再起に向け異世界で見据える話②
「別の意図ぉ? 何だそれ、例えば?」
「さあな、それは知らん。しかし、普段碌に会話へ混ざらんヤツが積極的に発言して、更に理屈まで通っているのは逆に胡散臭く感じる」
だが、男魔剣士はその視線に屈することなく、真っ直ぐに睨み返した。
「あと正直言って、俺はアンタを信用していない。自分が魔人であることを今まで隠していたようなヤツの意見なんてな」
「は? お前、日頃散々人に話聞かないヤツって言っときながら、自分も全然聞いてないのな。俺は魔人じゃなくて、あくまで混血だ。つーか、自分だって魔人モドキになれる分際で何言ってんだよ、呪い野郎」
実は現時点だと、男魔剣士と女呪術師は共に女騎兵から、カリストロスが人間と悪魔の混血(という設定)であることについては伝え聞かされていた。更に言えば、アマデスの森の遺跡から持ち帰った細工箱、その中に入っていた魔法結晶を使った為に本来の力を取り戻し、二人が意識を失った後で彼がマガツカミを倒したことについても。
「ああ、そうだったっけか? だが、俺はその混血云々って話もまず怪しいと見ている。いくら超抜級のアイテムで元の力を取り戻したとはいえ、あのバケモノへそう簡単にトドメを刺せるとは思えんからな」
唾を吐き捨てるような男魔剣士の物言いに、場の空気は非常に険悪なものとなっていった。
「直接打ち合ったからこそ、俺には判る。あのバケモノには混血だとかモドキなんて半端な力じゃあ、太刀打ちできやしねえ。真っ向からやり合うってんなら、最低でも上位の魔人としての能力が必要だ。――アンタ、記憶喪失って話だったが、もともとは魔王軍にでもいたんじゃねえだろうな?」
「――――――」
真正面から睨みつけてくる男魔剣士に、カリストロスもまた受け答えるように冷たい目つきで静かに返す。
首都行きの提案目的、混血設定、記憶喪失、彼が嘘を述べた事柄全てに噛みついて来るこの男に、カリストロスは苛立ちを通り越して、変な笑いすら込み上げてきそうになっていた。ここまで露骨に敵意を向けられて勘も働くとなると、彼としてはむしろ好ましくさえ思えてくる。
「……で、俺がもし元魔王軍だったとしたら、どうするつもりなんだ? 俺をこのパーティから追放するか? それとも、ここで処断でもするのか?」
「何?」
「一緒にいるのが我慢ならないってんなら、俺は別に構わないぞ。ここでさらりとお別れだ。俺は俺で、勝手に好きなところへ行くさ。あいにく、力を取り戻して完全な健康体になったからな。何処かの、死ぬまで呪われてるヤツと違ってね」
「テメ――」
「分かった! ザハトーヴェンに行くわ! 行きましょう、ザハトーヴェンへ! ――だから、お別れだなんてそんな事言わないで」
すると、女騎兵が割り込むように大声でそう叫んだ。最後の一言だけは、少し泣きだしそうに震えた声色が混じっていた。
「…………」
「……いいのか?」
その言葉にカリストロスは黙り込み、男魔剣士は怒りを抑え込んで静かに尋ねる。
「ええ、大丈夫。カリストの意見は本当にその通りだし、私も馬鹿みたいに怖気づいてなんかいられないわ。――ごめんなさい、私のせいで変な喧嘩させちゃったわね」
「いいえ、彼が無駄に突っかかるから良くないんです。私から後でお仕置きしておきますので」
「いだっ! 別に俺は間違ったことを言っては――いだだだっ!」
横から二の腕を抓ってきた女呪術師に男魔剣士は抗議するが、更に強く抓られたことで無理やり黙らせられた。
「とりあえず、この後は旅立ちの為の準備をして、昼食を取った後にザハトーヴェンへ向けて移動しましょう。首都まではそれなりに掛かるから、必要な品の補充は入念にね」
