成れ果てし異世界の黒き民の話⑤
『何か?』
『僭越ながら、サテリッタ殿は天啓の聖眼という予知系の特殊能力を有していると聞きます。それを用いての星杯や秘密施設等の捜索は出来なかったのでしょうか?』
『……申し訳ないが、私の聖眼はけして万能ではないのだ。予知の精度にはばらつきがあるし、確率で失敗してしまうこともある。――勿論、観測そのものは何度も試みた。が、いずれも成功はしなかった。原因としては、星杯が高次元の神秘物体である為に外部からの干渉自体を妨げてしまっているのかもしれない』
――天啓の聖眼。
それは未来視や千里眼に似た祝福の一種。厳密には“知らない事を知れる”能力であり、世界の真理とされるものへ限定的にアクセスすることで、通常の手段では入手出来ない情報を獲得することが出来る。
分かりやすく言えば、情報の検索能力といったものだが、サテリッタの述べたようにけして都合良く扱える訳ではなく、情報の入手難度が高ければ高い程、精度や成功確率は低下していく。また、相応の消費魔力に加えてインターバルも発生するので、続けて連発出来るものでもない。
とはいえ、似た先天性技能である運命の呪眼が制御の難しいパッシブスキルであるのに対し、こちらは任意で使えるアクティブスキルで負担も遥かに少ない為、殆ど上位互換のような能力といえる。
『ならば、星杯の手掛かりは全く無しか……。この大陸に元から住んでいる人間が、誰も見つけられなかったものをどうやって探し出せばいいのか……』
サテリッタからの回答に、ルヴィスは頭を抱えるように思わず唸るが、
『いいや、ところが今に限って言うとそうでもない。星杯の在処の捜索に関しては、お主の持っているそれが役に立つことだろう』
一転してサテリッタはそう告げると、フランジェリカの方を指差してきた。
『えっ……? もしかして、コレですか?』
急に自分を指されたことに戸惑いつつ、フランジェリカはその手に小瓶を取り出す。
その中には、アールゼクス鉱山で倒したキングメタルイーターの亡骸より入手した、オレンジ色に発光する結晶体のようなものが入れられていた。
『そうだ。因みにそれを何処で手に入れた? 何か奇妙なモンスターの体内などから、出てきたりはしなかったか?』
『あ、はい。その通りです。これはですね――』
サテリッタに問われ、フランジェリカはアールゼクス鉱山での一件もまるまる含めて、手にした結晶体の入手経緯を説明した。
『――ふむ、なるほど。であれば、私の知り得ている通りの代物だな』
『サテリッタ殿。この石は一体?』
ルヴィスからの質問に、サテリッタが返す。
『それは寄生した生物を特異点の発生源化させる結晶生命体だ。私は名を《特異晶石》と呼んでいる。エルジアの民が全員、フォーセンとなってしまった頃くらいに私も初めて認識した』
「「特異点!?」」
「……あのー、そもそも特異点って何? 数学的な意味のとは多分違うよね?」
サテリッタの説明に一同が困惑する中、綾美が思わずそんな事を口にする。
『ここでいう特異点とは、通常では有り得ない事象を自身や周囲の環境に発生させるものを差す。この特異晶石に寄生された生物は総じて、特殊能力を備えた強力なボスモンスターのようになるのだ』
「じゃあ、あの鉱山にいた妖精も……」
「だな。おかしな空間を作り上げて、モンスター本体もおかしな能力を持っていた。まさしく、その通りだろうな」
『でも、何故それが星杯の在処を探すのに役立つのです?』
再び質問したサフィアに、サテリッタが答える。
『特異晶石は元々、電磁楼華の核であった星杯の暴走現象に伴い、生みだされたもの。故に性質が似通っているので、星杯の在処を探知するのに利用出来るのだ。――ただし、全て集めればの話だが』
『全てとは、幾つか数があるのか?』
『特異晶石もまた、この大陸に全部で七つ存在する。一つは私が過去に確保しているので、未だ野に放たれているのは残り五つだ』
『……理屈は判りました。まずはその特異晶石というのを全て集めきった後、私がそれで神具を作成すればいいのですわね?』
一同の中で最も説明を理解したといった様子で告げたコメットに、サテリッタが頷く。
『その通りです。流石はコメット様。七つの特異晶石とコメット様の御力が合わされば、きっと最後の星杯の在処も判明することでしょう』
(神具……そういえば、魔王城でサフィアを助け出した時にも、コメットさんが私のブレスレットを元に作ったことあったっけ。コメットさんの力なら、本当にどうにか出来るかもしれない……)
綾美は過去の空中魔導要塞であった一件を思い出し、ようやく具体的に明らかとなった、この世界でのやるべきことに希望と期待を寄せた。
『それにしても、その特異晶石という物については随分と御詳しいですね。そちらも聖眼での観測による結果ですか?』
『……まあ、そうだな。過去に偶然、見つけた一つを解析したことである程度、それがどういった物であるのかを知り得ている。更に言えば、残り五つの特異晶石を何処にいる、どのモンスターが宿しているのかも全て把握しているぞ』
「ちょっ、マジかよ!?」
「さっきまでは色々分からないって言ってたけど、今度はメッチャ分かってるね!?」
サフィアからの問いに答えたサテリッタの返事に、ハンターとジェドが驚きを示す。
『まあ、情報が事前に揃っているのは大いに結構なんだが……つまり俺たちは、そのモンスターらを倒して特異晶石を集めさえすれば、星杯の――レフィリアを復活させられる力への道標が示される訳だな?』
『纏めるとそうなる。ただし、対象のモンスターのうち、ある一体は私も手を貸す必要があるだろう。なのでまずは、それ以外の四体を倒しに行くといい。どのモンスターがいる地域も一度、大陸全域を巡ったディアン殿であれば捜索は容易な筈だ』
サテリッタがそう言った為に、一同はディアンへ注目するが、当のディアンはその視線に肩を竦めた。
『生憎、私は彼らを連れて来ただけで仲間ではない。むしろ、立場的には競争相手だ。故に手助けしてやろうなどとは思わない』
その発言にルヴィス達は、まあ素直に協力はしてくれないだろうな、と半ば諦め気味に視線を下げた。助力が得られれば大いに助かりこそするが、彼の性格からいってそう簡単にはいかないだろう。
『――が、星杯入手の上で肝心の事前工程にコメット殿の力が不可欠な以上、手を貸さざるを得んな。星杯の所有権、それを実物の発見後に改めて決めると同意するのであれば、案内くらいはしてやらんこともないが?』
だが直後、ディアンの告げた撤回の言葉に一同は全員、視線を上げては互いを見回した。
『――ッ! 皆はどう思う? ディアン殿の条件を受けて、協力を頼むか?』
ルヴィスの確認に対し、パーティから反対意見は一つも出なかった。それにより、ルヴィスが代表してディアンの元へと進み出る。
「分かりました。その条件、呑みたいと思います。ですので、これからも同行を宜しくお願いします。ディアン殿」
「――ふん、せいぜい足手纏いにはなってくれるなよ」
相変わらずな反応ではあったが、ディアンの同行継続にパーティの皆は揃って安堵の息をついた。
古代大陸でのモンスター退治、しかしそれが一行のこの世界に来た目的ではない。故に極力、時間をかける訳にはいかないので、手間と労力の短縮、それから戦力的な意味でも彼の同行はどうしても必要だ。
ようやく示された、この世界でやるべきタスク。その先に果たして、何が待っているのだろうか――




