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剣と魔法の異世界に現代兵器を持ちこんでみた話 ~イマジナリ・ガンスミス~  作者: 矢野 キリナガ
第12章:エルジア大陸編
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成れ果てし異世界の黒き民の話④


『それはダークダストに適応した新生物の因子を抽出し、人間(ヒト)の遺伝子に組み込むというものでした。要は人体改造です。これは当時、賛否こそありましたが、結局は生き残った民の殆どに施術が執り行われました。そして計画は目論見通りに成功し、人々はダークダストの蔓延するようになった世界でも生きていけるようになった、のですが……』


『……その口振りですと、けして良い方向だけには転ばなかったのですね?』


『ええ、遺伝子そのものに手を加えた訳ですから、体に想定外の変異が起こらない筈もありません。――まず、人々は食べ物を口で食べられなくなりました』


「「……ッ!?」」


 サテリッタの言葉に、聞いていた全員が驚きの目で注目する。


『正確には経口摂取した飲食物を消化、吸収する内臓機能を失い、生命を維持する上でのエネルギー補給手段は皮膚から魔力を摂取することのみになりました』


「ええ……それって、固形物だけじゃなく水もってこと? そんなのって、そもそも生物として生きていけるのかな……」


「それだと、もはやエレメンタルやホムンクルスなんかの魔法生物のような生態になりますね……」


 サテリッタから聞いた話に、少し引いた様子でジェドとフランジェリカが感想を言い合う。


『続いて、呼吸と発声も出来なくなりました。生命活動に酸素は必要なくなりましたが、言葉を用いたコミュニケーションが取れなくなりました。更に視力、聴力までも失いました。体毛を全て抜け落ち、全身の皮膚は真っ黒に染まり、生殖機能も無くなりました』


 そこまで言ったところで、サテリッタは唐突に自身の兜へ両手を掛けると、それをゆっくりと持ち上げては外していった。


 カブトムシやクワガタといった甲虫を彷彿とさせる、物々しい漆黒の鎧兜を脱いだ後、彼女が晒したその顔面は――口も鼻も耳もない、まるでマネキンの頭部のような、のっぺりとした容姿であった。ただし、眼の部分だけは黄色く発光している、レンズ状の部位が双眸の如く存在している。


「「なッ……!?」」


 サテリッタの見せた、とても人ならざる素顔にディアン以外の全員が動揺する。どうやら、ディアンだけは既に彼女の素顔は把握しているようだった。


 ついでに綾美からしてみれば、サテリッタには悪いが、見た目のイメージ的には宇宙人(エイリアン)そのものといった印象だった。特に彼女の光る眼は、某有名な特撮ヒーローを連想させるが、そういえばアレも宇宙人だったな、なんてことを綾美はつい考えてしまう。


『皆様としては、きっと驚かれていることでしょう。ですが、私達は全員、最終的にこのような姿となりました。使えなくなった身体部位は時の流れと共に退化して消え去り、今の容貌と成り果てたのです。――ただし、感覚器官が何も無い訳ではありません。代わりに電磁波を知覚できる器官が新たに備わり、それで周囲の状況を認識したり、他の同族とコミュニケーションが取れるようになっています』


「で、電磁波って……」


 サテリッタの発した単語に綾美だけは理解と反応が出来たが、コメット以外の者たちにはどうもピンときていない様子であった。おそらく、現代のネアロペ大陸に電磁波という概念は存在しないのだろうと推測する。


「なんていうか、人間とは全く違う生き物になってしまっているな……」


 そんな中、ルヴィスでさえも、人間だったものがここまで異なる生態に変化してしまったという事実に、思わず息を呑まざるを得なかった。


『更に言うと、身体能力に関しては、元の人間だった頃の数十倍以上になりました。また肉体強度及び再生能力も凄まじく増加し、加えて寿命がなくなりました。肉体を物理的に破壊し尽くされない限り、魔力さえあればいつまでも生きられます。体内魔力が無くなると動けなくはなりますが、あくまで仮死状態に留まり、また魔力を与えられれば元通りに復活可能です』


 サテリッタの説明に、一同の殆どは驚きを通り越して、もはや引いているような状態であった。あまりの壮絶過ぎる内容に、どのようなリアクションを返していいのかさえ判らないといった空気である。


