過去回想4 アイリス・ディロール
儀式を経て、この子の名前は桃竜ピンキーになった。
これから伝説をともに歩む相棒ね!
「よし、見ていなさいディロール。いーっつもレースの自慢話しやがって…。私が勝って、見返してやるんだから!」
その日から、私は練習を始めた。
ドラゴン・レースなら、もしかしたらディロールより才能があるかもしれないでしょ?
けど…。
「ハァハァハァ…」
これ、すごい体力を使うの。
乗るにもしっかりと握らないと振り落とされちゃうし、カーブを曲がる時は姿勢が辛いしで大変。
そして、週に1回開催される発散レースに出場することにした。
ディロールも出るらしいから、ここでぎゃふんと言わせてやる!
「今日であなたの時代を終わらせるわ!」
「へぇ、それは楽しみだなー」
『スタート!』
空気砲がパンと鳴る。
「いっけーピンキー!」
「ガアァ!」
とにかく先頭に立てばいいのよ!
始めっから全速力で行かせてもらうわ。
「逃げ戦法か、僕と同じだね」
チッ、やって来たわねディロールと紫竜パープル。
コイツにだけは負けたくな…
ギュン!
パープルはすぐに消えてしまった。
「は、速すぎる…」
結局この日は1分くらい離された。
大人達も参加してる中ディロールはトップ5入り、私は…最下位。
このままではいけない!
発散レースは1ヶ月に1回参加することにしましょう。
特訓の始まりよ!
半年後、12月になった。
「よし、今日こそディロールに…!」
「また負けた…」
私は全然成長できていなかった。それどころかアイツとの差は日を追うごとに開いている。
何がちがうの?
私が非力な女の子だから?
ピンキーが小さいドラゴンだから?
そんなことない!
努力し続ければ、私達はいつか…勝てるはず。
まだ努力が足りないだけ、これからもっと頑張ればいつかきっと…。
◇◇◇
ある休日、ディロールに勉強を教えてもらおうとお願いしたんだけど、断られた。
彼はこう言った。
「僕は最強のライダーになるために、ヨシノミライ学園に絶対編入するんだ。ごめんだけど、そんなヒマ無くってさ。メルに教えてもらってくれ」
とゆーことで、私の部屋にはメルがいる。
「聞いてよメル、ディロールがさ、ヨシノミライ学園ってところに編入するとか言って私の頼みを断ったのよ!酷いと思わない?」
「ありゃ〜、それはおつだね。でもペイジちゃん、それぐらい編入は大変なんだよ?」
お菓子を食べながら笑う彼女は、なんだか妹みたいだ。
「ぶー、そもそも何よ、ヨシノミライ学園って」
「知らないのー?世界最高のドラゴンライダー養成学園だよ」
「へー、じゃあ私もそこに入るわ」
そう言ったらメルに笑われた。
「あはは!無理無理!」
「なんですって?」
「あそこは毎年何百人も受験者がいて、西区からは30人しか入れないんだよ?しかも試験はレース。ずーっと最下位なペイジちゃんは逆立ちしても敵わないよ」
そ、それはキツイわね。
「でも、ディロール君なら合格できるかもしれないね。彼天才だし」
「じゃあ、もしアイツが合格したら、私は永遠に…」
「勝てないだろうね」
それだけは…、嫌だ!
「編入試験まではあとどれくらい!?」
「3ヶ月も無いよ」
「足りなすぎるわ…!それじゃ私、絶対に合格できない」
はぁ、私って本当に、弱いなぁ。
「……ペイジちゃん、強くなりたい?」
メルが真剣な顔で迫ってきた。
「当たり前よ!」
「私、強くなれる薬を持っているの」
「えぇ!?」
そ、そんな魔法みたいなアイテムがあるの!?
さっすがメル!
「それ、私にちょうだい!」
「うん!私はそのために…、いや、まぁそう言うだろうと思って持ってきたの!」
そう言ってメルは注射器を取り出した。
「これでーす!お父さん特製の『超筋肉増強剤』!」
「お、おぉ…、お?」
あれ、これヤバい薬じゃん。
めっちゃ緑色じゃん!
確かに私は筋肉がまったくと言っていいほどないわ。
まー女の子だし?
普通よね。
「メル、これー、安全?」
「うん!なんせお父さんはドラゴン博士だもん!」
ま、まぁそれならいいのかな…?
