7:勇者の仲間・魔法使い
魔王が宰相を鷲掴みにして、魔界に帰った後のこと。
「……めちゃくちゃやりやがったなー……」
「あぁ、大丈夫よ。修理させますからね」
「いや、それはそうなんでしょうけど」
まさかこの吹っ飛ばされたもろもろを、一からコツコツと修理をするとでもいうのだろうか。
結構な勢いと威力で抉られているとでも言うべき、な状態は素人目に見ても、すぐに修復できるものでもなさそうだった。
「で、どうやって修理するんです?」
「ああ、ちょうどお前さんへの紹介もかねて一人呼んでおる」
にこ、と微笑んでいる国王の言葉が終わってすぐ、無事だった謁見の間の扉が遠慮なくばぁん!と開いた。
「……ノック、って……」
「あっはっは、あやつに言うても無駄だ。おーい、こっちこっち」
「失礼いたします」
見た目はめちゃくちゃ真面目そうな、モノクルを着用した女性が、背筋を伸ばしてまっすぐに歩いてくる。
さらさらと揺れる銀髪は腰まであり、前髪は目にかかりそうな長さだが、横に流している。
そして、着用している服を見る感じ、エリックの予想としては王宮勤務の魔術師か何か、というところだろう。
「初めまして、勇者エリック様」
ぴし、と背筋を伸ばしていた状態のまま、すっとお辞儀をして挨拶をしてくれたので、エリックも慌てて姿勢を正してからお辞儀をした。
「あ、エリック……です。どうも」
「先日の福引でうっかり勇者になってしまわれたとか。大変なお役目とは存じます。微力ながらお力になれればと思います」
ふ、と笑みを浮かべれば一気に柔らかな雰囲気になった。
だがしかし、ひらひらと手を振りつつ、『これ直しておいて~』と呑気に言っている国王を視界にいれた彼女――イリアステルは、一気に目をつり上げる。
「陛下! 我々魔法使いは便利屋ではないと言っているでしょう! 何度言えばお分かりになるのですか!」
「だってこれ、普通に修理したら謁見の間使えんもん!」
「もん、じゃないわよ可愛くねぇなオッサン!!」
「オッサンて」
「まぁ、わたくしの陛下は可愛いですわ!」
「やかましいわババア!」
「ババアて」
国王夫妻に何つー口の利き方してんだ、とついうっかり口に出して突っ込んでしまった苦労人勇者こと、エリックにも視線が物凄い勢いで向けられてしまった。
「ひぃ!」
「この人たちに今更敬意なんて払えません! 良いですか、このアホ夫婦、あれこれ壊れたから、ってわざわざこちらの魔法部宛てに国王命令発動させるお馬鹿夫婦なんですから!!」
「……あ、それはあかんわ」
てへ、とお茶目な感じを出しているが、こんなに真面目そうな人を怒らせるなんてどれだけ国王命令発動してるんだよ、とエリックは内心でツッコミを入れてしまうが、怒りようをみていると一度や二度なんかではなさそうだ。
「大体ねぇ……」
「だって、これ壊したの今代の魔王じゃもん!」
「……は?」
まだ続けて文句を言ってやろうとしていたイリアステルだったが、魔王、という単語に、文句を言うのを止めた。
「魔王、ですか」
イリアステルの視線はエリックに向けられる。
本当だ、とエリックも何度も何度も頷いて、国王の言葉が嘘ではないことを証明しておいた。
「ああそうか……勇者を遊び相手にしている、という何とも外道な輩……」
「それがねぇ、今代の魔王はとっても可愛らしいの」
「?」
「見た目は……そうねぇ、十にもならないくらいかもしれないわ。とっても可愛らしいのよ」
「!?」
何を言っているんだ、とイリアステルは首を傾げているが、次いだ王妃の言葉に目をカッと見開いた。さすがに少し驚いてしまったエリックは後ずさったものの、逃がしませんよ、と言わんばかりににゅっと手が伸びてきて、エリックはがしり、とてくびを掴まれてしまった。
「あ」
「可愛い魔王について、詳細お寄越し」
「アンタ人変わりすぎてねぇ!?」
「気のせいです」
めちゃくちゃ真顔で、ずい、とエリックに詰め寄ってくるイリアステルは、さっきと同一人物なのか分からない程度には目がガンギマリ状態になってしまっている。
「あのですね、俺まだアンタの名前も知らないんですが!?」
