戦い
——ブランカ公が治めるブランカ領
北にコスモス地域が有り、南にノルデン領と呼ばれる関係良好の領土があり間を繋ぐ交易領土として栄えていた。
ある日ノルデン領は遠方の領主より奇襲を受け、一夜にして滅び領土は奪われた。
ブランカ公は激怒した、友好を保っていた領が突然の陥落、領土が奪われ交易も閉ざされた。
時間が経てば奪われた亡きノルデンの領からブランカ領へと侵攻されるのが目に見えていた。
ブランカ公は難民の中から一人の少年を救い上げ教育と鍛錬を課した。
それがレオンだった。
旧ノルデン領に生まれ、幼少の頃に難民になった。
両親とも離れ離れになり一縷の望みを託してブランカ領に送られたのだ。
詰められた箱はブランカ公への最後の献上品として、直接ブランカ公へと届く。
暗い箱が開いた時、驚く領主の顔が見え「会ったら渡すのだ」と父から受け取っていた手紙をブランカ公に渡した。
威厳ある領主は手紙を読み泣いていた、そして少年レオンを抱きしめ養子に迎えた。
本当の親子の様に過ごし、旧ノルデン領の奇襲の悪夢が薄れて来た頃だった。
ブランカ公は一商人から「悪魔の契約」と呼ばれる本を手にして、のめり込んでいった。
ある日ブランカ公はレオンに言う「養子関係を外し、お前は一傭兵として旧ノルデンへ偵察に動いて貰う」
レオンは受け入れた、義理の父の考えは分かっていた。
「ノルデンの復讐」
ブランカ公とノルデン公は親友同士だったからこそ、年月が経つ程にブランカ公の復讐心と準備は進んでいたのだ。
レオンは養子から傭兵へ、義理の父の親心だった。
万が一復讐に失敗しても義息子に責を負わせない為に、逃げれるように自由の効く傭兵へ。
レオンは旧ノルデンに潜伏し情報収集に向かった頃、「悪魔の契約」を手にブランカ公は儀式を始めた。
異変を知らされたのはブランカ領の傭兵仲間からだった。
すぐに領土へ戻り、街の変わり様に絶句した。
あれだけ賑わった街が寂れ、人々に生気は無い。
笑い喋る犬や猫、正気に見えない魂が抜けた様な門番。
レオンは領主の間に急いだ。
そして、見えた義理の父ブランカ公は全身の力が無く青白い生気の抜けた姿で座らされていた……
「ブランカ公!!」
「む?誰だ貴様?出会え!」
聞き慣れぬ声と人影が見えた時には襲われていた。
どこから現れたかわからない黒い人影に囲まれていた、幸運だったのは鎧を着けたままで居た事と鍛錬を課して強くしてくれた義理の父だった。
襲われながら窓を突き破って領主の館から逃げる。
追手は何度か現れたが、なんとか潰せた。
しかし相手はいくらでも湧いてくる、体力が尽きた時にはコスモス地域とブランカ領を繋ぐ街道の途中だった……
——「これが俺の全てです」
ノルンは唇を噛み締めていた。
レオンは一人助けられた身で、二度も辛い目に遭っていた。
「……お優しいのですねノルン殿」
気付けばノルンは涙が止まらなかった。
「俺は三日後、ハルト殿がどうなっていてもブランカ領へ向かいます、それまではこの村を全力でお守り致します!」
膝を突き宣誓をしたレオンは空を見る。
「敵はわからないが、この命尽きるまで戦い抜きます」
死を覚悟しているレオンを止める事はできなかった……だが、ノルンも一つ決意を固めた。
「レオンさん、戦いの準備をしましょう」
そう言ってノルンは魔鉱石を取り出した。
コスモス村に厳戒態勢が敷かれ、あっという間に三日が経った。
南からまだハルトは帰って来ない。