『――サテリッタ殿。でしたら、その能力によって貴方は今まで、何万年もの時を生きてこられた――いや、他の者たちも全員、長い長い時を生き抜いてきたのですね?』


 すると、コメットは今まで通りの落ち着いた様子のまま、むしろサテリッタのこれまでを労るかのような面持ちで言葉を返した。


『左様です。私達は身体の仕組み的に、新たに仲間を増やす……子を成すことは出来ませんので、民の全員が変異を遂げてからそのまま、永(なが)い時を過ごしています。このように、人間(ヒト)ではなくなってしまった我々自身ことを……私は“フォーセン”と呼称することにしました。もはや、人間でないものを人間と呼び続けるのは、どうにも憚(はばか)られたもので』


(フォーセン……確かそれは、見捨てられた者を指す意味の言葉だったと思いますが、サテリッタ殿、貴方は……)


『ですが、私自身と他の民たちとでは、異なる点が幾つかあります。まず他の民たちは、変異による影響で知能が著しく低下してしまっており、今では私以外の全員が小さな子供くらいまで精神が退行している状態でいます』


「ええっ!?」


 サテリッタの明かした話に、綾美はつい声を上げてしまう。


『また、マナをエネルギー源としていながら、魔法を一切使えなくなってしまいました。しかし私だけは何故か、元の知性と自我を保てており、魔法を扱うことが出来ている。だからこそ、声を失っていながらも、貴方がたとの意思疎通が可能なのです』


「マジかよ、下手な吟遊詩人(バード)の御伽噺より壮絶過ぎて、さっきから混乱しっぱなしだぜ……」


「だよねえ。てか、この長の人がいなかったら、とてもじゃないけど関わり様がないじゃん。でなけりゃ正直、古代大陸に住み着いてる謎の部族としか思えなかったし」


「まあ、敵対するようなことにならず済んだのは幸運でしたね。これに関しては、ディアンさんのお陰でもありますけど」


 小声で交わしたハンターとジェド、フランジェリカの会話は、当然ながらサテリッタには聴こえていない。故に、彼女は話を途中で止めることなく続けていく。


『私は唯一、知恵を失わなかった者として、そのままではいずれ、テラームの餌として滅ぼされかねなかった無垢の民たちを纏めていく事に決めました。それこそが、天より定められた我が使命だと信じて……せっかく厄災より生き残れたのですから、どんな形であれ、生き永らえていかねばならないと……』


『サテリッタ殿……』


 サテリッタの独白じみた説明に、コメットはかける言葉がどうしても浮かばなかった。大変でしたね、などと気安い同情を口にすることは出来なかった。


 彼女はきっと、周りを大勢の民に囲まれていながらも、実質的には一人であるのと変わらない孤独に苛まれながら、苦しみながら、悠久の時をきっと過ごしてきたのだろうから。それを勝手に推測するのもまた、烏滸(おこ)がましいのかもしれないが。


『しかし、ある日のこと、私はとても久方ぶりに聖眼での予知を得ました。それはこの別次元へ切り離された大陸へ、元の世界より来訪者たちがやってくる。そしてその者たちと出会う事が、もう何万年も同じ形のままでいる、我々フォーセンの民の未来に大いなる変革を齎すと……』


 そこまで話したサテリッタは、先ほど脱いだ兜を被り直すと、室内にて並ぶ一同を見据えた。


『そんな未来視(ビジョン)を目にした私は、後にディアン殿と出会い、お互いの持つ情報を交換し合いました。ディアン殿は自身の目的と元の世界の事を。私はこの世界の事を。――そして、同時に私はディアン殿へ依頼しました。もしこの大陸を巡る際、他にこの地へやってきた来訪者らを見かけた場合は、私の元へ連れてきてほしいと』


『……彼女の予知では、フォーセンの民の運命に関わる来訪者とは集団で訪れるとのことだったからな。故に、その条件に該当するお前達を連れてきて、依頼(オーダー)を果たした。とはいえ、サテリッタ殿がお前達に何を望んでいるのかまでは知り得ないが』


 ディアンがルヴィス達に向けてそう言ったところで、サテリッタは自身の目の前で両手を組む。


『その話ですが……実を言うと、現時点で私から直接、貴方がたに何かをしてほしいといった用件がある訳ではありません。むしろ、貴方がたに接触し、関りを持つことこそが、今後の我々の運命を変化させるきっかけに繋がると考えています。ですからどうか、私に協力できることであれば、是非とも力添えをさせてもらいたいと思っているのです』