「腕に注射するよ〜?これをブチ込んだところが目まぐるしく強くなるの!でも見た目はキープできる、すごいでしょー!?」
「お、お願いします…!」
えーい、もうどうにでもなれー…
翌日。授業中。
バキッ!
あ、ペン折れちゃった。
メルの薬、本当にすごいの!
打った翌日の朝から私の腕が素晴らしい進化を遂げた。
これならピンキーから振り落とされる心配もなくなって、もっと速く飛べるわ。
ふっふっふっ、これでディロールにまた一歩近づける!
「ペイジちゃ〜ん?」
「メル、どうしたの?」
「昨日の薬について、ひとつだけ注意しておきたいことがあってね…」
副作用とかかしら?
「この薬、好戦的な性格になる副作用があるから注意してね」
「あっそ、だいじょうぶよ。私は元からだから!」
「あ、……たしかにそっか。心配しなくても良さそうっ!」
ふたりで笑いあった。
しかしこれが、私を地獄の底へと突き落としてしまうことを、まだ知らなかった…。
◇◇◇
12月21日。
私はレースに出ることにした。
「ディロール!今までの私とは思わないことね!」
「それ毎回聞いてるけどなぁー」
「ふふふ、今回は本当に本当よ」
「それも毎回聞くけどなぁー」
こいつ…、ナメてるわね。
『スタート!』
「ピンキー、全力を出すのよ!」
「ガアァ!」
ギュン。
私達はまるで別物だった。
ピンキーは元から速いドラゴンだったけど、私が乗りこなせなくて制限をしていた。
しかし、この力を手に入れた私ならだいじょうぶ!
思いっきり飛んでね、相棒!
あ、あの赤いポールはカーブ地点か。
時間感覚が全然ちがうわね。
「驚いた…!本当に速くなってるね」
ディロール、やはり追いついてきたか…!
今私は先頭にいる。抜かされてたまるもんですか!
「邪魔よ!」
私はピンキーに、パープルの軌道に割り込むように指示した。
「くっ、そう来たか!」
ふふふ、私は進路妨害なら得意でね。
いつもならしないけど、私は先頭にいる。
これで少しでも遅らせて…
「ガアァ!」
ピンキーが吠えた。
「どうしたの!?…あっ」
目の前に、赤いポールがそびえ立っていた。
妨害に専念していて気が付かなかった。
このままではぶつかっちゃう!
「ピンキー、右へ回避!」
ヒュン。
ふぅ、なんとか回避でき…
ゴキィィン!
後ろから、鈍い音がした。思わず振り返る。
そこには血を流しながら落ちていくパープルの姿があった。
私は頭が真っ白になって、何も考えられなかった。
「ディロール君の相棒、全治1年の大怪我らしいよ」
「えー!そんなー!」
「ディロール君本人も大怪我だって、本当に可愛そうだよねぇ…」
翌日の学校では、話題がそれで持ちっぱなしだった。
「全部ペイジが悪いよな…」
「あの妨害だめだよね…」
「本当にウザい、弱いくせに…」
ヒソヒソと、私への批判も聞こえてくる。
当然ね。私がディロールを地獄へ突き落としたといっても、何も間違っていないし…。
メルとは距離を置くようにした。
今関わったら、彼女も標的にされるかもしれない。
その日から、ペンは全て折れた。
◇◇◇
私はディロールに謝りに行った。
病室へ入ると、たくさんの贈り物で溢れていた。
「やぁペイジ。お見舞いかな?」
彼は笑顔だった。
「ありがとう、嬉しいなぁ。幼なじみに来てもらって…」
「ごめんなさい、私のせいでっ!」
気がついたら頭を下げていた。
本当は励ましに来ようと思ってた。
こんなことするつもりもなかった。
私が謝罪したって、何も変わらないのはわかってる。
でも、彼の優しそうな笑顔を向けられた時。私はどうしても自責の思いが爆発してしまったの。
「何してるのさ。ペイジは何も悪いことをしていないじゃないか。謝る必要なんて…」
「……はぁ!?」
ガタン!
