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次世代

「あーーーっ!」

 

 ビクトリアは保健室で歓喜の声を上げた。

 

 病室で眠っていたのは、彼女が探していたアッシュ・スプリーウェル本人だった。

 点滴をしている。

 

「もー!どこ行ってたのさー!」

 彼の顔に接近し、目をうらませるビクトリア。

 

 ここにいるのは、ビクトリア、スプリーウェル、ペガ。

 そして、彼女のプロデューサー、ネイビー・サニーサイドだった。

 

「ワッサ!久しぶりだねビクトリア。元気だったかい?」

「ワッサ!えぇそれはもう元気モリモリで…」

 

「って!なんでサニーサイドさんがここにいるんですか!?わけわかりませんヨ!」

 

 ペガが割り込んだ。

「なんやかんやあって、私が依頼したんだ。あの馬鹿がこんな置き手紙を残してたからね」

 

 そう言って1枚の紙を差し出す。

 

『ビクトリアに会いに行きます』

 スプリーウェルの乱雑な字で、そう書いてあった。

 

「…なんでー?」

「知るか。後で本人から直接聞け」

 

 この紙は、ペガが王国誕生祭の特別レースが終わった直後に見つけたものだ。

 黒竜ブラックがまだ火傷している間に、スプリーウェルだけでビクトリアに会いに行ったらしい。

 

 真実を確かめるため、しばらく彼の復活を待った。

 

 

 

「…う〜ん?」

 数十分後、スプリーウェルは目を覚ました。

 

「あっ!目、覚めた?」

「……ビクトリア!?はっ、ここは保健室!どーゆーことだァ!」

 

 困惑する鋭い目。

 

「俺はたしか、ビクトリアを知ってるお兄さんに合って…それから…」

「私がここまで連れてきたのさ」

 

 サニーサイドはそう言う。

「とにかく無事でなによりだ。では、私はそろそろおいとまするよ」

 

 彼は出ていった。

 ペガも同時に出ていく。

 

 残ったのはふたりだけ。この場の空気は少しだけ重かった。

 

「…お兄ちゃん?どーしてイガルノアで迷子になってたんですかー?」

 目を細めながらビクトリアは問い詰める。

 

 スプリーウェルが口を開いた。

「お前に…会いたかったんだ」

「えっ…!?」

 

 その重々しくも、少しムカついたような口調で話は続く。

 

「ビクトリア、M(ミュージック)V(ビデオ)とCMの撮影があったんだろ?」

「う、うん、まあね」

 

 彼は急に恥ずかしそうになった。

「だから…その…。差し入れとかしょっかなー、とか思ってイガルノアまで行ったんだ。でも、それで迷っちまってよォ…」

 

「すまねェ!逆に手間をかけさせちまった!」

 目の前で両手を合わせて謝罪した。

 

 しばらくの沈黙。

 

「なーんだ」

 

 ギュッ。

 それを破るかのように、ビクトリアは抱きついた。

 

「心配させないでよ…。お兄ちゃんがいなくなっちゃうのが、私、1番嫌なんだから…」

 

 か細い、今にも泣き出しそうな声だった。

 それは安堵によるものか、それとも怒りによるものか、スプリーウェルにはわかるはずもない。

 

 とにかく、ふたりは抱き合った。

 

 ◇◇◇

 

 場所は変わって、保健室前の廊下。

 

「改めて今日は助かった」

 

 サニーサイドは目をつぶりながら、真っ直ぐな廊下を歩んでゆく。

 

「まーいいってことよ。私の本職はプロデューサーでもなく、プロライダーでもない」

 

 

「ヨシノミライ学園を外から守る、保安官さ」

 

 

 そう、サニーサイドは今回の様な学園外の事件を専門に解決する保安官なのだ。

 ちなみにこれは裏の顔であり、素性を知る者は少ない。

 

 ペガは美しいオレンジ色の髪をなびかせる。

 

「この後、昼食にでも行かない?今回のお礼としておごってあげなくも…ないよ?」

 

 ふたりの顔は近い。ペガが耳元でささやいた。

 

「おぉ、それはありがたいね」

 サニーサイドは目をつぶったまま大声を出す。

 

「……だってよバラクーダ!今日のランチはペガの奢りだ!」

 

 ザッ。

 曲がり角からバラクーダが現れた。

 