『分かりましたわ。であれば早速、お言葉に甘えさせていただくとして……まずはこちらも、この大陸へと訪れた目的について話すとしましょうか』


 そうして、ディアンを除く一同はサテリッタに対し、自分達がエルジア大陸にやって来た理由を一通り説明した。といっても、話の殆どはサテリッタと旧知であるコメットが主導で行ってくれたのであるが。


『――ですので、私たちの目的もディアン殿のそれと似通ってはいるのですが……ただ、私個人としてはメレシュタリカの示した、聖騎士復活の手段となり得るものが何かについて、実はある程度の推測がついてたりします』


「「……っ!?」」


 そんな説明の最後、急にコメットが口にした台詞に他の仲間達全員が、えっそうなの、といった反応で一斉に彼へ注目した。


『エルジア帝国が手にしていたテスタメントコアは四つ。そのうち二基がロストしているのは、私も厄災当時に確認済み。三基目は電磁楼華(フレアブロッサム)の核に使用され、大陸の強制転移に伴い使用不能となった……』


 コメットは四本立てた指を一本ずつ折りながら、最後に残った一本を掲げてみせる。


『しかし、四基目を用いた何かは大帝都内での戦闘で使われておらず、大陸転移後の異変解決にも利用されていない……これは最後の星杯(スターグレイル)が未使用且つ使用不可な状態で、何処かに残っているのではないかと考えたのですが、如何ですか?』


『――ご明察です、コメット様。貴方の仰った通り、四基目の星杯(スターグレイル)は一度も使われぬまま、大陸の何処かに眠っている筈です。そして神の示された、この大陸の何処(いずこ)かにある力というのもまた、その星杯(スターグレイル)が該当するものと私も思います』


『ちょっと待て、サテリッタ殿』


 途端、コメットとサテリッタの会話にディアンが割り込むように入ってきた。その声色は念話ながらも、どこか威圧的なものが感じられた。


『貴方は以前、私がこの大陸に世界を救える程の力が隠されていないか尋ねた時、そんなものは知らないと答えていたな。あれは虚言だったのか?』


『……すまない。貴方が望む物に該当するのは、おそらく星杯(スターグレイル)だろうと思ってはいたが、こちらの事情として意図的に伏せさせてもらった。しかしどの道、あの魔導機を見つけられたところで、ディアン殿に起動させることは出来ないだろう。先にも少し話したが、アレは誰にでも扱えるものではないのだ』


『ほう? ならば、この施設にあった魔導装置と同じように、貴方であれば使えると?』


『無論だ。更に言えば、コメット様でも可能だろう。あの魔導機には教団における高位の司祭でなければ操作できぬよう、特殊な封呪(プロテクト)が施されているのでな』


「……全く、人を都合の良いように使い走りさせてくれたものだな」


 明らかに不機嫌な様子で答えたディアンにサテリッタはもう一度、すまなかったと返したが、それにディアンが返答する事はなかった。とはいえ、それ以上の追及をすることもなく、空気を読んで再びコメットがサテリッタへ話しかける。


『サテリッタ殿。先の口振りですと、貴方は星杯(スターグレイル)の在処についてはどうやら知らない様子ですわね? 四基目の星杯(スターグレイル)はこの大陸の環境変異後にも、使われはしなかったのですか? 厄災時に使用が間に合わなかったのはまだ解りますが、所在そのものが不明とはいうのは……』


『コメット様の疑問は御尤もです。帝国は四基目の星杯(スターグレイル)も対メタビースト用の兵器に利用していたそうなので、それを用いた超級魔導装置(ギガントマギア)が軍の秘密施設により開発されていたとは聞いています。しかし、その肝心の施設についての情報を大陸転移後に生きていた人間が誰も持っていなかったもので……結果的に、星杯(スターグレイル)の在処が判らなくなってしまっているのです』


『そんな……このセントラルベースに何かデータは残っていなかったのですか? それにもし無かったとしても、その施設で働いていた職員からのコンタクトくらいありそうなものですが……』


『それが最重要機密だったが為に徹底した情報秘匿がなされていて、この基地には何も……。また、秘密施設側の人間とも残念ながら一切の接触は叶いませんでした。おそらくですが、向こうでも何らかの予期せぬ事態が発生し、誰一人として連絡や脱出が不能になってしまったのではないかと考えています』


『――一つ、質問を宜しいですか?』


 すると、ここにきて今まで一言も発さなかったサフィアが挙手をしては、サテリッタへと声をかけてきた。


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