始まりの時 薄暗き森の魔女ノルン
「魔工学」
魔力を動力源とし機械を動かす力、及びその研究や学問である。
魔工学を定義し発明運用を始めた歴史の始まりの女が居た。
暗き森の魔女と呼ばれていた者は、一つの発見をする。
「魔鉱石」
地中深くに眠るはずの石を見つけた時に運命が動いたのだ。
女の名前はノルン、魔力が高かったが故に魔女族と識別される。
魔女族は身体に宿す魔力を具現化し火や水、電撃と言った自然現象を発する事が出来る。
ノルンが住まう地方では珍しくは無いが、生活上の有用性から魔女族として区別される。
不思議な事に女にしか現れなかった為、いつからか「魔女」と呼ばれた。
魔力が強い以外は人間の身、衣食住が必要になる。
ノルンは北の方角から来た移民だった。
元居た住民は驚きを隠せなかった、北の地は荒野しか無い認識であったし、歴史的にも初めての事だった。
ノルンは言った。
「人が来ない場所で良い、一人で生きるからこの地に住まわして欲しい」と。
原住民達は受け入れた、不思議な者だが人間の魔女族に変わりはない。
ちょっと遠くから来た移民者にしか思っていなかったのだ。
ノルンは日夜暗がりの森に居を構える。
必要最低限の小屋、魔力で狩りをし必要であれば村に出て売り買いをする。
「鹿の角を納品するわね」
「はいよ!ノルンさんオマケに持っていきな」
狩猟集積屋のオジサンがパンを一斤くれる。
「あら!ありがとう!」
ノルンは村民から受け入れられていた、出自は不明ながら明るく愛想が有り、狩猟の腕も確か。
卸す狩猟品が村の繁栄にも繋がり、交易の目玉品になる。
コスモスと呼ばれる村とその地域でノルンは慎ましやかな生活を暗き森で行っていた。
コスモスに統治者は居ない、小さな村が幾つか点在してはいるが各村に村長が居るくらいでのんびりした地域だ。
ある日の事、ノルンは小屋の上に登り星を眺めていた。
暗き森と呼ばれるだけあって星が綺麗に見える、お気に入りの時間だ。
フッと輝く月に影が掛かる。
「え?何?」
ノルンは立ち上がり影を見つめる、空を飛ぶ何かのようだが姿まではわからない。
近くの村の方に向かっている、ノルンは胸騒ぎがした。
急いで小屋を降り村に走った。
「何だろう……嫌な予感がする……」
ドガンッ!!
村の方に大きな音、煙、明るく燃えるような空。
只事ではない事が起きてる!
ノルンは森を抜けコスモス村を視界に入れた。
ノルンは絶句する。
燃える村、逃げ惑う人々……家程ある大きなドラゴン……
「お母さん!」
子供の叫び声が聞こえた、声の方に子供と崩れた家に挟まれた母親が見える!
更に崩れようとする家にノルンは飛び出した。
「ウォーターウォール!!」
複数の水柱が立ち家を持ち上げ火の手を遮る!
「早く逃げて!」
ノルンは叫んだ。
動けるようになった母親と子供は泣きながら避難する。
「そこに居たか」
聞き慣れぬ声がノルンを叩いた。
上から聞こえるその声に顔を上げると、ドラゴンが見下ろしていた。
「やっと見つけたぞ」
ドラゴンが言葉を発した、存在自体が一生に一度出会えるかの生物。
人語を話すなど聞いた事も無い。
思考が目まぐるしく巡る、だが明らかにこちらを標的にしている。
考える間も無くドラゴンは牙を向けてきた!
(やられる!)
バチバチッ!
「ぐっ!」
「ノルンさん離れて!」
そこには村に住まう魔女が数人、合わせて電撃を放ったようでノルンは距離を取る。
ドラゴンは魔女を一瞥して怒りを露わにする。
「出来損ないの魔女族が鬱陶しい!」
ドラゴンは尻尾を振るい辺りを薙ぎ払った。
風圧で村の魔女達は吹き飛ばされる、ノルンも体勢を崩し膝を付いてしまう。
「終わりだ!!」
ドラゴンの口に火球が形成されていく!
