3 能力
ミランダーはデスク後ろの窓から、ジスとリゲルを乗せた脱出ポッドが、無事に惑星の大気圏に突入したのを確認して胸をなでおろした。
「……これで彼らは大丈夫ね」
続いて彼女はステーションの損傷具合を把握すべく、デスクの端末に近づき操作を始めようとしていた。
まさにその時——
ドーンッ!
爆音とともに先程おろした防火壁が吹き飛んだ。舞い上がる煙と埃の中から、顔中タトゥーだらけの短髪の男が薄笑いを浮かべて現れた。迷彩服をだらしなく着崩し、手には大型の銃器を持っている。後ろには、いかにもガラの悪そうな武装した男たちが十人ほどぞろぞろとついてきていた。
「おう、ばあさんよ。ガキはどこだ?」
短髪のタトゥー男がガニ股でミランダーに近づいてきた。
「あんたたちみたいな、お行儀の悪いクソガキどもがなんですって? 残念だけど、彼らはもうここには居ないわよ」ミランダーは彼らを睨みつけて言った。
ガラの悪い何人かが銃を構えてイキり立ち、ミランダーに向かおうとした。
「おう!待て待て。ばあさん、いい度胸じゃねえか。これでもそんな口きいてられるか?」タトゥー男がニヤニヤしながら彼女に銃口を突きつける。
ミランダーは大きくため息を吐いて「まったく」と呟くと、男の体がふわりと宙に浮いた。
「な、なんだ……?! ど、どうなって」
さっきまでざわついていた後ろの男たちは凍りついた様に動けなくなり、体がピクピクと痙攣している。
ミランダーはゆっくりと男に近づき、汚いポケットからUNIを爪の先でつまみ取り、テーブルに乗せた。ディスプレイに表示された情報を冷ややかに確認する。
「案の定、大した情報は何にも無いわね……。送金元は、ECSL。エデン・ケミカル・ソイル・ラボ。農業化学ラボかしら? どうしてここからお金が」
彼女はどっしりと椅子に座ると、端末を操作しながら男に話しかけた。「それで、雇主が誰かおしえてくれる?」宙に浮かんだ男の体が、ゆっくりと彼女の座るテーブルに近づいていく。
男の顔は恐怖で引き攣り、鼻水と冷や汗がポタポタと床に落ちた。
「し、知らねえよ……ただ、大金が欲しかっただけで……なあおろしてくれ……」
ミランダーはディスプレイをしばらく凝視し、「クソッ! 使えないわね」と吐き捨てるように言った瞬間、男の体はまるで糸が切れたように落下し、強く床に叩きつけられた。
その場で凍りついていたゴロツキたちもバタバタと床に倒れ、口から泡を吹いて意識を失った。
「ちょっとパウラったら、いったいなんなの?これは」調子外れに甲高い声が部屋中に響いた。
真っ赤なスーツに高いヒールを履いた派手な赤毛の女性——イザベラ・マクスウェルが入ってきた。床に倒れた男たちをわざとらしく跨ぎながら近づいてくる。
「残党はうちの連中が片付けたわ。それにしても……やだもう、きったな~い。この人おもらししちゃってるじゃない。でもこれ、全員死んじゃってる?」
「失礼ね! ただ気絶してるだけよ。それにしても来るのが遅いわ」
イザベラは嘘くさく肩をすくめて舌を出し、手に持った白いハンドバッグからUNIを取り出した。「こちらはクリア。ええ、N.S.F.には通報済みよ。到着は20分後ね。了解」
ミランダーは座ったまま体を反らし、背伸びをするように椅子にもたれ掛けた。
「それで施設の被害状況は?」「子供たちは全員無事。スタッフに死者4名、重傷者2名、他に負傷者多数。ドッキングパッドAが完全に破壊された以外、目立って大きな被害はないわ。セキュリティシステムのオフラインは外部からのハッキングだったようね。詳細は送信済みよ」そう言って彼女は踵を返しドアに向かおうとしたが「ねえ」とミランダーが話し始めたので足を止めた。
「あなたECSLって聞いたことある? 農業化学ラボですって」
「さあ、聴いたことないけど。重要なことなの?」
ミランダーはため息を一つしてから言った。
「……どうかしら。もういいわ、ご苦労さま」
イザベラがコツコツとヒールを鳴らしながら廊下を歩く音が聞こえなくなると、ミランダーは窓の外を見つめた。N.S.F.のロゴが入った小型船が近づいてくるのが見える。
デスクのディスプレイに目をやると、死亡したスタッフの写真が表示されていた。
「シャンハオ……奥さんは先週子供が産まれたばかりだったのに……」
パウラ・ミランダーは静かに息を吐き、椅子からゆっくりと立ち上がろうとしたとき、端末に通信が入った。
「院長、ヌーラーン保安部隊のファイサル大佐が見えています」
ミランダーは背筋を伸ばし、静かに答えた。
「いいわ。ここにお通しして」




