。
「オッサンの行方は正直見てられなかったが、無事で良かったぜ、ここを開けるのがチラッと見えたっきりだったからな」
「ブランカ公……レオンさん、良かった」
「君達三人がブランカを救ってくれた……今回の事は私の復讐心に付け込まれた事が招いた悪夢……私には罪が大きすぎる」
ブランカ公は天を仰ぎレオンの肩を叩く。
「領土の英雄三名よ、我ブランカ領士ブランカ公はその領土圏内全てを放棄し汝らに委ねる……」
「え!?」
ノルンは声を上げた。
いきなり領土を委ねる等と言われても混乱してしまうし、ブランカ公はどうするつもりなのか。
「心配するな、レオンの下で傀儡を演じ切る」
「ブランカ公!そんな真似は俺に出来ません!」
「レオン・ノルデン!!貴殿がやるのだ!」
ブランカ公は諭す。
「民を苦しめた罰は受けなければならない、だが姿を消して逃げる訳にもいかん、ならばレオンよ私を全ての盾にして理想の領土を作り上げるのだ!」
「俺もオッサンに賛成だ」
「ハルト?」
「悪魔の契約つったかあの魔導書、普通の人間内でやり取り出来るものじゃ無い。今回ブランカを乗っ取り利を得ようとした者が居るはず、ならばブランカ公を表に立たせたまま領土安定した姿を見せて、謀略が失敗した事をアピールすれば良い」
ブランカを乗っ取り利を得ようする者……
ノルンはハッとしてレオンを見る、レオンもまた気付いたようだ。
「……レオンさんもしかして」
「……ああ、ノルン殿に話したがまさか」
ブランカ公は座り込み語った。
「おそらくは南の旧ノルデンを進行し占領した領軍、私の親友と領土を滅ぼし今は戦争状態になっている相手」
「領土拡大を狙って義父、ブランカ公を操り……両親を奪った敵!」
「「ワグナス」」
ノルンは息を呑んだ、ハルトも固い顔をしている。
レオンは二人に向き直り頭を下げる。
「……村で静かに生きていた二人には申し訳無い、だがどうかお二人の知恵と力をお貸し頂きたい!」
「どうか……」
ブランカ公も立ち上がり頭を下げる。
「……私は、守る為に手を貸したい」
ノルンは村を思い出しながら言う。
このままではまた脅威に晒されて怯えるだけ、村の皆を守る為にも。
ハルトは笑った。
「ノルン……お前は運命から逃れられないみたいだ、俺が側にいるからな」
「ハルト……」
この日、ブランカ領が救われた。
そして、大きな国の起こりを告げた日になったのである。
ブランカ領の悪夢は晴れた、街の者達は少しずつ外に出始め様子を伺っている。
「……俺が出よう」
レオンは館の前に向かい民に声を上げた。
「ブランカ領は卑劣な罠に陥り壊滅しようとしていた!だが脅威は除かれた!皆の者、今は身の周りを整理し正式な発表を待ってくれ!」
「……レオンさんなら上手くやってくれる」
ノルンはそう信じて村に報告をしに街道をハルトと共に歩き出した。
すると、驚く事に大勢の人の塊が前から向かってくるでは無いか。
「な、なんだ?」
「あれって……村長!」
人を率いていたのはコスモス村の村長である。
「お、おお!ノルン!ハルト殿!」
「どうしてここまで!?」
「ノルンの手紙を見つけ、儂等も行く事を決意したのじゃ。だが……出遅れたようじゃの」
「そんな……村長ありがとうございます」
「村長達来てたら被害拡大だぜ……」
ハルトはため息を吐いたが内心嬉しそうだった。
ここで出会えた事も丁度良かったと村長と複数の村の代表を伴い、ブランカ領へと戻る事にした。
「あなたがブランカ公か」
「コスモス村村長殿、この度はあなた方中立の地域にまで被害を及ぼし謝罪の言葉も無い……」
急遽用意された話し合いの場、半壊したブランカ公の館で行われた。
「早速ですが、事の経緯をお伝えします」
