魔工学の力
ノルンの家、水車の同時建築が始まり二週間余り。
先に家が完成して村から歓声が起こった。
シンプルなデザインでやれる範囲最大限に村人の感謝が形になった、素晴らしい家にノルンは頭を下げっぱなしになる。
「ありがとうございました!」
「ノルンちゃんこれからもよろしくね!」
「お隣さんだぁ!」
「なんかあったらすぐ良いな!」
皆から祝福を送られて泣きそうになりながらノルンは家に入る、まだ中の物は充実してないが時間の問題だろう。
「うわぁ……本当にありがたいなぁ」
コスモス村の愛が詰まっている気がした。
「ノルン〜なかなか良い家だな!」
「ハルト、そっちはどうなの?」
「ああ、土木工事も一区切りだし後は組み立てだな三日後くらいには出来るだろう」
「じゃあ後は麦畑ね」
「そうだな、麦挽きの効率が格段に上がるから畑も増やさないとだな」
「土地はあるけど耕したり種蒔きに人手が要るわね」
「それについても考えはあるぞ、村長に相談だ」
「ちょっと、もう忙しないわね」
ハルトに引かれてノルンは村長宅を訪れた。
「ノルンよ、家の完成おめでとう、晴れて村民じゃな」
「ありがとうございます、微力ながら頑張ります!」
「ところで妖精殿は何か用かな?」
「ああ、水車の建造目処が立ったんだが麦農地の拡大について話がある」
「農地の拡大?しかし村人数の関係でこれ以上は管理出来んぞい?」
「今までならな、この近くに炭鉱はあるかい?」
「炭鉱じゃと?古くなった使われてない所はあるがクズ石しか採れんぞ」
「深さがあれば見つかるはずだ、場所を教えてくれないか」
「ふむ、妖精殿がそう言うなら……村から北に出た荒野地帯に幾つか穴はあるが、崩落の危険があるぞ?」
「俺なら関係ない、大丈夫さ。んじゃちょっと二、三日留守にするぜ」
「ちょっとハルト……行っちゃった」
「ホッホッ妖精殿はこの村の発展を楽しんでおるように見える、ありがたいことじゃの」
ノルンは自宅に戻り生活に必要な物資を揃えていく、暗き森の小屋を往復して引っ越しだ。
いざ引っ越しとなると住んでいた森の小屋が懐かしくなる、コスモス村に流れ着いて少しずつ建てた自分の家。
魔法は使えても女の身なので大変な事もあったが、やれば出来る物だった。
「力仕事がどうしてもね〜」
ノルンは笑いながら小屋の壁をなぞる、木を組み合わせた簡素な小屋でも愛着はある。
中身だけ移動して小屋は残す事にした。
村に戻ると何かざわついている。
(なんだろう?)
広場で固まっていた婦人達に聞いてみる。
「何かあったんですか?」
「ああ、ノルンちゃん。ブランカ街道で野盗が出たらしいのよ」
「野盗?」
「そう、今ブランカ領内で被害が拡大してるみたいよ」
ブランカ領、コスモス地域から南の名士ブランカ公が治める領土。
コスモス地域の村と交易はしているが互いに独立しているので、内政は分からないが聞いた事ない事件だ。
「ほら、街道はこっちにも繋がってるじゃない?ウチは単なる村だけど逃げてくる可能性があるからノルンちゃんも気をつけなさいよ!」
「うーん、怖いですね……気をつけます」
野盗が活発になるほどブランカ領は荒れているのだろうか?
ノルンは気になりながらも一旦自宅に戻って行った。
三日掛けて引っ越しは完了した、そしてハルトも戻って来たが……
「ハルト!ドロドロじゃない!家入ってこないで!」
泥だらけのハルトを外に追い出し魔力を形作る。
「ウォーターフォール」
ドザザザー!
