過去回想3 ソルフェリノ・ペイジ
ここは今から1年前のチルタウン。
そしてこれは、ソルフェリノ・ペイジが、ヨシノミライ学園編入を目指すようになった過去である。
教室の床に何色もの絵の具が飛び散っていた。
「うわーッ、やっちまった…」
ひとりの少女が顔面蒼白になっていた。
「ちょっとあなた達!よくもメルをこんな青白い顔にさせたわね!」
腕を横に振るった。
バシッ。
しかしそれは男子に止められてしまう。
「ちがう!メルが俺らの周りに絵の具をこぼしやがったんだ!」
「おかげで見ろ、服がこんなにカラフルになっちまったじゃねーか!」
「そーだそーだ!」
「悪いのはそっちじゃねーか!」
男子は反論した。
彼女は何も言えなくなった。
「ちょっと、どーしたの?」
紫色の瞳を持った少年が仲介に入った。
「聞いてくれよディロール!メルが絵の具こぼして、それをこいつに八つ当たりされたんだ!」
「なるほど、事情はなんとなくわかった。でもまずは手を離してあげよう、ね?」
「はっ!」
男子は手を離した。
開放された女子は悔しそうにしている。
ディロールと呼ばれた男は学級委員で、彼は男子達をたやすく説得してしまった。
「ふぅ…。まったくこのクラスはいつもケンカばっかり起こって困るね」
ディロールは顔面蒼白な少女の前にいる女子を呆れたような目で見下した。
「その全てが君のせいなんだよ。そろそろ落ち着いてもいい頃なんじゃないかな、ペイジ」
◇◇◇
私はソルフェリノ・ペイジ。
今日は本当にツイてない日だった。
「本当に本当にごめんなさい!」
メルは帰り道、誠意を持って謝罪した。
彼女はセラドン・メル。
私の1個前の席で、趣味とかがちょー似てるからすぐに友達になった。
「いいよいいよ、たまにはそんな日もあるって」
そう言って慰めてるのは、メルを挟んで向こう側を歩いている男。
コイツはアイリス・ディロール。
私の幼なじみで、ちょっとお金持ちな家の坊っちゃん。
うちのクラスでは特に信頼されていて、誰もディロールの言うことに反論しない。
正直言えば、嫌い。
で、なんでそんな奴と帰ってるかというと、隣の家だから。
メルは私が誘った。
「ペイジ、君は考えなしに友達を守ろうとするから良くない。しかも暴力的すぎる。今回悪いのはどう考えても君だよ?」
「う、うっさいわね!」
コイツのこーゆー現実主義なとこが大っ嫌い。
家まであと少しのところで、ディロールは私達に告げた。
「あ、今日は発散レースの日だったな。じゃあ」
そう言って彼は走っていく。
そのまま消えてくれたらなぁ……。
でも彼は止まって振り向いた。
「ペイジ、誕生日おめでとう」
「ど、どーも!」
そして再び走っていった。
私の誕生日、覚えててくれたんだ…。
「お邪魔ー!」
「メルちゃん、いらっしゃい」
メルは私の部屋に上がってくる。
もはや常連となっていた。
「ってことでー?ハッピーバースディ!」
パンパンッ!