「やったぜぇ!久しぶりに3人で飲み明かそうじゃねーか!」

「はっ!相変わらずだな」

 

 ピクッ。ピクッ。

 ペガの顔はしばらく引きつったままだった。

 

 

 

 ここはテスタロッサ駅の居酒屋。

 薄暗い地下1階にある、通こそ知る店だ。

 

「「乾杯〜!」」

「……」

 

 昼間から騒がしいのはバラクーダとサニーサイド。

 ペガは水しか飲んでいない。顔は不機嫌そうなままだ。

 

 グビッ。グビッ。

「かあぁぁぁ〜っ!うまし!」

 

「プハーッ。こーして集まるのは2年ぶりか?」

「たぶんそーだな!」

 

「3ヶ月前だよアホンダラ」

 ため息混じりに訂正するペガ。

 

 この3人は、ヨシノミライ学園の1期生である。

 

 15年前に始まったヨシノミライ学園。

 その中でもライバル関係にあったバラクーダ、ペガ、サニーサイドは未だに食事する仲なのだ。

 

 ペガだけひとつ年上の28歳、プロライダー達は27歳と、経済的に安定し始めた頃だ。

 当時の初々しい姿を知るのは、ヨシノワール校長と、初期から先生のゲオルギウスくらい。

 

「そーいやぁ、リストリートだっけ?あんたのいとこ?」

「あぁそーだぜ」

 

「ありゃあとんでもない才能を秘めてるな。もうお前なんか超えてるかもしれないぞ」

「いーや、まだまだ!特訓が足りないね!」

 

 身内の話題になり、盛り上がるプロライダーの男達。

 

 サニーサイドはペガに話をふる。

「ペガ、あんたの相棒はどーしてるんだ?橙竜オレンジ、元気してるか?」

 

「うるせー、酒臭いから話しかけるな」

 

 先程まであんなに感謝していた相手に、今ではこんなそっけない態度である。

 

 学園では見られないような、気品の欠片も無い、だらけきった姿だ。

 この姿はふたりのみぞ知る本性。

 

「コイツが来てからすぐ疲れが貯まるんだ。バラクーダ、教師辞めろ、今すぐ」

 不機嫌な声で辞任を促す。

 

「そーんなこと言うなよー、本当は嬉しいんじゃないの〜?」

 

 ブチッ。

 バラクーダのデリカシーが無い発言は、ペガの血管を数本破裂させた。

 

 ガッシャーン!

「オラァ!この歩くストレッサー野郎がぁ!くたばっちまえ!」

 ペガが暴れだした。

 

「ぎゃー!?」

 バラクーダは悲鳴を上げる。

 

 サニーサイドは特に動かない。

 いつものことだから。

 

「まーったく、それじゃあゲオルギウス先生には永遠に勝てないだろうね」

 

 ピタッ。

 ふたりの乱闘は止まる。

 

 サニーサイドは赤くなりつつある顔で語りかけた。

「今年から、私達みたいな一般人もテレビでヨシノ・レースを見れるんだぜ?明らかにわかることは…」

 

 

「ゲオルギウス先生のクラス、黄学級イエロークラスの生徒はレベルが段違いだってことだよ」

 

 

 バラクーダとペガは真剣な顔つきに戻る。

「いつまで経っても勝てなくていーのか?おふたりさん?」

 

 煽り口調になるサニーサイド。

 

「身内戦大好き紅学級ルージュクラス。欠席者続出の黒学級ノワールクラス。頼むからさ、アツいレースをしてくれよ」

 

「このままでは、賭け事がつまらなくなる。もっとスリリングなレースにしろ、わかったな?」

 

 ゴクリ。

 息を呑むふたり。互いに見つめ合う。

 

 

 

 なぜか説教されたバラクーダとペガは、もう1度自分たちの生徒を思い浮かべる。

 

 ソルフェリノ・ペイジ、モーブ・ルーナ、マゼンタ・グレン、シェンナ・シャクティン。

 

 アッシュ・スプリーウェル、ビリジアン・ビクトリア、ベルディグリ・ラキア。

 

「これからは、あいつらの時代なんだ」

「はぁ……。わかってるよ」

 

 ドラゴン・レースは続くのだ。人々とドラゴンが絆を失わない、その時まで。

ドラゴン・レース、またいつか。

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