「イリアステル・エステローディア。エステローディア伯爵家の者ですが、今はそんなことどうでもよくて」
「良くなくなぁい!?」
「あ?」
「怖い!!助けて!!」
「とにかく、魔王についての詳細を」
「てかさぁ、ここ(謁見の間)修理してあげれば!?」
「…………」
面倒くさそうに破壊されている謁見の間の天井を見上げ、続いて国王を見て、そして王妃を見る。
国王夫妻が『お願い!』とポーズをしているのを見て、心底面倒くさそうに溜息を吐いたイリアステルは、一旦エリックの手を離してから、大股で国王夫妻のところに歩いていった。
「いくら?」
「夏のボーナスに色付けちゃう」
「だから値段」
「通常のボーナス+更に三ヶ月分上乗せでいかが?」
夫妻が交互に話してくれる条件を聞いて、少し考えたイリアステルは、にま、とあくどい笑みを浮かべて、首を縦に振った。
「良いでしょう、お忘れなく!」
ばっと手を広げ、あっという間に魔法陣を構築していったかと思えば、構築完了したものがふわりと形を変えて謁見の間全体に広がっていく。
しゅるしゅると生き物のように動いていくそれらは、元の形を思い出したかのように、謁見の間を元通りの姿へと変えていったのだった。
「……すげぇ」
「ちなみに、貴方が覚醒した……もとい正式に力を得たことで、貴方のお仲間の力も増幅されているというオマケが付いております」
「いきなり背後に来て解説すんのやめてほしいな、俺」
「すみません、つい」
ははは、と笑っている大神官の言葉に、エリックは改めて尊敬の眼差しをイリアステルに向けていたが、謁見の間がなおるやいなや、ささっと足早に駆け寄ってきたイリアステルに再び手を掴まれてしまった。
「で! 魔王の! 情報! 寄越せ!」
「だから怖い!!」
「イリアステル嬢は幼女大好きですので、お諦めくださいませエリック様」
諦めてたまるか! というエリックの虚しい酒に場響き渡ってしまった謁見の間だったが、何せイリアステルは普通の伯爵令嬢なんかではない。
魔法好きが高じて高等学院を早々に卒業したかと思えば、十五歳で隣国の魔法大国に留学し、専門的な魔法を学んできたかと思えば、十八歳で王宮に就職をしてしまった才女。
その際親からは『せめて結婚して頂戴!』と泣きつかれてしまったらしいのだが。
「では、私より稼げる旦那様をお探しになってくださいませお母さま」
そう言い残してさっさと王宮の職員寮に引っ越しをしてしまい、日々魔法の研究に勤しんでいるというご令嬢。
見た目は大変整っているのでお見合いの話はあれやこれやと舞い込んでくるらしいが、休みの日に実家に帰って彼女がそれを見て一言『私より稼いでおりませんわねぇ』と、お茶片手に言うものだから、彼女の父も母も、毎回悲しい想いをしているとか何とか。
そんなイリアステルは、幼い子がとっても大好きだ、と公言している。彼女曰く『純粋なお子様は、私の穢れた心を癒してくれる感じがする』のだとか。
普段は微笑まし気に眺めるだけだが、恐らく魔王が幼い女の子の見た目をしているのであれば、ちょっとうっかり(イリアステルが)暴走しても問題ないだろう、という何とも物騒な考えによるものらしい。
なお、この後エリックは数時間イリアステルに拘束されてしまい、自分だって会って間もない魔王についてひたすら事情聴取されてしまうことになり、王宮にお泊りをするという、色んな意味で初体験をしてしまったのであった。
一方その頃魔界にて。
「……へっ、くち!」
「おや魔王様、お風邪ですか? ささ、薬を」
「いらないわ、苦いの嫌よ」
髪の毛をしゅるしゅると変化させた魔王は、宰相が差し出してきた薬を容赦なく払いのけ、ついでに宰相ごと遠くにぶん投げてしまった。
宰相の遠くなっていく悲鳴を聞きながら、一応魔王の仕事としての書類仕事を行いながら、ちらりと外を見る。
「あたくしにとって嫌なことが起きている気配しかしないんだけど」
そう呟いた数日後、ついうっかりエリックのところに強襲した魔王に、災害級の災難が降りかかるだなんて、今はまだ、彼女は知らないのだった――。
イリアステルちゃんはちょっと変態なだけです(フォローのつもり)