レオンが立ち上がり始まりから終わりまでをコスモス側に伝えた。
——「と言う訳で、領を名乗っていますが機能は復帰していないのが現状です」
「……なるほどのぅ、ブランカ公お察ししますぞ」
「私は表に立ちレオン達の弾除けになる身、それが償いと考えています」
「実質的な領土を持つのはノルン、ハルト、レオンに託されたの訳じゃな」
「はい、ただ私は領土治めるなんかはとても……」
「まあ、統治なんかやった事ないからレオンに一任だな」
ノルンもハルトも違う方法での貢献を考えている。
「……村の者よ、儂の意見聞いてくれるかの?」
村長が話し出す。
「今回の事でブランカ領とは交易だけの関わりでは無く、防衛に於いても大切な立ち位置になると見る。以前までなら小さな村を守るだけで満足ではあったが、今やノルンとハルト殿により生産力も著しく伸びておる」
確かに魔鉱石と魔女、そして魔鉱石と物により村と呼ぶには桁違いの生産が見込めている。
村長は静かに言い切った。
「コスモス地域をブランカ領に組み込み互いの人や物の共有、魔鉱石の活用で領土全体を広く強くせんかの?」
会議参加者はどよめく、それはこれまで長年続いた互いの関係を根本から変えると言う事。
領主に属さないから自由だったものが統治により制限が課せられる事も、税金が徴収される事も出てくる。
村人達は難色を示した。
「村長、お気持ちは分かりますが……」
「うん、かなり大きな話だよ」
すぐには決めれる提案では無い。
ノルンも同じ気持ちだった、村人の戸惑いも分かる。
だがハルトは賛成だった。
「俺は今が一番のタイミングだと思う、村が発展し出しているが天井が低い、魔鉱石の活用はまだまだ上を目指せる。領土範囲になれば知識も物資も技術も格段に上がる、地域を守り繁栄する飛躍的に強くなるチャンスだ」
村人達は確かにと傾く。
「今のままでは南からワグナス領が攻めてくるのは見えてるしな、管轄別れてるより手を取り合う方が生き残れる確率は高まる」
「一つ宜しいか?」
レオンが声を上げた。
「ハルト殿の話から考えたのだが……新たに国を起こすのはどうだろう?」
「……国?」
ノルンはポカンとする。
レオンは続けた。
「魔鉱石の力を国として研究活用する事で民に潤いと国防の強化、今のコスモスとブランカは国に統治され一地方として残すのだ」
「ふむ、ブランカ領とならず両方を同じ地方扱いにして平等が保てるか……」
村長は考える。
「あ、あの!国って国王はどうするんですか!」
ノルンは堪らず聞いてみる。
ブランカ公は統治から身を引くつもりだしレオンか、もしくはハルトか村長かと考えていた。
その問いにレオンは答えた。
「仮に今暫定するなら領土を分けられた三人、ノルン殿、ハルト殿、俺にはなるだろうがとりあえずの暫定でだ」
「え!?私も!?」
「ノルン、俺は人間の政はよく知らないから辞退するぞ」
「え!ハルト!?」
「だって人間が人間治めるから上手くいくじゃないか、俺妖精だぞ?」
「そんな!」
「……実はブランカ公に頼まれては居るが執政者よりも王を守る位置に就きたいのが、俺の本音だ」
「レオンさん!?」
「ノルン殿、貴女は人望が厚く他者の為に考え思い遣り動く事が出来る、そんな貴女が一番相応しいのでは無いだろうか」
「ノルンさんなら……」
「確かにノルンちゃんなら……」
「どうやらコスモス村の代表団は一致じゃの、ノルン儂等はお主に身を委ねるぞ」
「村長!?皆!?」
「領土を私を救ってくれたノルン殿、このブランカ全身全霊で助力致します」
「ぶ、ブランカ公……」
「暫定とは言え決まりだな、ノルン皇帝」
ハルトは笑いながら言った。
後に語られる「ブランカ領会談」、帝国の一歩が刻まれた始まりの時であった。




