魔鉱石の使い方
ドラゴンの襲撃から三日、近隣の村からも支援があり片付き出した。
倒したドラゴンは解体し、南の領主が治める街「ブランカ」への交易材料に加工されていく。
珍しいドラゴンの皮や爪、尾や鱗と余す事なく儲ける材料になるだろう。
それを復興支援費用に充てても、お釣りが来るほど貴重な素材だ。
交易は村民に任せて、ノルン含む魔女族は火や水を操り全体の補助に活躍していた。
妖精のハルトもその小ささに関わらず、全体を飛び回り的確な復興指示を飛ばしている。
今回の一件でノルンは英雄や奇跡の魔女なんて呼ばれている。
(でも……あのドラゴン、間違いなく私が目当てだった)
拭いきれない謎を抱えながら復興に勤しむ。
そんな中、村長から提案があった。
「ノルンよ、お主コレを機に村に居を構えんか?」
「……え?」
「静かに過ごしたいお主の気持ちは分かる、だが今回お主に助けられて、このまま暗き森の魔女に戻すには忍びない……強制はせんが、ノルンが居てくれるとコスモス村もありがたいんじゃ」
村がノルンを必要としてくれている、ありがたい評価ではあるが即決するには悩む話だ。
ハルトが耳打ちをしてくる。
「決めるのはノルンだ、ただこれから過去を思い出すなら村は都合が良い」
「……少し考えます」
とりあえず保留にして復興に尽力をする。
「ノルンのお姉ちゃん!」
砕けた木材の破片を集め燃やしている所に少年が訪れた。
「あっ、君は」
ドラゴン襲撃の際に助けた子、母親も居る。
「あの時はノルンさんに助けられて……私はミナ、改めて本当にありがとうございました!」
「お母さんを助けてくれてありがとう!僕カイ!」
「カイくん、ミナさん……私はノルン、お母さんを助けたのはカイ君もだよ?燃える柱を支えて、ほら火傷しちゃって……」
カイの左頬には燃えた瓦礫が当たっていたのだろう、くっきりと火傷の跡が残る。
ノルンの胸が痛む。
だがカイは元気良く言った。
「お母さん助かったから痛くもないさ!」
「この子に傷は残りましたが、何よりも命が助かりノルンさんのおかげです。復興が落ち着いたら是非お礼させてください」
「ミナさん、カイ君……ええ!まず復興しましょう!」
「ねえノルンお姉ちゃん、僕も魔女になれるかな?」
「う、うーん魔女は何故か女の人しか出てこないんだ」
純粋な想いをぶつけるカイに困りながら、ノルンは隠さず伝えた。
その時。
「ふーん、今そうなってるのか……ノルン、カイに魔鉱石持たせろ」
「ハルト?……カイくん、手を」
カイの手に魔鉱石を渡す。
「魔鉱石に魔力だけを送ってみな」
「魔力だけ?」
ハルトの言う通りにしてみる、カイの手に置かれた魔鉱石に手をかざす。
(何?魔力が吸われる?)
