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9 謎の男

 薄暗い書斎《しょさい》の奥、大きな革張《かわば》りの椅子に男は深く腰《こし》を沈めていた。

 40代前半のはずの男の顔は、薄くなった前頭部と深いシワのせいでまるで60代のように老《ふ》け込んでいる。 左手に持ったスコッチウイスキーのグラスをゆっくりと揺《ゆ》らしながら、右手のカードサイズのUNIを顔の近くに引き寄《よ》せた。画面には〈通話先 Unknown〉と表示されている。

「……ですから再々私が言っていたように、やはりあの少年は危険でした。ええ、ヘリックスでも駄目でした。いや、しかし……」

 男は言葉を切り、グラスを一口傾け《かたむ》た。声は低く、わずかに震《ふる》えていた。

「しかしまだ位置は把握《はあく》しています。いいえ、その心配は不要です。なにしろあれはかなり旧式の追跡装置ですからね、アルタリでも探知不能です。リヤド方面に向かっているので、おそらく行き先は軌道上のヌールポートでしょう。N.S.F. (※) にいる我々の〈友達〉を使います。……進捗があり次第報告いたします。では」

 通話を終えた男は、UNIをテーブルに置き、大きく息を吐いた。椅子に深くもたれかかり、もう一度グラスを傾《かたむ》ける。琥珀《こはく》色《いろ》の液体が喉を焼くように流れ落ちた。テーブルの上のフォトスタンドに指を近づけると、ホログラムが浮《う》かび上がった。カールしたロングヘアの美しい30代のブロンド女性と、彼女と同じ瞳をした、真っ直ぐな短い髪の少年が、こちらに向かって笑っている動画がループで再生される。

 男は画面をじっと見つめ、掠《かす》れた声で呟いた。

「……これが終われば、きっとまた一緒に居られるからな」

 彼はゆっくりと目を閉じた。グラスの中で残ったウイスキーが静かに揺《ゆ》れていた。




※【N.S.F】 ヌーラーン保安部隊 (Nuraan Security Force)

 職務はヌーラーン星系の軌道上および惑星周辺の治安維持、重要施設警備で、いわゆるこの星系の警察組織。

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