白き閃光の異世界の冒険者の話⑮
「――って、あれ? 通路の方に行ったと思ったら、いつの間にか外に出てる!?」
キングメタルイーターがいたエリアから出入口を抜けた綾美たち六人はその直後、気づくと何故か坑道から一瞬にして外に――巨大な擂鉢状になった露天掘りの鉱山の底の部分にいた。
慌ててジェドが言いながら振り返ると、後ろには通って来た筈である出入口が無い。まさか、こんなにもすぐに外へ出られると思っていなかった一同は、まるで幻術に化かされでもしたように、キョロキョロと周囲を見回す。
すると、
「あっ! サフィアとルヴィスさん……!」
綾美は自分達と同じように困惑しながら辺りを見回しているクリストル兄妹の姿を目にし、思わず大きな声で叫んだ。
「……っ! アヤミ! それにみんなも!」
「良かった! 全員、無事だな!」
そんな綾美の声に兄妹二人も気づき、急いで駆け寄って来る。
「サフィアー! 心配したよー!」
全員合流を果たしたところで、綾美はサフィアへ飛びつくように抱き着いた。
「それはこっちの台詞ですよ! 大事なくて本当に何よりです!」
「うん、二人と別れた後にディアンさんが助けてくれたからね」
「ディアン殿が……?」
綾美をしっかりと抱き留めた後、彼女の言葉にサフィアはディアンの方へ視線を向ける。そして、ルヴィスはすぐにディアンの前まで歩いていくと、正面より深く頭を下げた。
「ディアン殿。アヤミさんの身を守って下さり、心より感謝いたします。この礼は必ずや――」
「いいや、結構。兄妹に礼を言われる筋合いなどない。それに私は護衛を依頼された故、その役目を果たしたまでだ。――ハンター、仕事の報酬をいただこうか」
しかし、ディアンは突っぱねるようにルヴィスへ辛辣な返事を口にすると、すぐに視線をハンターの方へと向けた。
「お、おう。旦那がいてくれて正直、助かったぜ。あんがとな」
ディアンのルヴィスに対する態度に少し気圧されるも、ハンターはその手に報酬の品――栄えの貝飾を取り出しては、それをディアンへと差し出した。
「それは?」
そのアイテムを目にし、ルヴィスがハンターに問いかける。
「俺ちゃんが集めていた遺物の一つよ。ディアンの旦那のお眼鏡にかなってね。コイツを見返りに、この鉱山から抜け出るまでの護衛を頼んだのさ」
「……確かに受け取った。これにて、この場における私の仕事は終了だ」
ハンターから報酬を手渡されると、ディアンはそれを仕舞いながら、まるで宣言するようにそう述べた。
「――それはそうと、今までずっと彷徨い続けていた坑道から急にあっさり外へ出れたのですが……もしや、そちらの方で何かしたりしましたか?」
「あー、えっとね……――」
サフィアの質問に対し、綾美は兄妹二人と別れた後にあった出来事などについてを一通り、掻い摘んで説明した。
「なるほど、そういう事か……」
「この鉱山内に巣食っていた妖精種のボスが異界の核だった為、それを倒したことで全ての転移点が消失し、外へ出られるようになったと……」
「そうそう。僕たちは今いるこの場所より地底にいると見せかけて、実は鉱山中の坑道を行ったり来たりしてた訳だね」
ある程度の事情を理解したルヴィスとサフィアに、ジェドが見渡す限りの鉱山の景色を差しながら答える。
「――と、異界にいるうちは思っていたのだが」
ところが急に、ディアンが割り込んで妙な事を言い出した為、一同は一斉に彼の方を向いた。
「え?」
「これは私の憶測に過ぎないが、さっきまで我々がいたダンジョン、アレは全ての坑道を転移点で繋げた迷宮――かと思いきや、実は鏡合わせの如く形成された、別の異空間だったのではないかと、今は考えている。でなければ、以前の探索で私が一度も妖精種に遭遇しなかった説明がつかない」
「あ、そっか。確かディアンさんって前に一度、この沢山ある坑道の全部を調べて回ってるんだっけ……」
「マジかよ。てことは結局、俺ちゃんたちは今立ってる地面より下にいたってのか?」
「私の考え通りであればな。とはいえもう、我々が脱出した時点で空間としては存在していないだろう。ここより上にある実際の坑道は、あくまで複写素材に過ぎなかったということだ」
「そういえば今はもう、ここに初め来た時に見られた変な魔力の流れが無くなっていますね。なんていうか、空気的にこれまでここに溜まっていたマナが霧散していってるような……そんな感じです」
天を仰ぐように鉱山内を見回しながら、フランジェリカはそのような言葉を口にした。
「多分だが、あの妖精のボスは単独の能力のみで妖精郷を作り出していたことになる。まるで群れの中で一体だけ力と知能が増した故、他の仲間達を生かそうとしていたかのようだな」
「――で、その妖精のボスというのを倒した際に入手したのが、その結晶体という訳ですか」
ディアンの発言に、ルヴィスはフランジェリカの手にしている、オレンジ色の鉱石が入れられた小瓶を差しながら言った。
「あー、それねー。なんか、フランの魔審眼でも詳細は読み取れないんだって。かなりの魔力を自己生成してるみたいなんだけど」
「ただ、生体反応があったりと不明な点が多すぎるので、今は下手に触らない方がいいかと思います。携帯型魔力炉として扱う分にはかなりの性能ですけど、今後どんな反応を示すかはちょっと予想できませんし……」
「正体が判らない以上、使わずに保管しておくしかないという事か……」
「因みにディアン殿は、これの所有権について何か申したりしないのですか? 貴方は私たちと行動を共にするつもりはなく、この世界で得られる物も渡すつもりないと仰られていましたが」
「そのドロップアイテムに関しては現状、保留中だ。魔審眼持ちが解析できない以上、私が調べきれるものでもない。――無論、今お前の述べた方針自体に変更はないが、単なる魔力リソースに過ぎぬ代物ならそこまで興味はない」
サフィアからの問い掛けに対し、ディアンは淡々と冷たい口調でそう返した。
「……まあ、その結晶体が何なのかを探る方法に、心当たりが無い訳ではないがな」
「何ですって? それはどんな――」
「それより一つ、思い出したことがある」
ルヴィスの質問を無理やり遮るようにして、ディアンはその場にいる全員へ語るように話しだした。
「実を言うと私は“ある人物”から、私以外にこの世界へやって来た者と出会った際、その人物の元へ連れてくるよう頼まれていてな。本来ならここでお前達とは別れるところだが、依頼されている以上は仕方がない。その結晶体やこの世界の事情などについて知りたくば、大人しく私についてくることだ」
「ある人物……? この世界に、私達とコミュニケーションを取れる者が存在しているのですか?」
「会えば分かる。私からあの者について、詳細を語るつもりはない」
相変わらず一貫した素っ気なさに困った顔をしつつ、サフィアは兄の方を向く。
「……どうします、兄さん?」
「そりゃあ、会いに行くべきだろう。その人物というのがどんな相手かは知れないが、この世界についての情報が得られるのなら願ってもない申し出だ。――ではディアン殿。案内、宜しく頼みます」
ルヴィスからまた頭を下げられたことに、ディアンは面白くなさそうに、ふんと鼻を鳴らした。
「ということは、もうしばらくは私達と一緒に行動してくれるんですね。私からも宜しくお願いします、ディアンさん」
「……これはあくまで義理を果たす為。つまりは仕事の上での同行に過ぎないよ、アヤミ嬢」




