捜索
「ちくしょォ…どこにいるんだ…?」
スプリーウェルは路地裏に座り込む。
(ハハ…、ここ数日。まともに食ってなかったな…)
そして、彼の意識は遠くなっていく。
「ムム…。君、だいじょうぶか?」
誰かに声をかけられた。
スプリーウェルは上を向く。そこにいたのは、若いお兄さんだった。
「おやや…君は。ビクトリアのお兄ちゃんかな?」
「……!ビクトリアのこと、知ってるんです…か……」
ドサッ。
力尽きてしまった。
「やっと見つけた。…よっこらせ」
お兄さんはスプリーウェルを担ぐ。
「知ってるも何も、私はビクトリアのプロデューサーなのさ」
路地裏を抜け、ドラゴンに乗る。
スプリーウェルをドラゴンの体に縛り付ける。
「行ってくれ、藍竜インディゴ。私の相棒よ」
ドラゴンは吠えたかと思うと、凄まじいスピードで空を飛んでいった。
プルルル…。プルルル…。
『もしもし、ドラゴン博士会のジェオルジ・ペガです』
「あーもしもし?私だけど?」
『なんだサニーか。業務用の番号でかけてくるな』
「はは、すまんね」
「それより、例の件についてだ」
ケータイの向こうから仰天した声が響く。
『見つかったのか!?アッシュ・スプリーウェルが!』
「あぁ、それはもう酷く衰弱しきってるさ」
お兄さんはスプリーウェルをチラッと見る。ボサボサの黒髪が風になびいていた。
「すぐに連れて行く」
『ああ…良かった…。本当にありがとう』
「はは、なんだよ。まるで我が子のように心配しちゃって…」
『なっ!おい!ふざけたこと言ってんじゃ…』
ブツッ。電話を切る。
「さーて、久々に戻りますかね」
「私の母校、ヨシノミライ学園に…」
◇◇◇
一方ここはガラティア。
スプリーウェル捜索隊は商店街を通っていた。
目的地は、この道の先。
つまりガラティア郊外。
そこはビクトリアがスプリーウェルと出会った場所。
つまりホームレスや孤児であふれる、社会的弱者が行き着くところ。
休日の午前は人だかりがものすごく多い。
さすがは人工過密都市だ。季節は夏ということもあり、少々暑苦しいこの道を、4人は1列で歩いている。
「あっ!まだチップが売ってる!」
先頭のラキアが右にズレた。
「あっ!プロライダーのユニフォームが売ってんぞ!」
二番手のグレンは左に飛び出す。
「も〜、ペイジちゃん、お願い」
ガッガッ。
ふたりは腕を掴まれた。
「いったい!」
「いてて…、なにすんだ!アレ売ってるとこ少ないんだぞ!」
反抗するグレン。
「あなた達、やる気あんの?」
ペイジは見下す。
ペイジは暴走するふたりのストッパーの役割がある。
「こんな暑苦しい場所さっさと抜けて、目的地まで行くわよ!」
(たはは…。頼れるなぁペイジちゃんは)
ビクトリアは感心した。
ところが。
「ん…?」
ペイジは何かを見つけた。
「あれは…」
ドン。ドン。
グレンとラキアを壁にして、ペイジはグイグイと人だかりを分けてゆく。
進路は大きくズレて右へ。
「ちょ〜、ペイジちゃ〜ん?」
ビクトリアはため息をついた。
「ん〜!おいしー!」
ここはスイーツカフェだ。
ペイジはここを気に入ったようだ。
彼女は蜂蜜とチョコレートのかかったバニラアイスを食べる。夏の疲れた体に染み渡るこの幸せ。
「ビビたん、ペイジだけ特別扱いはだめでしょ…」
「しっー!聞こえちゃう」
ビクトリアの判断は正しい。
ペイジの機嫌だけは取るべきだ。なぜならこの中で、不機嫌になると1番めんどくさい人だからである。
「店員さん!このハチミツアイスもうひとつ!」
「かしこまりましたー!」
ペイジは追加注文した。
まだまだ出られそうにない。
心の中で3人はため息をついたが、目を輝かせてアイスを頬張るペイジの笑顔は見る価値がある。
カシャ。
ビクトリアは1枚写真を撮った。
「……それ後でちょうだい?」
「……グレンくん」
ビクトリアはほっぺたを膨らませた。
(あれ、怒られてんのか?)
カシャ。
ラキアはほっぺたぷくー状態のビクトリアの写真を撮った。
(もちろんグレンは枠外である)
これは誰にも気が付かれなかった。
◇◇◇
「えぇー!?こんなに高いの!?」
ペイジは領収書に悲鳴を上げる。
ハチミツアイス、6個で18000ゴル。
サーッと彼女から血の気がなくなっていく。
彼女は1個300ゴルと、桁を数え間違えていた。
10倍の金額に恐怖する。
「ありがとうございましたー!」
カランカラン。スイーツカフェを出る。
トボトボ歩く4人。
「みんな、ごめんなさい…」
「たはは…。だいじょうぶ!」
ビクトリアはペイジの背中をさすった。
「こーゆー時こそ、ビビたんを頼って!」
ペイジはなんとか挽回しようと意気込んでいる。
「この借りは返すわ!さぁ、桎梏を探しにレッツ…」
「ストーップ!」
ビクトリアはペイジの裾を掴んだ。
「今日は撤収だヨ」
「なっ!」
衝撃発言。捜索を止めるというのだ。
「そんな、まだ午前11時だよ!諦めるにはまだ早いさ!」
「グレン察しろ!何か考えがあるはずだ!」
男達も動揺している。
「どうして止めるのか。それは…」
ドキドキ。3人は身構える。
「ガラティアには、スプリーくんの匂いがしないの!」
「「匂い?」」
困惑するふたり。
「さ、帰ろー」
さっさと逆方向へ歩き始めるビクトリア。
ポカーンとするグレンとペイジ。
「何してんだふたり共。ビビたんがそうおっしゃるんだ。間違いなんてないさ、きっと」
ラキアはついていく。
「ビビたん…。あなたそこまで堕ちたのね…」
「匂いか、スプリーウェルってクサいのかな?」
とにかくふたりはついていく。
(よく考えたら、お兄ちゃんがガラティアにいるはずがない。郊外はお兄ちゃんにとっては庭のようなもの、つまりどこか別の町で迷子になっている。そうに違いないヨ!)
ビクトリアの脳内では高度な分析が行われている。それが彼女の答えだった。
(それに、私とお兄ちゃんが孤児だったなんて…。死んでも知られたくないし!)
『ガラティア郊外に詳しい』という事柄。それはつまり、『そこで暮らしていたことがある』と暗に示すのだ。
ビクトリアは兄妹の悲しい過去を知られるのを、極度に怖がった。
こうした思いもあり、4人はドラゴン停留所まで引き返し、ヨシノミライ学園へ帰還するのであった。




