11 尾行
第一惑星ヌーラーン軌道上
ヌールポート宇宙ステーション
シャトルバスが専用の格納ゲートを通り、滑らかにドッキングした。
「あれ? もう着いたの?」後部座席で大きくあくびをしたリゲルが、眠そうに目をこすった。
「おや、お戻りですね」
UNIでマップを確認していたジスが言った。
「なんてこと、すっかり眠ってしまっていたわ。ウェン、起きて」エイカが隣で眠りこけていたウェンの肩を軽く揺すった。「了解……」ウェンがゆっくりと目を覚ます。
シャトルベイを出ると、すぐに商業エリア『ライトマーケット』の賑わいが広がっていた。さまざまな食べ物の香りが漂ってくる。
「お、スイートロールのいい匂い」
ウェンが鼻をひくつかせた。「お腹すいたね」リゲルがウェンを見上げて言った。
二人がヘヘッと照れくさそうに笑い合うのを見て、ジスが提案した。
「そういえばずっと食べていませんでしたね。何か食べましょうか」
「ちょっと!! そんな余裕ないでしょ? 私たちは命を狙われているのよ──」
エイカが思わず声を荒げてしまい、慌てて周囲を見回した。
ウェンが肩をすくめる。「だけどよー、腹が減っては何とやらって言うだろ?」
エイカがウェンを睨み返し、言い返そうと息を吸い込んだその時、ジスが急に声を落とした。
「……そのまま会話を続けて、あの店に」
4人は平然を装って『アブラーズ・ベーカリー』に入り、通路が見渡せる奥のテーブルに座った。「ねぇ、どうしたの?」リゲルが不安そうにジスを見つめる。
「自然に、楽しく会話をしているフリを……」
ウェンがわざとらしく「ガハハハハ!」と大げさに笑ってみせた。
「シャトルベイから尾行されてたのかしら」
エイカも無理やり「ウフフフフ」と笑いながら話すが、明らかにふたりともぎこちない。
「ええ、おそらく。あの制服はN.S.F.ですね」
「ってことはオレたち指名手配されてるのかよ……」ウェンがうなだれる。
「いいえ、そういうわけでもなさそうです。彼のUNIもちょっと覗いてみましたが、部署専用の端末ではない上に、かなり強固な暗号化された特殊なアプリで通信をしていました」
「ご注文はお決まりですか?」
ちょうどその時、明るい声のウェイトレスがタイミングよく現れた。
ウェンが素早くメニューを見て答える。「スウィートロール4つと、ベーコンサンド、アイスティー。あと……お前らはどうする?」エイカが呆れた目でウェンを見つめる。
リゲルが少し緊張しながら言った。「僕はオレンジジュースと、このアップルパイ一切れください」
エイカはまだ少し呆れた表情のままだ。「……お水をいただけるかしら」
「私は結構です。すべてテイクアウトにしていただけますか? それから、後ほど裏口を使わせていただきたいのですが……」そう言いながら、ジスはUNIでエクレシアのIDをさりげなくウェイトレスに見せた。
「あ、はい……。かしこまりました」
それを見たウェイトレスは少し驚いた様子だったが、すぐにキッチンへ下がっていった。
「ここの警察(N.S.F)内部にも通じているということは、ウェンの言う通り我々が手配されるのも時間の問題ですね」
「けど、一体あいつら何者なんだ? 子供ひとりにあんなプロの殺人部隊を送り込むか? いや、でもリゲルはリローデットだし、ふつうの子供じゃないか──」
「ウェン!」エイカが諌めた。「あ、リゲル、違うんだ。そういう意味じゃ……すまん」
「ううん、だいじょうぶ」リゲルがうつむく。
気まずい沈黙をかき消すように「お待たせしましたぁ!」と底抜けに明るい声でウェイトレスが現れた。




