5 取引
警告音が施設内にけたたましく響いていた。
「いったいどうなってやがる! 誰かこの警告音を止めろ!!」
カリド・ケイン・ハッサンは怒鳴り散らしながら拳をテーブルに叩きつけた。巨大な熊のような体躯が怒りに震えている。
ようやく警告音が止まったかと思えば、今度はディスプレイに赤い文字で「地下牢解錠アラート」が点滅し始めた。
「全く、次から次へと……ハン! ジャズ! どこにいやがる!」
ケインは今にも拳を振り上げてUNI端末を叩き壊しそうになるのを、ぐっと堪えた。
「ボス! お呼びでしょうか?」
ドアが開き、副官の一人、ハンス・“ハン”・シュミットが真面目な顔で入ってきた。続いて、もう一人の副官、ジャズミン・“ジャズ”・ジェファーソンがだるそうな足取りで現れる。
「クソ、まいったよボス。アイツらの一人はアルタリだったんだぜ。見てみろよ、これ」
ジャズが自分のUNIから監視映像をメインディスプレイに映した。
「はー……こいつは驚いたな。話には聞いていたが、まるでマジックじゃねえか」
ケインの怒りは一瞬で薄れ、興味津々で画面を覗き込んだ。
「でもさー、ボス。あんな大金もらっといて何だけど、さすがにガキはやばくねえか?」
ジャズまでもがケインに顔をぐっと近づけて、珍しく真剣な顔で言った。
「ぬぬぬ……お、お前ら近すぎるんだよ!近頃のやつぁパーソナル・スペースってものを知らねえのか!おらあぁ!!」
ケインが勢いよく立ち上がると、2メートル近い巨体が威圧感を爆発させ、ハンとジャズは小動物のように近くの机に身を隠した。
「クソ……またやっちまった……」
ケインが無意識に振り回した拳が、ディスプレイを突き抜けていた。
その時、ハンが慌てた声を出した。「ボス! やつらからビデオ通信です!」
テーブルに置かれたUNIに、真っ黒な影のような人物が映し出された。声も加工されていて不気味だった。
「カリド・ケイン・ハッサン。進捗状況を聴かせてほしい」
ケインは舌打ちし、乱暴に答えた。「一度は捕まえたんだがな。少し手違いがあって……」
「約束したはずだ。取引に失敗したのであれば、返金してもらうことになる」
ケインの顔が一瞬で赤くなった。彼はハンのUNIを乱暴に掴み上げた。
「おいちょっと待て!! 奴らの居場所だけ分かっている。それと……やっぱりガキってのが気に食わねえ」
通信の相手はしばらく沈黙し、再び淡々と話しだした。
「いいだろう。では、その場所を教えたまえ。それで返金はチャラにしてやろう」
ケインは頭が煮え立つような怒りを感じながらも、軍用トラックに搭載された追跡装置をオンにできるコードを送信した。
「……もう忘れろ」そう吐き捨てて、クマ男は巨大な背中を向け部屋から出ていった。
ハンとジャズは不安げに顔を見合わせ、ただ黙ってその後ろ姿を見送るしかなかった。




