12 借金
アブラーズ・ベーカリーの狭いキッチンを抜け、裏口から出た彼らは人混みに紛れながら、急ぎ足で『行政サービスセンター』へと向かった。ここでもジスのエクレシアIDが効き、順番待ちをすることなく窓口に案内された。
「エクレシアって一体どれだけの権力があるのよ」エイカがもはや感心する様子で呟いた。
受付の男性職員が目を丸くした。
「全額を……この金額を一度にすべて返済なさるのですか?」
「ええ。クレジットの上限に問題はないはずですが?」ジスは涼しい顔で言った。
「いいえ、あの……では、手続きを進めさせていただきますので、少しお待ちください」職員が慌ただしく端末を操作し始めた。
「ところでウェン、あなた借金って一体いくらあるの?」とエイカ。
ウェンは手のひらを広げて見せた。エイカが50? 500? と小声で訊く度にウェンは首を振った。
「ご、5千万クレジットですって? 一体どうやったらそんな額……いいえ、何も知りたくないわ」エイカは大きくため息をついた。それと同時に職員が非常に明るい声で言った。「お客様、お手続き完了でございます。全額返済いただきましたので、差し押さえ品は即時返却されます。こちらがドックナンバーとアクセスキーとなります。ご利用ありがとうございました」
ジスがUNIで情報を確認した瞬間、入口の方に視線を向けた。N.S.F.の制服を着た3人の兵士が、こちらに向かって近づいてきている。
「失礼ですが、ちょっとよろしいですか?」
背の高い男がジスに声をかけた。
「どうする?」エイカが小声でジスに聞いた。
ジスは目で「大丈夫」と合図を送り、静かに答えた。「なにか我々に御用でしょうか?」
ガタイの良い一人がUNIとジスたちの顔を交互に見て、背の高い男に頷いた。
「失礼いたしました。ジセリオス様とリゲル様ですね? 私はサバト大尉です。『アル・サフィア孤児院』のパウラ・ミランダー婦人よりお伺いしております。あちらのお二人は……?」
「彼らも仲間です。ついでにこの9番ドックまで我々を護衛していただけますか?」
ジスがIDとマップを見せると、サバト大尉は凛々しい笑顔で頷いた。
「ええ、そのつもりでお迎えに上がりました」
4人は顔を見合わせ、安堵の息を漏らした。兵士たちに囲まれるようにして専用高速リフトへ向かう。
彼らを尾行していた男はそれを見て「チッ!」と舌打ちをすると、UNIを耳に当て低い声で報告した。
「……申し訳ありません、任務は失敗です。ええ、かなりの上層部からの命令のようで、流石に私では……ええ、彼らの船の情報は確認済みですので送信いたします」
男はUNIをポケットにしまい込むと、素早く人混みに溶け込んで消えていった。