「ぶへっ!もう少し優しい魔法で……」
「そんなドロドロで家入るからよ!」
泥を流し終え、ハルトは背負っていた自身の三倍はありそうな袋を開けた。
カチャカチャッ
「え、コレって」
「そう魔鉱石さ、ある程度の深さなら簡単に採れるもんだ。使い方はノルンが見つけたんだけどな」
「覚えてないよ……」
「今はな、その内思い出すさ。とりあえず水車見に行こうか」
ノルンとハルトは水車造りの現場を訪れた。
「おお、出来てる出来てる」
「お、ハルトさん完成でさ!でも水流弱くて動かないよ?」
「大丈夫、水流は起こせるからノルン」
「はいはい、んっ!」
ハルトが採ってきた魔鉱石に水の魔力を込める。
そして水車の近くへと投げ入れた。
……ギッギッギッ
軋む音を響かせて水車が回り出す。
同時に歓声も上がる。
「おーこりゃ見事だ」
「魔法って凄いなぁ」
各々が関心を持って水車を眺めている、後は小屋を併設し粉挽き歯車を接続すれば麦挽き自動化の完成だ。
「まだ小屋に時間かかるが、皆よろしく頼むよ!」
「おー任せとけ!」
とりあえず一段絡だろう、しかし素となる麦の栽培はどうするつもりなのか?
ハルトは地面に何か細工をしている。
「……よしっとノルン、そこの地面に見える魔鉱石に小さなファイアボール撃ってみて」
「え、大丈夫なの?」
「物は試しだ」
「大丈夫かしら……ファイアボール!」
指先から小さな火の玉が飛び魔鉱石に当たる……そして。
ドドン!
地面の下が盛り上がるように広く爆発する。
「きゃっ!」
ノルンは予想外の爆発に驚く。
「ふむ、上手くいきそうだ」
「ちょっとハルト先に言ってよ!」
「すまんすまん、埋めた火薬が多かったみたいだ」
先程細工していたのは火薬の筋を作り地面に埋めていたようだ。
「火薬なんてよく見つけたわね」
「正確にはこれも魔鉱石だけどな、純度が低い魔鉱石は熱魔法で弾けるんだ」
「え、怖いわね」
「魔鉱石が採れる近くにあるからな、気を付けないと一体が大爆発だぞ」
「……私、絶対行かないからね」
「まあ、昔から魔女は立ち入り禁止区域さ。仕組みは簡単だ、魔鉱石に火の魔力を当てて火薬を伝わせた道を爆破させる。そうすれば一発で広範囲が耕せる」
「荒っぽいわね」
「そう言うなって、耕すのに労力掛かるなら短縮出来て良い」
理にかなっているが少々危険ではある。
「これで耕しはクリアだ、皆が楽になるだろう」
「ハルトはどうしてそこまでしてくれるの?私の為なの?」
「それもあるが、俺は人間が好きなんだ。進化の途中だからな、無限の未来を見せてくれる」
楽しそうに語るハルトを見て妖精とは不思議な生き物だなと、ノルンは思う。
「さあ、まだまだやれる事やらなきゃな!次は麦蒔きを補助する農具と水撒き機械だぞ〜まだまだ魔鉱石集めないとな」
魔鉱石と魔女の組み合わせで劇的に生活が変わろうとしている、ノルンもちょっぴりと楽しみになっていた。
「よし、良いか?全員離れたか!?」
コスモス村の外れ、農地拡大に選ばれた広大な土地。
水車は完成し、併設する水車小屋の建築は始まっている。
併せて麦を育てる農地開拓を見ようと、村人は集まる。
「ううむ、これだけの広さを耕すだけで人の手じゃ一週間は掛かるわい」
村長は半信半疑で平野を見る、無理もないコスモス村で管理できてる畑面積の十倍は広く取っている。
妖精ハルトの計画を聞いた時は夢見たいな話であったが、水車を動かす動力を魔力で補った手法を目の当たりにすれば期待が湧いてくる。
今回も同源は「魔鉱石」と「魔女の魔力」
村の男数人が手伝い、廃坑から魔鉱石を掘り出してきた。
見た目は綺麗な石程度だが、従来外れ石と呼ばれる価値は無い物だった。
それが魔女が手を加えると化ける石だったとは思うまい。
ハルトは空を飛び回って安全確認をしている。
「妖精殿ー!こちら村民は避難しましたぞー!」
「ありがとう村長ー!……よし、皆耳を塞いどけー!ノルン、魔女族の皆、手筈通りに撃てー!」
「皆、頼みます!せーの……ファイアボール!」
地面に等間隔で置かれた魔鉱石、そこから農地予定にまた等間隔で筋が入るように撒かれた火薬。
村の魔女族総出で指先から魔鉱石に火の魔力を放った!
それぞれ魔鉱石に当たり吸い込まれる、紅く輝きだした魔鉱石から火が上がり……
ドドン!ドン!ドォンドォン!!