「ですね。――あ、せっかくですから、お昼はちょっと良いお店に行きませんか? しばらくは野宿になるでしょうし、美味しいもの食べておきたいというか」
「そうね、景気づけに少し奮発しちゃいましょうか。――カリストも、今言った予定で構わないかしら?」
「…………」
ついさっきまで、息が詰まりそうなくらいに悪かった空気を元に戻す為か、元気な調子で訊いた女騎兵であったが、何故かカリストロスは黙ったまま、しかめっ面で明後日の方向を見つめ続けていた。
「……カリスト? もしかして、何か気に入らなかった?」
「…………」
「おい、聞いているのか?」
カリストロスが無視しているとしか思えなかった男魔剣士は、再び厳しい眼差しを彼に向ける。
「……飯の算段なんて、呑気にしてる場合じゃないかもな」
ところが、途端にカリストロスは神妙な顔を覗かせると、視線は合わせないままに、そのような事を呟きだした。
「え……?」
「どうも、少し前から妙な気配を感じる……。まるで、これからこの街が戦場にでもなるかのような、そんな感じだ」
「はあ? アンタ、何を言って――」
その時、宿の外からターンと、何やら爆竹でも弾けたかのような物音が聴こえてきた。
「……何? 今の音?」
「さあ、何かが爆ぜたような音に聞こえなくも――」
直後、更に外からは今聴こえてきた破裂音らしきものが重なるように何度も、立て続けにして全員の耳に届いた。
「……っ! 明らかにおかしい感じね。私も何だか、胸騒ぎがしてきたわ」
「外の様子は……こっちの窓からだと、音のしてくる方角は見えないな」
「宿の外に出てみましょう。その方が、何か判るかもしれません」
どうにも不穏な雰囲気の中、一行は部屋を抜けて宿から外へ出る。宿の玄関先には既に他の客たちが数人、何事かとザワザワ騒いでいた訳であるが、
「ッ!? 街の向こうに、火の手が上がっている……!」
視界の先にて飛び込んできた光景に、女騎兵は思わずそう口にした。彼女の述べた通り、宿の玄関先から見えるシュトルーデル市街のずっと向こう、そこからは濛々と黒煙が何カ所も立ち昇っているのが見えた。
加えて、距離は遠いものの、建物がものすごい衝撃で崩されているような破壊音もまた、幾つも折り重なって聴こえてくる。そんな、どう考えても普通ではない状況に一同が困惑していると、街中に緊急事態の発生を示す警鐘が鳴り響いた。
「一体、何が起きているというんだ……」
「何って、どう見ても何かに攻め込まれて街を破壊されてるんだろ。ものすごく雑な解体工事でもしてるんでなけりゃな」
淡々とした口調で答えたカリストロスに、男魔剣士は苛立たし気に舌を打つ。
「そんな事は判ってる! 俺が言いてえのは、その攻め込んできた連中が何なのかって話だ!」
「確かに気になるけど、ここでこのままこうしていてもしょうがないわ。何が襲ってきたにしても、急いで現地に向かわないと。――形態変化!」
女騎兵は小盾を装備すると、直ちにその中から液体金属を放出した後、それを馬の姿に変化させた。
「みんな、乗せるわよ!」
それから女騎兵は馬に飛び乗った後、その馬の尻尾を変形させた、三本の触手を他の三人にそれぞ伸ばす。
触手は即座に三人の胴へ巻き付くように掴んで持ち上げると、女呪術師は女騎兵の後ろに座らせ、男二人は馬の臀部に括りつけるかのような形で固定した。
「なっ!?」
「ちょっ、またこの恰好かよ!」
「悪いけど、四人乗りだとこうなっちゃうわ! 少しの間だけ、我慢して!」
「少しの間って、別に俺は自力で走っても構わな――」
しかし、カリストロスの話を最後まで聞くことなく、女騎兵は騒動の起こっている場所へ向けて、馬を一気に全力疾走させた。
「「どわああああああッ!!!!!!」」




