再起に向け異世界で見据える話③
金属の馬にて市街を駆け抜け、四人は只ならぬ破壊が引き起こされている現地へと直ちに到着する。
そこでは、黒い外皮に筋骨隆々な巨躯の四足獣が何匹も暴れており、それらに幾人もの冒険者が果敢に立ち向かっている光景が繰り広げられていた。
「……ッ! あれって、ベヒモス!? しかも、結構な数がいるわよ!」
仲間を降ろして金属の馬の変身を解いた後、女騎兵が目の前の光景に戦慄しながら述べる。
「これ程の大規模な群れが突然、都市に押し寄せるとはあまりに不自然だ。……まさか、遂に魔王軍が大々的に侵攻してきたんじゃないだろうな」
それに男魔剣士もまた、険しい顔で周囲を見回し、ベヒモスの集団が破壊の限りを尽くしている現状の確認を行っていった。
「――おーい! そこのアンタ達!」
すると、カリストロス達のところに戦士職らしき武装した冒険者が三人ほど、駆け寄って来た。
「見たところ、アンタらも冒険者だろ? 悪いが、手を貸してくれ! このままじゃ街も人も、ベヒモスに蹂躙されてしまう!」
「おまけに向こうの方では、なんとキングベヒモスまでいやがるらしいんだ! どうにかして食い止めねえと、大勢の死傷者が――いや、街そのものが滅ぼされちまうぞ!」
「キングベヒモスですって!? 何でそんな、ボスモンスターまでが……!」
「こりゃあ、冗談抜きで魔王軍の仕業かもしれないな。むしろ、そうでない方が不思議すぎる状況だぞ」
冒険者らの発言に、女騎兵と男魔剣士は口々にそう答える。確かにベヒモスの群れがいきなり襲来するなど、自然発生した事象とは考えにくく、カリストロスでさえもこれは魔王軍の手引きによるものではないかと思えた。
まさか、自分が本格的に行動を起こす前に連中と出くわすことになるなど、あまり望ましくはない状況だとカリストロスは目を細める。少なくとも、この場に六魔将なんてものが来ていたりしなければ良いのだが。
「何にせよ、早く戦闘に加わってベヒモスを撃退しましょう。私が索敵と魔法支援を行います」
そのように言った女呪術師に、女騎兵は頷く。
「了解。それじゃあいつも通り、私と男魔剣士の前衛二人で近接攻撃。カリストは女呪術師を守るのをメインに、余裕があれば遠距離から狙い撃って」
「はいはい。ドタバタ走り回るのは任せるよ」
女騎兵の言葉にカリストロスはそう答えると、右手に魔導式拳銃を出現させた。ベヒモス相手ならこれで充分すぎるし、これまでと違って本来の能力を取り戻した今なら、残弾のエネルギー量を気にする必要も無い。
「では、行くぞ!」
男魔剣士もその手に鎖剣を取り出すと、一気に飛び掛かるようにベヒモスの群れへと突撃していった。
「はああ――ッ!」
怒声を上げながら大剣を振り下ろした彼の斬撃により、ベヒモスの太い首が思いきり叩き斬られては、一刀の下に転げ落ちる。
「ふッ――!」
それとほぼ同じタイミングで駆けていった女騎兵の槍がベヒモスの喉笛を的確に貫き、一瞬にしてその活動を停止させた。
仲間の二体を突然屠られたことで、他の個体が一斉に二人へと注目し、相手にしていた他の冒険者らを無視して、群がるように突進してくる。
だが、男魔剣士と女騎兵の両者は共にそれらを近づいて来る順から次々と始末していき、特にカリストロスが射撃による後方支援を加える必要もなかった。確かにベヒモスは強力な魔獣だが、メタビーストに比べればまだ対処は遥かに容易である。
「すげえ……! あのベヒモスの群れをいとも容易く、バッサバッサと倒している……。一体、何処の冒険者チームなんだ!?」
「あれ程の実力、間違いなく白金級の冒険者だな。こいつは頼もしい!」
そのような二人の活躍に、周りにいた冒険者たちは揃って驚きの眼差しを向ける。そうしてあっという間に、その場で暴れていたベヒモスらは全て倒されてしまった。
「ふう……ここにいたのは、全部仕留めたようね」
「ああ。だが、まだまだ街のあちこちにいやがるな。――おい、周囲の索敵はどうなっている?」
「……ッ! 二人共、九時の方向! 教会のある辺りにキングベヒモスと思しき大型の個体が一匹います。あと、随伴する通常個体も十数匹!」
既に眼杖の端末を飛ばして周辺を調べていた女呪術師から報告を受け、二人は同時にその方角を向く。
「分かったわ! なら、急いでそっちの方へ向かうわよ!」
「おう!」
女呪術師の示した場所へ一同が移動すると、そこには実際に怪獣そのものな巨大魔獣――キングベヒモスが何もかもを瓦礫へと変えていた。
頭の双角は触れただけで建物を崩し、歩くだけで石畳の道を砕いていく。その周りでは数多くの冒険者らが何度も攻撃を加えていたが、真っ黒な巨体には武器の刃も魔法攻撃も殆ど通用していなかった。更にキングベヒモスは角から雷撃も放てるようで、その雷電が人も家も纏めて焼き払い、被害を忽ちに広げて回っている。
「でっか……! 実物は初めてみたけど、想像していた以上に大きいわね……!」
「あの図体を普通に処理するのは流石に手間だな。――魔剣を使う。貴方は周りの腰巾着共を押さえてくれないか」
武器を鎖剣から赤騎士の剣へ切り替えた男魔剣士の言葉に、女騎兵は頷く。
