再起に向け異世界で見据える話⑤
「なッ!?」
男魔剣士のいた辺りに爆発と土煙が生じ、崩れた後ろの建物ごと、彼の姿が見えなくなる。その状況に女騎兵が動揺していると――なんと、メタビーストは最初に自分へ攻撃を仕掛けた、彼女の方に向かって突っ込んできた。
「――ッ!?」
その巨体に見合わぬあまりの瞬発性に、女騎兵は反応出来なかった。まるで瞬間移動でもしたかのように接近してきた敵の前脚に、彼女は成す術なく、轢き殺されることとなる。
――かと思いきや、メタビーストが突撃した先に彼女はいなかった。それより前に、女騎兵はカリストロスに担がれた状態で、建物の屋根の上にいた。
「あ――ありがとう、カリスト……」
「毎度毎度、ボサッとするな。余計な手間がかかるだろ」
カリストロスはそう言うと、掴んでいた彼女をその場に降ろす。
「ご、ごめん……でも、彼が――」
「アイツなら、“残念ながら”無事だ。あのビームがあたる寸前、剣でギリギリ受けやがったからな。吹っ飛ばされこそしたが、焼かれてまではいない」
「そうなの? それは良かった――」
だが、女騎兵が安堵の息をつこうとした瞬間、彼女の身体は再びカリストロスに抱えられては、ものすごい速度で宙を飛んだ。直後、さっきまで二人のいた建物の屋根が爆発で弾け飛ぶ。
「えッ――!?」
女騎兵が驚きと共に目を向けると、メタビーストは背から生えた突起を左右両方とも伸ばし、二本のアームから二人を狙って、光弾を発射してきていた。
「あのメカ野郎、こっちが下手に離れてるもんだから、ビームライフルぶっぱしてきてんな!」
女騎兵を担いだまま飛び回るカリストロスを追い、メタビーストはアームから光弾を連射し続ける。それにより、周りの建物が次々と破壊されていく。
『カリストさん、こっちに!』
すると、カリストロスに女呪術師の念話の声が届く。それは目玉型の端末から発せられたもので、端末は誘導するように点滅させた光を放っていた。そこは、建物がまだ密集するようにして残っている区域であった。
「――ッ!」
その示された場所に向け、カリストロスは飛び込むように移動する。そうして、彼が路地の中に入ったところで、
『雲海が如し白き濃煙、広がり漂え――クラウドスモーク!』
女呪術師は端末より遠隔で魔法を発動、爆竹が弾けたような音と共に、一瞬にして周辺一帯に煙幕を発生させた。それにより、メタビーストは攻撃目標の二人を見失うこととなってしまう。
「カリスト……」
「お前は自分の身を守ってろ。どうせ、アレに対する有効打なんか持ってねえだろ」
カリストロスはその場に女騎兵を降ろすと、返事を待つことなく、飛び去るようにそこから離れていってしまった。
「カリスト!」
女騎兵は叫ぶが、もう目の前に彼の姿は無かった。そうしてカリストロスは、忍者の如き身軽さと跳躍力で建物を屋根伝いに移動し、キョロキョロと獲物を探しているメタビーストへ近づく。
「――おい」
そんなメタビーストにカリストロスは頭上からあえて声を掛け、当然、メタビーストは反射的に彼の方を振り向いた。
「あんまり無駄撃ちはしたくないんだが……まあ、一発くらいはサービスしといてやるよ」
カリストロスが建物の屋根から見下ろして言うと、彼のすぐ傍に一基の発射筒が出現する。それは歩兵携行式多目的ミサイル、FGM-148 ジャベリンのものであった。
「日本円だと、一発だいたい二千万くらいらしいぞ。ありがたく、食らいな!」
カリストロスが言い放った直後、発射筒より賺さずミサイルが発射された。メタビーストは反撃する間もなく胴体に直撃を受け、爆発しては木っ端みじんに砕け散ってしまった。
呆気ないな、とカリストロスは一言呟くと、スッと建物の屋根より飛び降り、完全にスクラップと化したメタビーストの残骸へと近寄る。
そうすると、その残骸の中から黒いドロドロとしたスライム状の液体が染み出てきては、地面へ吸い込まれるように消え去っていくのをカリストロスは目撃した。
(やっぱ、コイツにもあの黒いのが入っていたか……。全く、一体何の目的でヤツはこのメカモンスター共を動かしているんだ……?)
倒したメタビーストをカリストロスがジッと見つめ続けていると、その背後から女騎兵が近づいて来た。
「すごいわ、カリスト……あのロードランボスに似た怪物も、一撃で倒してしまうだなんて……」
「――アンタ、今の攻撃であの時の黒いバケモノも仕留めたというのか?」
すると、男魔剣士もまた姿を見せては、カリストロスへと話しかけてきた。
「何だ、意外とピンピンしてるな。ま、人間プラナリアのお前なら、たとえビームの直撃貰っても蘇るんだろうけどな」
「話を逸らすな。今使った能力は何なのか、その詳細をここで答えろ。お前がパーティの仲間であるのならな」
露骨に不信感を募らせた目つきを向けてきている男魔剣士に、カリストロスは肩を竦める。
「やれやれ、鬱陶しいな。――今のはジャベリン。ざっくり言うなら、携行式の対戦車ミサイルだ」
「「……?」」
カリストロスの話した意味がよく判らないとばかりに、男魔剣士と女騎兵は顔を見合わせる。
「ジャベリンっていうと……さっきのって、投槍なの? 私の魔法槍術みたいなもの?」
「違うわ、アホ。あくまでその名を冠したミサイルのことだっつーの」
「……? そもそも、そのミサイル? ってのがよく判らないんだけど……何か、爆発物を高速で投射する魔法、もしくは特殊能力のことを差すのかしら?」
女騎兵からの問いに、カリストロスは息をつきながら頭を掻く。
「もう、そう言うことでいいよ。言うなれば、俺の能力はそういった兵器を召喚出来るんだ。――説明なんて、この程度で充分だと思うが?」
「おい、待て。充分どころか全然、説明不足にも程が――」
「それより、まだ街の中には魔物の残りが暴れ回ってるみたいだぞ。ここで呑気に立ち話ばっかしてていいのかよ。ボスモンスター倒したからって、安心しきってていいのか?」
未だ納得しきれていない男魔剣士であったが、カリストロスの述べた言葉に黙らざるを得なかった。
「ええ、カリストの言う通りね。今は彼への追求より、事態の解決に専念しましょう。これが魔王軍の起こした事件であるなら、元凶となった何者かが何処かにいるかもしれないんだし」
「――分かった。だが、この話の続きは後で必ずするからな、カリスト」
「はいはい。お前の頭で理解しきれりゃいいけどな」




