成れ果てし異世界の黒き民の話①
アールゼクス鉱山から脱出して数日後。
綾美やルヴィス達一行は、新たに同行者として加わった冒険者ディアンの案内の下、別次元より訪れた者たちに会いたがっているという人物が居る場所へ向けて、移動を続けていた。
広大な山脈を超えて、平野の多い大陸中央部の《セントラルエルジア》という地域へ移った彼らは、相変わらず殺風景な景色ばかりの荒野を延々と進んでいく。
当然ながら、道中における綾美たち一行の移動手段は機竜で、ディアンもまたそれへ乗せてあげようとしたのであるが――ディアン当人は何故かそれを頑なに拒み、自身の乗騎であるバイク型の遺物、疾駆ける機馬で移動することに拘った。
因みに最初、ルヴィス達から機竜を見せられたディアンは、一瞬だけ羨ましそうな表情を浮かべたのであるが、その後は意固地なくらいに機竜へ乗ることを拒否し、愛機たる機馬から降りようとはしなかったのである。
逆にルヴィスやハンターなんかは、ディアンの機馬へ大層熱心な興味を露骨に向けており、必死に近くでの観察や運転させてもらえないか等を何度も彼に頼み込んでいた。結果、ハンターだけは自身の機竜と交換する形で少し乗せてもらえたのだが、ルヴィスに限っては最後まで触らせてもらうことは出来なかった。
そして、一台のバイクに先導されながら、その上空より五機の飛行魔導機が追いかける形での移動を連日に渡り、行っていた訳だが、
「わっ、何あれ? なんか随分とおっきな街――みたいなのが見えてきたけど?」
遠くに都市らしき景色が現れたことで、サフィアの後ろに座っている綾美が告げる。
「あの街は……間違いありません。あそこにあるのは、《大帝都ゲリュオン》。エルジア帝国の首都ですわ」
その声にコメットが反応しては、魔導通信機のバッジより全員へ向けて答えた。
「えっ、あれがこの大陸にあった国の首都!? すっごいねー! ここから一目見ても、僕らの世界とは技術力がダンチって感じ!」
「私も同感です。あんな規模の街、今のネアロペ大陸にある何処の国家でも到底築けませんよ」
どんどん近づいては鮮明になっていく大都市の様子に、ジェドとフランジェリカが感想を述べる。そんな旧文明時代の帝都は、重厚でメカメカしい城壁に全体を覆われた、近未来要塞都市といった眺めであった。
「地上のディアン殿も、あのゲリュオンという都市に向かっているようだし、あそこに誰かが住んでいるのだろうか……」
「かもしれませんね。もしかしたら、あの街にだけはこの世界環境でも生活できる生存圏が確立されているのかもしれません」
ルヴィスとサフィアがそのように話していると、地上を機馬で走っていたディアンが巨大な城壁の門――今では開きっぱなしになっている街への出入り口の前に止まっては、上空の一行に向けて発光魔法による合図を送ってきた。それを受け、ルヴィスたちは彼のいる場所へと機竜を着陸させる。
「ここからは歩きで目的地まで行く。私の機馬だけならともかく、お前たちの乗騎はどんな反応をされてしまうか判らんからな」
そう言ったディアンは、機馬をカプセル化しては腰の収納用魔道具に仕舞い込んだ。
「反応? やはり、この街には誰か暮らしていたりするのですか?」
「いちいち質問に答える気はない。いいから、黙ってついてこい」
ルヴィスからの問いに対し、ディアンはいつも通りの素っ気ない態度で返しては、街の中へ向けて歩いて行った。それに一行も慌てて機竜を収納しては、彼の後に続く。
都市内部の景色は、これまでの集落地同様に完全な無人の廃墟群であった。あくまで建物の規模が大きいだけで、そこはけして変わらず、崩れて風化した構造物だらけで、生命の気配なんてものは微塵も感じられない。
そうして、そんな街の中をしばらくずっと歩き続けていたところで、
「なあ、ディアンの旦那。割と結構な距離を歩いてっけどよ、目的地とやらはまだかい?」
「あともう少しだ。まさか、このくらいで疲れたとか言わないだろうな?」
「いやあ、俺ちゃんは全然。ただ、あんまり長いこと歩かせると、レフィリアの姉さんとか疲れちまうだろうと思ってな。――姉さん、もし疲れてしんどくなったら、俺ちゃんがおぶってあげてもいいぜ?」
「おい、コラ」
かっこつけてウインクしながら言ったハンターに、賺さずルヴィスが肘でどつく。