「了解。お供のベヒモスは私の方で引き付けるわ」
言って、男魔剣士が彼女から離れた後、女騎兵は槍を上に向けて大きく構えた。
「――燧星投戟ッ!」
そして賺さず一投し、魔力を込めて放たれた槍は放物線を描いて飛ぶと、キングベヒモス率いる群れの進行ルート直前にて着弾。爆ぜた地面の衝撃と閃光に、全てのベヒモスが注目する。
「拡大せよ、汝らの身に重き鉛の枷を贈らん――エクスパンション・スローネス!」
直後、女呪術師がタイミングを合わせて、眼杖の機能により全体化させた弱体化魔法を端末越しに使用。その場にいたベヒモスらの動きを纏めて阻害する。
「――魁星天衝ッ!」
続けて、女騎兵がベヒモスの群れへ向けて正面より疾走。キングベヒモスではなく、その周りにいる通常個体へ躍り掛かり、片っ端から急所を抉っては息の根を止めていった。
更なる人間からの急襲に当然、ベヒモスらも応戦に掛かるが、女騎兵は意図的に翻弄するよう動き回り、足元で配下がウロチョロしているせいで、親玉であるキングベヒモスが上手く進めないようにしながら足を止めさせる。
「テメエの相手はこの俺だ! このデカブツがッ!」
すると、別方向より男魔剣士があえて大声を上げながらキングベヒモスに対し、突撃を仕掛けてきた。キングベヒモスは自身に向かってくる敵の存在を認識し、巨大な前脚の爪による薙ぎ払いを繰り出す。
しかし、男魔剣士はそれを躱すと、
「――ヴァーミリオンヴァイパー!」
水流状の赤い魔力斬撃を即座に放ち、キングベヒモスの頭部側面、こめかみの辺りを斬りつけた。魔剣技は掠るようにヒットに、体表面に細長い傷跡を刻みつける。
攻撃を食らったことに苛立ったのか、キングベヒモスは咆哮を上げた後、頭の角から雷撃を放った。迸る雷電の帯を男魔剣士は紙一重で回避、彼の背後にあった建物が数件纏めて破壊されていく。
「はッ、結構な威力だが――お前はもうお終いだ!」
男魔剣士は身を捻りつつ言い放った後、大仰に魔剣の切っ先をキングベヒモスへと向けた。
「緋き死を迎えよ――スカーレッドエンド!!」
それから剣が一瞬、赤く光っては背筋が凍り付くような波動が伝わる。そうして、怒り狂っていたキングベヒモスの動きが唐突にピタッと止まると、その巨躯が内側から膨れ上がり、水風船が弾けるかの如く爆散した。
「――ふん、相手が悪かったな。いくらデカくて硬かろうと、俺の魔剣には関係ない。呪いが効く以上はな」
「やったわね! こっちの方も、雑兵は全部片づけたわよ!」
周りにいたベヒモスを一掃し終えて声を掛けてきた女騎兵に、男魔剣士は魔剣を握っていない方の手を静かにサムズアップさせて向ける。
「マジかよ……! キングベヒモスを瞬殺しただけでなく、あんだけいた他のベヒモスもやっつけちまうなんて……!」
「もしかしてあの人たち、新しい金剛級候補だったりするってのか……!」
そんな彼らの姿に、さっきまでキングベヒモスへ太刀打ち出来ていなかった冒険者らは、誰もが唖然とした表情を浮かべていた。
とはいえ、ひとまずは一番の脅威であった対象が討たれた事に、その場の誰もが安堵の息をついた――のも束の間、途端に離れた場所から、おーいと大声で叫びながら走って来る者が現れる。
「大変だ! 街の西側から、よりによってランボスの群れがやってきやがった! しかも、狂ったように暴れ回ってベヒモスと同じく人を襲ってきやがる!」
「何ですって!?」
事態を伝えにやってきた冒険者の一人に、女騎兵は急いで駆け寄った。
「それは本当!?」
「ああ、加えてロードランボスらしいデケえのまでいやがるんだ! こっちが済んだってんなら、悪いが向こうの応援にも行ってくれないか!?」
全速力で走って来たのか、息を荒くしながら言った冒険者の男に女騎兵は頷いた。
「分かりました! ……でも、ベヒモスとランボスが全く同時に同じ街の中へ現れるなんて、随分とおかしい状況ね」
「何で?」
結局、ほぼ戦闘に参加せずに終わったカリストロスからの問いに、男魔剣士がおいおいといった顔で答える。
「知らねえのか!? 魔獣ベヒモスと聖獣ランボスは犬猿の仲の生物なんだ。通常なら、互いの気配を少しでも感じるところに寄り付くことは有り得ない。それぞれが好む環境も真逆だしな」
「へえ、そうかい。でももしかしたら、マフィアの抗争みたいに魔物の群れ同士が街をバトルの会場にでもしたかもしれないぞ?」
「マフィア……? アンタは一体、何を言っているんだ?」
意味がいまいち解らんと言いたげに眉を顰める男魔剣士だったが、あえて追求せずに女呪術師が口を挟む。
「しかしそれなら、どちらの群れも街の破壊や人間への攻撃ばかりを行っているのは不自然では?」
「そうね。だけど今回の事件が仮に魔王軍の仕業だったとしても、ベヒモスとランボスの両種を同時運用するなんて得策ではない筈。まずお互いが争い合って、統率が取れなくなるなるわ」
「ううむ……よく判らないことばかりだが、とにかく今はそのランボスが暴れているという現地へ向かおう。凶暴化したランボスはベヒモス以上に危険だからな。早く被害を食い止めなくてはいけない」
「ええ、急ぎましょう」