(もうダメ……!)
「ノルン!手を出せ!」
どこからか声が聞こえて反射的に手を上げる。
(今の声、何)
身体が勝手に動かされるような感覚、意識してないのに上げた手に魔力が集まり小さな光の筋がドラゴンの火球に向かう。
ビュン!
何かが光の筋を通って放たれた。
ドッガァッッン!!!
轟音と共にドラゴンの顔が爆発に覆われ……煙が収まると同時に首から上が吹き飛んだ胴体は地面に倒れた。
「え……倒せた……?」
しばらく静寂が訪れていたが、どこからか歓声が上がり放心するノルンに村人が集まってきた。
「ノルンちゃん!無事で良かった!良かったよー!」
「大丈夫かい!?ちょっと座る物持ってきてー!」
「ノルンさん!ありがとうございます!ありがとうございます!!」
先程助けた親子も居る、コスモスの村人達も無事みたいだ。
ノルンは放心しながら少しずつ助かった事を実感していた。
——翌朝
太陽が登り改めて被害状況が明らかになる。
残念ながら複数人の死亡が確認、村の建物はほぼ倒壊状態であった。
村の中央ではドラゴンの亡骸をどうするか話し合われている。
ノルンは犠牲になった者達の墓建てを手伝い、ドラゴンの下へ向かう。
頭が吹き飛んだとは言え、胴体だけでもかなり大きい。
(私がこんなのを倒せた……?)
いくら魔女と呼ばれようが生活の補助になるぐらいの魔力形成しか出来ない。
光の筋を出す魔法なんかも心当たりがない。
村人達はノルンが村を助けたと盛り上がっているが、実感はなかった。
「ノルン、手をもう一度出すんだ」
「え?」
また聞こえた謎の声、その声に導かれるようドラゴンの腹辺りを指す。
村人達は何をするんだ?と見守っている。
スーッとまた光の筋が通っていく、ドラゴンの腹に当たり染み込むように……
次の瞬間、小さな光の玉がドラゴンの腹から抜け出てくる。
「え?え?何?」
ノルンは慌てた、無意識の魔力放出が止まらないし知らない魔法だしで、極め付けは腹から何かが取り出されたのだ。
村人達も唖然としている。
ノルンも訳がわからない。
光の玉は地面に降り光が弱まる、見えてきた形を見て全員が驚いた。
「……よう、せい?」
緑の髪色、蝶の羽、大きさは赤子くらいだろうか?
両手に何か綺麗な石を抱きしめている。
身体のサイズはともかく、大人をそのまま小さくしたような顔立ちの妖精が居た。
「ふーっ、この野郎暴れやがって……ようノルン!久しぶりだな!!」
「……?」
こんな妖精は知らない、そもそも妖精はドラゴンよりも目撃例が稀な生き物だ。
一説には生き物の括りではなく自然物の概念とさえ言われている。
「……ノルン、まさか俺を忘れているのか?」
「……私はノルンだし昔の記憶はないけど」
「うーん……参ったなぁ、あの方の予想が当たっちまった」
「あの方?」
「……よし、まだ想定内だ少しずつ思い出して貰おう、とりあえず俺はハルトだ覚えておいてくれ」
村人達もざわつき出しているし、村の復興もしなければならない。
「あの、ハルト?少し復興のお手伝いしてからで良いかしら?」
「ああ、俺も手伝うよ。村人の皆!俺は妖精のハルト!宜しくな!」
悪い者では無さそうだとノルンは安心し、復興の手伝いに入る。
「あ、ノルン!この魔鉱石は君のだからしっかり持っててくれ!使い方は…忘れてるだろうから後で教えよう。復興にも役立つ筈だ」
ハルトは抱えていた綺麗な石をノルンに託し、飛び立った。
不思議な力を感じる石だった、そして魔鉱石と呼ばれる石からこの先千年を刻むこの世界の歴史が生まれた瞬間だった。
ノルンと魔鉱石、始まりの時だった。