「……ノルン殿、やはり貴女を連れては……」
「ダメです、ここに居てもいつか奴らが来るかも知れない、ハルトは捕まってるかも知れない。ならば私のやる事は一つ、その為に準備もしましたし、元々記憶喪失の流れ者……」
「ノルン殿……分かりました、俺が守りますので!」
「お願いします!行きましょう!」
ノルンは自宅に一通の手紙を置いて、家を出た。
もう戻れないかも知れない、だから受け入れてくれた村民に宛てた手紙を残して……
静かにレオンと村を出る。
朝霧が薄く掛かる街道を南下し、昼には目前に広がる大きな街、ブランカ領に辿り着いた。
「ハルト、無事でいてね」
ノルンは魔鉱石を握りしめた。
——昼前の街並みとは思えない静けさが漂う。
人間の生活する音がしない街、それだけで異様さが分かる。
「このまま行くと大通りで目立ちます、横道から周りましょう」
レオンの先導で遠回りになるが安全な道へ。
ただ、異様な空気感に安全な場所等無いのでは無いかと思ってしまう。
ノルンは魔鉱石を握る力を強めた。
民家の脇を通り窓から中が見えた、そこには人は居る。だが動く事なく宙を見つめ座っているだけのようだ。
「あの状態で街の者は生気が抜けています、襲われることは無いのですが……やはり見ていて辛いですね……」
レオンは唇を噛み締めて領主の館に向かう。
ノルンも後を追った。
「……おかしい」
レオンは立ち止まり警戒をし出した。
「どうしました?」
「……何事も無さ過ぎる、前回は嫌ほど湧いて来た者の影すら無い」
「確かに……喋る動物も居ませんし」
レオンがその言葉に反応した。
「……まさか!?」
レオンが辺りを見渡し一匹の猫を見つける、猫はこちらの様子を伺っているのかジッと距離を取り見つめている。
その後にも辺りを見渡しレオンは何かを確信したようだ。
「……ノルンさん、俺から離れないで下さい。奴ら見ています」
「え……」
ノルンは先程の猫から屋根に留まるカラス、遠くの犬。全てがこっちを見つめている事を悟った。
「……!?」
「黒幕の目か、狙っているのかは分かりませんが警戒を……」
「はい……」
二人はジッと動物に見られながら進む、一番大きな屋敷が目の前に見えてくる。
「あれがブランカ公の館です」
「……?何か様子がおかしく無いですか?」
ノルンは目を細め館の窓を見つめる、すると……
パァンパリン!
所々の窓ガラスが割れて蠢く影が見えた!
「なんだ!?館で何が起きている?」
「……ハルト!」
一瞬外に飛び出た妖精、黒い影が連なり空まで追っている!
「ハルト殿!ノルン殿!!」
「はい!」
少し遠くだがこの位置でも届く!
「サンダーボール!!」
握りしめた黄色い魔鉱石と自身の魔力を合わせて電撃の球を蠢く影に放つ!
パァン!!ビリビリビリ!!
「オオォォ!!」
連なる影は連鎖して感電していく、そしてハルトがこちらを見て手招きをした!
「ハルト?入れって事かしら!?」
「行きましょうチャンスかも知れません!!」
ノルンとレオンは走り出し館に飛び込んだ!
「ハルト!ハルトどこ!!」
「上です!」
レオンが騒ぎの方を見ると同時にどこからか黒い影が湧き上がる!
「チッ!ノルン殿走って!」
レオンは湧き上がる影を薙ぎ倒しながら進軍を留めてくれている。
「ハルト殿と合流を!」
「レオンさん!……っ!」
ノルンは走り出した、階段を上がり二階へ。さっき見えたのは四階らへんだったのでまだ上だ。
「オオォ」
階段先を影が塞ぐ!
