4 薬
軍用トラックのエンジンが低く唸り、暗い森を切り裂くように疾走していた。
リゲルは後部座席で膝を抱え、真っ暗な窓の外を見つめていた。軍事施設のゲートを越えてからまだ十数分しか経っていないのに、ずっとこの暗闇が続くのかと思うと、少し不安になった。
助手席のエイカが、沈黙に耐えかねたように口を開いた。
「あなた達、この辺の人じゃないわよね? 子供連れのアルタリなんて初めて見たけど、いったい何者?」
ジスは前を向いたまま、落ち着いた声で答えた。
「私はジセリオス・ラムダ。ESIA(エクレシア特別調査エージェント)です。そして──」
「僕の名前はリゲル・ヨラン、よろしくね!」後部座席からひょこっと顔を出し、精一杯の笑顔を作った。エイカは思わず小さく笑った。
しばらく沈黙が続いた後、ジスが静かに切り出した。
「申し訳ありません。任務のため詳細は話せないのですが……どうしても彼を連れて地球へ行く必要があるのです」
エイカは小さくため息をついた。
「そうなの。まぁ、いいわ。もうすぐ、この『ザフランの森』を抜けるはずよ。そしたら北西の道を進んで『バハル』という小さな村に向かってほしいの」
彼女が言い終わらないうちに、木々の密度が急に減り、遠くに明かりが見え始めた。
「ここで、少しだけ待ってて」エイカはトラックを降りると、薄暗いビルの中に入っていった。
数分後、彼女は急ぎ足でこちらに戻ってきた。
「さっきの金属製のケースには一体何が?」車に近づくエイカにジスが尋ねた。
「あれには……患者の治療に必要な薬が入っていたの。少なくとも何人かの命は助かるはず」リゲルがドアを開けると、エイカは素早く乗り込み、短く息を吐いた。目が少し赤かったが、すぐにいつもの表情に戻った。
「ここから更に北東に一時間ほど走ると、『リヤド・アル・ヌール』という海辺の街があるの。そこで宇宙船を用意するわ」「わかりました。急ぎましょう」
ジスがアクセルを踏むと、トラックは再び暗い道を北東へ進んでいった。
リゲルは窓の外に広がる町の明かりをぼんやりと眺めながら、ゆっくりとまぶたを閉じた。心地よいエンジンの振動と疲労が重なり、深い眠りへと落ちていった。