「あ、うん、大丈夫。気遣ってくれてありがとう、ハンターさん」
そんなハンターからの言葉に、もう慣れたような口調で綾美もさらっと返した。その始終を見ていて、ジェドがからかうように肩を竦める。
「残念だったねー、ハンター君。優しいフリしたセクハラ出来なくてー」
「何がセクハラじゃ。人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ」
「もしそんな事しようものなら、即刻叩き斬ってやるからな」
「おーこわ。詰まんねえ冗談本気にして、殺気なんか向けてくんじゃねえよ」
そのような他愛ない会話を歩きながらしていた一行であったが、
「…………」
一人だけ、コメットが急に後ろの方で歩きを止めると、なんとも複雑そうな表情で周囲の景色を見回していた。
「……コメットさん? どうしました?」
そんな彼に気づき、フランジェリカが心配そうに声を掛ける。
「ああ、いえ……私は以前、何度もこの街に来たことがありましたが、当然、その頃はこんな有様ではありませんでした。ですので、何とももの悲しい気分になってしまって……」
「……心中お察しします。今でこそ、どの建物も崩れてしまってますけど、昔はとても綺麗だったんだろうなって、私も思います」
「ええ、本当に……美しい街並みだったのですわ……」
昔の記憶を思い返すようにして言った後、コメットは急いで足を早めては、遅れた隊列へと戻った。
「――おや? あれは……」
すると、何かに気づいたサフィアがふと呟く。
一行の視線の先、そこには1メートルを軽く超える大きさの、焼けた鉄のようなオレンジ色に輝く鳥の羽根らしきものが、金属の支柱に括りつけられていた。しかもそれは一つではなく、等間隔で街の中のあちこちに設置されている。
「あっ、アレってモンスター避けの羽だ! ディアンが持ってるのと同じヤツ!」
視界の向こうに映ったものを差して、ジェドが答える。
実を言うと一行がその物体を見るのは、けして初めてではなかった。というのも、その光っている羽根と同じ物をディアンが所持しており、夜間にモバイルハウスで休息を取る際、それを宝剣と共に外へと設置していたのだ。
「確か、あの羽根って夜に湧く、あの《テラーム》とかいうモンスターを寄せ付けなくできるものですよね?」
綾美の言葉にディアンが頷く。因みに彼女が今、口にしたテラームとは、夜間に大量発生する奇妙なモンスターのことで、それもディアンに教えられたが故に知っていた。
「そうだ。前にも話したが、テラームには天敵であるギガントモンスターにダイナフェニクスという怪鳥がいる。それから抜け落ちた羽根は特殊な魔力波を発しており、あれがあるところにテラームはけして近づいてこないのだ」
「そんな物がまるで魔除けのように並べてあるということは……この先に、誰かが暮らしていたりするのでしょうか?」
「…………」
しかし、綾美の時とは打って変わって、サフィアの質問にディアンが答えることはなかった。
「それにテラームの名前や生態であったりとか、あの羽根の効果などについても、これから会う方に教えてもらったのですか、ディアン殿?」
「……いちいち質問には答えないと言った筈だぞ。何度も繰り返させるな」
更に、ルヴィスからの問い掛けにもディアンは辛辣な態度で返す。
「っても、レフィリアの姉さんの質問には答えてあげたよなー?」
そんな中、悪くなりつつある空気を見かねたのか、ハンターがからかうように割り込んでそう述べた。その言葉に、ディアンは大仰に溜息をつく。
「今ここで私が答えずとも、後でいくらでも判ることだ。無駄な説明に労力を割くつもりはない」
(よく言うぜ。単に兄妹が気に入らないから、答えたくないだけだろ。不愛想なようでいて、意外と喋り好きなくせに)
変なところで維持を張るディアンの様子に、ハンターはやれやれと肩を竦めた。それからまた少し歩いたところで、
「――ッ! ディアンさん、もしや向かっている先とは、あの建物だったりはしませんか!?」
再びコメットが足を止めては、視界の向こうに見えた、ある大きな建物を只ならぬ表情で見つめながら言った。
そんな彼の向いている先には、何らかの大型施設のような建造物群があり、その中央には細長い塔らしきものが半分から折れたような、見るからに壊れてしまっている巨大構造体が存在していた。