「邪魔よ!ファイアストーム!」
風の魔力と火の魔力を詰めた魔鉱石を両手に握り複合魔法を作り出す。
ハルトとの連携から着想し準備したノルンの魔法だった。
影は一瞬で消し飛んだ……が、この魔法は失敗だった。
館に燃え広がり燃焼が広まる。
「しまった!……もう遅いか!」
ノルンは切り替え階段を走り出す!
三階に到達したがハルトは見えない、上の階で騒ぎが大きくなっている。
下から火の手も迫る、急いで四階に向かおうとした時だった。
ガチャ!
連なる部屋の一つから全身を黒いローブで覆う小柄な人が出て来た。
ノルンは足を止め、その者を見た瞬間確信した。
(こいつだ!こいつがアンデッドを操ってる!)
全身から漂う黒い煙、人と呼ぶには異変だらけの空気。
「チッ小娘が!」
黒い人は手を振って黒い煙を放ってきた!
間一髪躱したが次が来る!
「サンダーボール!!」
「効くか!」
先に撃った電撃の球が煙に覆われて消滅してしまった。
黒い人は追撃の煙を放った!
(躱せない!)
反射的に目を瞑り固まった……だが衝撃が来なかった。
目を開け見開いた、大きな背が見えた。
「大丈夫ですか?」
「レオンさん!」
「貴様、あの時の死に損ないか!」
「あんな有象無象に負ける俺じゃ無い、お前が義父を操りブランカ領を乗っ取ったのだな?」
「……ふん、悪魔と契約したんだ、相応の対価は頂くさ!」
「何が対価だ!」
レオンは弾かれたように黒い人との距離を詰め拳を振るった!
……しかし、黒い人はゆるりと躱して反撃に黒い煙の塊をレオンに突き込んだ。
「ぐっはっ!」
「レオンさん!」
「人間を超えた俺様に敵うわけなかろう?」
(人間を超えた?)
ノルンはその言葉が妙に気に掛かった、しかし考える間も無く黒い煙が襲いかかってくる。
レオンを抱えるには力が足りない!
「ウィンドバースト!」
背後から突風が吹き黒い煙を巻き込んで爆散させた!
「ノルン!レオン!すまない帰れなくて!」
「ハルト!」
「レオンを連れて階下に行け!もう階段崩れるぞ!」
見れば火は相当広がってしまい、崩れるのも時間の問題だ。
「ノルン!風の魔鉱石あるか!?」
「え?……ハイ!」
魔鉱石を投げ渡すとハルトは抱え込んで笑った。
「このノルンサイズなら十分だ!」
「妖精風情がぁ!!!」
ハルトは迫り来る黒い煙を躱して黒い人の懐に入り込み……風を集め出した!
「危ない!レオンさん急いで!」
ハルトが集めた風に危険な空気を感じたノルンは階段下、火がまだ弱い所へレオンごと飛び込んだ!
ズバァァァンン!!
とんでもない轟音が階段上で響き静まり返る、ハルトは無事なのか?
とりあえずこの階段は守らないといけない。
ノルンは水の魔力を詰めた魔鉱石をばら撒いた。
「レインカーテン」
手の軌跡に合わせて水のカーテンが出来る、それに触れた魔鉱石が反応してカーテンを大きく強くしていく。
これで火災は落ち着くだろう。
「ふぅ、ハルト……」
「うっノルン殿……済まない、上に行こう……」
意識がハッキリしてきたレオンと共に階段を上がる。
二人はギョッとする。
見ている先に空が見えたのだ。
三階四階と館の壁を一部分吹き飛ばして、青空が広がり太陽が眩しい。
廊下に座るハルトが手を振っている。
「ハルト!」
「ハルト殿!」
「すまなかったな二人共、結局助けられちまった」
「心配したんだからね!」
「ご無事で何よりです……アイツは?」
「この世から吹き飛ばしたよ、館も吹き飛ばしちまったが……許してくれ」
「誰が貴方を責めましょうか……ありがとうハルト殿」
レオンは涙を流して最上級の敬礼を取った……