「わっ!」
思わずかがみ込む程の広い範囲で爆発が起きた、土煙が収まり爆破の跡が見えてくる。
村長とノルンが近くに行く、村民は固唾を飲んで見守る。
「村長……!」
「参ったわい……しっかりこの広い範囲が耕されておる!」
村人は大歓声を上げた、一週間は掛かりそうな広さを一発の魔力と仕組みで一瞬にして耕した。
農民にしたら夢のような成果だ。
「上手くいったなノルン」
「ハルトもお疲れ様、魔鉱石……使い方を考えれば人の生活が格段に変わるわね……」
「……ノルン、忘れちゃいけないのは使う人、使う方向による事だからな」
「ハルト……?」
ハルトは浮かない顔を見せた、今の言葉にどんな意味があるのだろう
耕された畑になった地を皆で麦蒔きをしていく、そして水を撒くにも魔鉱石とちょっとした仕掛けで大幅な短縮をする。
長い紐を張り、等間隔に吊るした魔鉱石へ水の魔力を送る。そうすると水が湧き出る石となり、両方で引っ張って移動すればすぐに広範囲に水を撒ける。
村長は「これならまだまだ生産拡大できますじゃ、コスモス地域が一大生産地になるますぞ!」と鼻息が荒くなっている。
長年コスモス地域は北の荒地と南のブランカ領に挟まれ、滅びはしないも発展出来ない静かな村が点在する地域でしかなかった。
だからこそブランカ領も支配圏を伸ばさずに、放置されてきた。
麦の増産と加工が出来れば時折来る食糧難を回避できる、更にブランカ領への交易主要品目にできる。
人口が多い領には食糧が一番稼ぎが良いのだ。
村人達は湧く、広大な地を低コストで活用できた実感とこれからの発展に。
——それから半年が過ぎた
様々な生活へのアプローチとして魔鉱石はコスモス村の魔女の必須アイテムとなっていた。
ノルンとハルトを中心に、村の頭が良い若者も混じり日夜魔鉱石を使った道具や仕組みが研究されていた。
そんな折、麦畑を管理する農民が慌ててやってきた。
「村長!麦畑に来てくれ!」
何事だと丁度村長宅に居た面々は顔を見合わす。
麦畑に着いた時、ノルン達は目を丸くした。
風に揺れる黄金の穂波、圧巻の光景だった。
だがしかし、昨日までは伸びてきたなと思うくらいの成長ぶりだったのに急な加速をしている。
「こりゃあ思わぬ副作用だ、魔力を吸って成長速度が格段に上がっている」
ハルトの顔が驚きの顔をしている、ハルトも予想外の事だった。
「これ、もう収穫時期じゃない?」
ノルンは一つの麦を触り呟く。
その言葉に農民は慌てる。
「そ、そりゃあマズイ急いで収穫せにゃ品質が落ちる!」
成長速度が早まっているのも加味すれば、急がないといけない。
幸いこの半年で穀物庫や水車小屋は作れている、刈り入れだけだ。
「村長!動ける者皆呼ぼう!魔鉱石使った道具考えてる暇がねぇ!」
「あいやわかった妖精殿!」
珍しく慌てるハルト、その顔は慌てながらどこか楽しむ顔だった。
「だぁー!久しぶりに肉体労働したぜ!」
「うふふ、お疲れ様ハルト」
一面の黄金の穂波が刈り尽くされて、今は草が生えてるような場所みたいだ。
「ふ、こんなのも楽しいな」
「そうだね、ちょっと魔鉱石に頼り過ぎてたのかもね」
「……ははっ!」
「どうしたの?」
「昔のノルンも同じ事言ってたよ」
「そうなの?」
「記憶を無くしててもノルンはノルンだな」
「うふふ、私は私だもん」
村人達の人海戦術により回収された麦は普段の十倍量はあった、農地が広がった分そんなもんだろう。
ただ品質が高い、どれも大きくツヤがある。
ハルトは「魔力を吸った影響は麦の健康状態の向上にも作用している」と振り返った。
後は乾燥させて水車小屋で挽けば、初めての魔鉱石を利用した麦が完成する。
「ノルンお姉ちゃんー!」
「あら?どうしたのカイ君」
「ひ、人が倒れてるんだ!!」
ノルンは跳ね出てカイに案内を頼んだ。