魔鉱石に吸われるようにノルンの手から魔力が勝手に出ていくようだ。
「よし、それくらいで良いカイ、石を片手で握って空いた手を燃やしてる瓦礫に向けてみろ」
「え、こ、こう?」
カイは左手を突き出し燃えている瓦礫の山に向けた。
「ノルン、カイの右手を握ってファイアボールをカイの左手から出してみな」
ハルトは訳がわからない事を指示した、ノルンからカイを伝って魔法を撃つ。
そんな事はやったことがなかった。
「大丈夫、上手くいく」
ハルトはノルンにウィンクをする、半信半疑のまま言われた通りカイの右手に手を重ね魔力を高める。
(え?魔鉱石に伝わってカイ君の身体のイメージが流れてくる?……これなら)
「カイ君!しっかり狙って!」
「う、うん!」
「ファイアボール!」
ノルンは魔力を放出した、次の瞬間魔鉱石に吸引される力を感じカイの身体に入り込む感覚を覚える。
ドンッ
「わぁ!」
なんと、カイの空いた左手から小さな火の玉が発射され瓦礫の束に当たった。
「え……」
「い、今……お母さん?」
「え、ええ……カイが、魔法を?」
「だから言ったろ、大丈夫だって」
男の子が魔法を放った。
ノルン達の常識ではありえない事、女性にしか宿らない筈の魔力を形に変えて放出する。
長年の常識が覆された瞬間だった。
「そんなに驚くことじゃないよ、魔鉱石の特製だ」
「魔鉱石の?」
ノルンはカイから受け取った石を眺める。
魔力を吸われる感覚はあるが、他には特に感じない。
「そいつは魔力を記憶伝達させる特製を持つ、人や物を通じて今みたいに使う事が出来るんだ」
先程のカイがファイアボールを放ったのは、魔鉱石を媒体にしてノルンの魔法が撃てたと言う訳になる。
「……不思議な石ね」
「……そいつを最初に見つけたのはノルンさ、今は記憶が無いだろうが」
記憶が無い。
ノルンは北の地から荒野を越えてきた、しかしそれ以前の記憶は無い。
気付けば荒野の真ん中で目覚め歩き出したのだから。
「ハルト、あなたは私をどこまで知るの?」
「うーん、とりあえず今言えるのは……古代人と言うべきか、とにかく古い時代の人間だ」
「……古代人」
イマイチピンと来ない、人々となんら変わりない姿だし記憶が無さ過ぎる。
「関係ないさ!ノルンお姉ちゃんはノルンお姉ちゃんさ!」
カイが叫ぶ。
「……カイ君」
「ハハハ、カイの言う通りだ!ノルン、色々やっちまったが今は村を建て直そう、落ち着いたら過去はちゃんと説明してやる」
「……そうね、今はそっちが優先ね」
ノルンは魔鉱石を握り今やるべき事をやりだした。
魔鉱石は静かに鈍く輝きを灯していた。
——ドラゴン襲撃から一週間
なんとか大枠の形は整い、後は細かな修繕で復興に目処が付いてきた。
「ねえ、ハルトあなたは妖精よね?」
「ん?そうだぞ」
「どうして姿を見せたの?妖精って姿を見せずに生きる者じゃないの?少なくとも人間は見る事なく生涯を終える事の方が多いのに」
ノルンは不思議だった、妖精とは臆病で慎重。
人前に姿を現す事が一生の奇跡、もはや想像上の存在かと思われている節がある。
「まあ、人間からはそう見えるらしいが別に必要がないから会わないだけだぞ?」
「そうなの?」
「住んでる生活圏が被らないだけで、妖精だって様々居るさ」
「そうなのね……あなたはドラゴンの中に住んでたの?」
「いや、あれはあの野郎がノルンを探してたから俺が乗り込んだんだ」
「……やっぱり私を狙ったのね、でも何故!」
あまりに不可解な出来事だ、ドラゴンが人里に来るなんて聞いた事が無かった。
世界の火口近くや大自然の奥地で生息例が伝えられる程度だ。
「ノルンが古代人って言っただろう?それに関係してくるんだが……」
ハルトは辺りを見渡した。
「ノルン、ここに俺と住まないか?」
「え?」
「家を建てて魔鉱石で村を発展させよう、たぶん思い出してくるはずだ、俺が説明するよりその方が自然に納得できるはずだ」
ノルンは迷った。
もしかしたらまたドラゴンがノルンを狙う可能性もある、理由は分からないが狙われてるのは違いない。
「でも……また村が襲われたら……」