クラッカーからうるさい音が響いた。紐みたいなやつが頭に乗る。
でもやっぱり、祝ってもらえるのは素直に嬉しい。
「13歳って特別な誕生日だよ!」
「そうね、なぜなら…」
「ゴアァ!」
しかし、その幸せムードは咆哮にかき消された。
窓の外にある、アイリス家の大きな屋敷の上を飛び回る生物。
ドラゴンだった。
その体は紫色で、少し禍々しく見えるかもしれない。
あのドラゴンはディロールの相棒、紫竜パープル。
パープルはバサバサと翼をはためかせ、レース場へと飛び立った。
「はぁ…」
私は今日が13歳の誕生日で、ようやくスタートラインに立ったばかりなのに、アイツはもうレースをしている。
裕福な家庭では代々ドラゴンを受け継いでいるらしい。
昔から、勉強、運動、人望、財力。
彼と比べたら、あらゆるもので私は劣っていた。
逆に、何でもできるディロールが羨ましかった。
しばらくおしゃべりしている間に、空は夕方のオレンジ色に染まっていた。メルは玄関へ下りる。
彼女が去る前に、私は約束をした。
「メル、明日空いてる?」
「うん、フリーだよ!」
「じゃあ明日の8時に『ドラゴン保護施設』に行きましょ」
「おっ、さっそくやる気すごいな〜。じゃ明日ね!」
こうして今日は解散した。
◇◇◇
翌日。天気は良好。
私達はチルタウンのドラゴン保護施設へと足を運んだ。
相棒探しにはぴったりな施設のドアが開く。
ドラゴン保護施設とは、人間が面倒を見きれなくなったドラゴンを保護する場所。
ドラゴンと契約するのは色々とデメリットがあって、例えばドラゴン・レース禁断症状とか、莫大な食糧費とかがあるわね。
そのドラゴン達は引き取り希望者が見つかるまでずっとここにいる。
殺処分とかは法律で禁止されているらしい。
「こんにちは、ライダー希望者のソルフェリノ・ペイジです。ドラゴンを見てもいいですか?」
「はいどうぞ。いい子が見つかったら知らせてね」
親の許可証を渡し、プログラミングバリアが張り巡らせてある自然公園に足を踏み入れた。
「わーぁ、凄いねここ!」
メルは空を羽ばたくドラゴン達に目を輝かせながら追いかける。
「ちょ、はしゃぎすぎだって」
私達以外にもたくさん人がいるから目立つことはやめてほしいんだけど…。
「あのドラゴンとかどう?」
「う〜ん…」
さっきから強そうなドラゴンばっかり勧めてくるメル。
あなたの相棒じゃないから、私のペースで選びたいのに。
2時間ぐらい経過して、昼食をとった。
「全然決まらな〜い!」
空を見上げると、ドラゴンの群が隊列を組んで飛んでいる。
「もう全部見ちゃったでしょ、いい子が1体はいたはずでしょー?」
「いいえ、私が見た中に運命の相棒はいないわ!」
ムシャクシャしたのでサンドイッチを頬張る。
「ふぇー、ドラゴンってふぁんらに仲良しなんだ」
ぼんやりと遠くに降り立った群を眺める。
ご飯は飼育員さんが用意してくれるらしく、ドラゴンは争うこともほとんど無かった。
ごっくん。
「よし、相棒探し再開よ!」
「おー!」
集まっている今がチャンス。私達は走った。
「……ん?あれは…?」
その時、私は1体のドラゴンを見つけた。
ご飯を食べる群の中で、何も食べれていないドラゴンだった。
飼育員さんに聞く。
「すみません、あの小さなドラゴンのご飯はないんですか?」
「あぁ、あの子ね。ちょっと群に馴染めてない子なの」
「ガアァ…」
その小さなドラゴンはチャンスをうかがって食べようとするが、うまく入り込めなていない。
私の足は自然に進んでいた。
「ちょ、ペイジちゃん、どこいくの!?」
「あまり近寄り過ぎたら危ないよー?」
メルと飼育員さんは警告していた。
でも、私にはどうしても許せないことがあった。
「ちょっとあなた達!この子を仲間に入れてあげてよ!!」
私は小さなドラゴンに手を添えて、そんなようなことを言っていた。
ギロリとにらみ返してくるドラゴン達。
そのうちの1体が飛びかかってきた。
「あっ!」
鋭い牙がのぞく。
私はただ、このドラゴンを助けたかった。
いや、それだけの理由じゃないね。
この小さなドラゴンに自分の境遇を重ねてしまったのかもしれない。
非力で、自分だけじゃ何もできなくて、あまり群に馴染めてないその姿が。どこか私にそっくりだったわ。
「危ないっ!」
私が襲われる瞬間、メルが飛び込んできた。
ふたりで地面に倒れ込む。
「それっ!」
飼育員さんは骨付き肉を遠くに投げて、ドラゴン達は血相を変えて飛んでいった。
「ふぃ〜、もう安心だね。ちょっとペイジちゃん!いつもの悪い癖出てたよ!?」
「ご、ごめんなさい」
私は起き上がるなり、小さなドラゴンを目で追った。その子はご飯を元気そうに食べていた。
「…決めた。あなたが私の相棒…!」
この出会いが、私の運命を変えたと思う。
ペイジの過去はもう少し続くよ!
次回、ペイジの憧れた男!
『過去回想4 アイリス・ディロール』