私はディロールの胸ぐらを掴んだ。
「そうやって優しくしないでよ…。されたらこっちは迷惑なの゛!」
涙が止まらなかった。
ディロールの優しすぎるところとか、私の惨めさ不甲斐なさとか、いろんな感情でごちゃまぜになっていた。
しばらく見つめ合って、ディロールは口を開く。
「今回悪いのは僕だ」
「っ!まだ言うか…」
「ポールに気が付かなかったのは僕の責任だ!」
彼は真剣な声で叫ぶ。
「ペイジはポールを避けれただろ?つまり僕なら避けれたはずだ。それは僕のミスなんだ」
「うっ。そんなこと言わないでよ…。だって、だって…」
私はディロールを離した。目から出る涙を拭うために。
「昨日はすごかったよ、ペイジとピンキーは」
「うっ、うっ…」
「もしペイジを悪く言う奴がいたら、僕のところまで連れてきてくれ。僕がぶっ飛ばしてやるから。…だからさ、もう泣くなよ」
「僕はレースするより、ペイジが笑ってる方が良いんだ」
結局、私は涙が出なくなるまで泣いた。
3月になった。
今私はルテティアに、ヨシノミライ学園の編入一次選抜を受けに来たの。
あれから、私はレースだけに人生を捧げてきた。
嫌われ者なのは変わらないけど、もうどうでもいい。
ディロールの相棒、紫竜パープルは順調に回復してて、後遺症は残らないっぽい。
ディロールは今、ドラゴン専門のお医者さんに憧れている。
「誰かが自分みたいな事になっても、絶対に早く直してあげるんだ!」
ってね。少ししたら、中央区へ医学を学びに転校するらしい。
行動力はさすがお金持ちって感じね。
「ペイジちゃん、頑張ってね!」
「僕の分も頼むよ」
メルとディロールは応援に来てくれた。
「えぇ、任されたわ!」
私は元々ディロールが着けるはずだった、1と書かれた番号の服を着る。
アイツは良いやつすぎて、最前線の番号をくれたの。
この数カ月、私に付きっきりでレースを教えてくれたディロール。彼をもう恨んだりしない。
今では感謝と憧れしかないし。
「行ってきます!」
私達は笑顔で別れることができた。
よし、今日こそディロールに恩返しを…
………ん?
こんなところにまだドラゴンがいる?
はぁ、翼が4本もある。珍しいわね。
よし、偵察よ。
「もしもしあなた、一次選抜の出場者ですよね?」
「はっ!」
珍しいドラゴンのライダーっぽい男の子はこっちを向いた。
「そ、そうです!受付お願いします」
えっ、何言ってんの!?
もうすぐ一次選抜始まるわよ!
「受付してないの!?じゃあ来て!」
とにかく、コイツを助けてあげなくちゃ!
私は彼の腕を掴んで、引っ張った。
◇◇◇
「こらペイジ君、起きなさい」
「ん〜〜?」
ペイジは歴史の授業中に居眠りをしてしまい、ゲオルギウス先生に起こされた。
なんだか、昔の思い出を見ていた気分だった。
「あと、シャクティン君、グレン君。君たちいい加減にしなさい!」
ビシッビシッ。
シャクティンには棒で打撃、グレンにはペンを投げた。
「ったぁ!?」
「ありり!?」
「ほらほら、これが終わったら特訓だぞ。あと少しだから頑張れ!」
「「「は〜〜い…」」」
ペイジはペンを取る。
いつもとはちがう、ピンク色の柔らかいモノを握る。
これは手の負担を軽減するのが目的だが、彼女は別の用途で使っている。
(ふふっ、なんかスッキリしたわ)
それをくれたのは、幼なじみに似てる人。
ディロールに会うのは、ヨシノミライ学園で全ての生徒に勝った後と決めている。
そのためならば、誰だって利用してやるのだ。
決断はいつだって簡単。
自分の有益になることを最優先すればいい。
たとえ、誰かが犠牲となっても。
この学園には、そんな考えを許さない人がいる。
普段はバカで、しょうもなくて、頼りない。
でも、本気で悔しがり、本気でがんばることができる。
スプリーウェルをアッサリ許せる寛大な心の持ち主。
最強のドラゴンライダーになる、というカッコイイ夢を持っている人。
そして、この学園で1番好きな人。
元から人付き合いは苦手だ。
表現も不器用で、泣くか怒るかしかできない。
自分より優れた何かを持つ人のことは、無条件で敵対視してしまう。
そんなペイジを受けとめられるのは、彼しかいない。
彼に嫌われることだけは絶対に嫌だ。
いつの間にかそう思い始めている。
「少し考え過ぎだな」
ペイジは笑って、髪を耳にかけた。
ペイジも日々成長してます
次回、久しぶりにあの人が登場!
『おかえり』