「その防衛の為にも魔鉱石を活用するんだ、ノルンなら出来るしノルンにしか出来ない」
魔鉱石の活用、具体的にどうするかが見えないが守れる力を使えるならば……
ノルンは静かに頷いた。
「ノルンさん、コレはここで良いかい?」
村長に村に住まう事を告げた翌日から村人総出で、建築が始まる。
村の英雄に皆が協力してくれたのだ。
「ノルンお姉ちゃんハイ!」
昼食休憩で皆に食糧を渡し歩くカイ、あの日以来懐いてくれている。
ふとハルトが川を見てる姿が目に入る。
「ハルト?」
「なあノルン、一つ物を作ってみようか」
「物?」
「ここに強力な水車を作ろう、村人に協力してもらってな」
何を言い出すのだろうとノルンは思った、ハルトが見る川は流れがあまりに弱く増水の危険は無いが、活用するには心許ない。
「俺に任せろ、おーい村長ー」
ハルトは行ってしまった。
ノルンは川を見る、小さな川だ魚も居ないような小川。こんな所で水車等動くようには思えない。
そうこうする内に村長を連れてハルトが帰ってくる。
「なんと!ここに水車を?」
「ああ、側に小屋を建てれば麦を挽ける、そうなりゃ次は穀物庫建てて村は食糧の不安定さから解放される」
「いやはや確かに妖精殿の言う通りだが……この川では弱いのでは?」
「そこはノルンがなんとかする、必要な材料を村人で集めて欲しい」
「ちょっとハルト!無茶よ!」
「信じろノルン、お前がお前を取り戻す為だ」
ハルトは真剣な眼差しでノルンを見つめる。
忘れている過去、それを取り戻すのに必要な事。
それに村が発展するならばやる価値もある。
「……村長、お願い出来ますか?」
「ふむ、訳有りみたいじゃの……あいわかった!儂等ノルンに救われた身、協力しようぞ!」
「ありがとうございます」
「ノルン、魔鉱石を」
ハルトが魔鉱石を出すよう促す。
「水の成形をイメージして魔力を込めてくれ」
ノルンは集中して魔力を込めた、青く輝きだした魔鉱石から水が滴る。
「おお……」
村長も声を漏らし見つめる。
「よし、これをこうして……ノルンそのまま川の岸から浅瀬に入れてみてくれ」
ハルトは妖精の魔力で作った糸を魔鉱石に結びつけ片方を岸に縛った、無くさない為の処置だろう。
ノルンは岸から魔鉱石を川に投げ入れた。
ズオッ!
効果はすぐに目に見えた、魔鉱石を入れた所から水流が強くなり流れを起こしてる。
「魔鉱石に込めた形成された魔法は環境で増幅するんだ、今回なら水の魔法に川の中で相乗効果を生んでいる、どうだいノルンと村長。これなら水車を動かす事が出来る」
「確かに、むぅ……魔女の力、魔力とは恐れ入る」
「魔鉱石……可能性の塊なのね……」
そう言い終えた瞬間ノルンに覚えの無い光景がフラッシュバックする。
(ノルン、魔鉱石の可能性を探るんだよ)
優しい懐かしい声……
ハッとノルンは我に返る。
(今のは……)
忘れている記憶、過去にも似た事をしているかもしれない。ハルトは体験を通じて呼び起こそうとしてくれている。
翌日にはノルンの家造りと並行して村人による水車作りも始まった、ハルトが指揮を取り材料調達や設計に勤しんでいる。
「ノルンお姉ちゃん」
カイがやってきた、少年ながら一番の働き者でノルンの家造りを手伝ってくれている。
「カイ君、ありがとうね」
「また魔法教えてよ!」
「うふふ、危ないから人には向けない約束でね?」
「うん!村のお姉ちゃん達が言ってたけどノルンお姉ちゃんの魔力ってちょっと違うんだってね」
「え?」
「なんか同じようで濃い?って言ってたけどそうなの?」
魔力が濃い、気にしたこともなかった。
同じ魔女族の魔力と言うだけで出せる物も同じ筈……
その時ドラゴンを倒した光の筋を思い出す。
(あれは、知らない魔法だった……)
「お姉ちゃん?」
「あ、いやなんでも無いよ。もうすぐ家出来そうだね、皆手伝ってくれてありがとう」
まだ細かな補修が残る村全体だが、優先して手を尽くしてくれている。
カイ含め村人に感謝するノルンだった。
同時刻、南のブランカ街道では一つの騒ぎが起きていた……




