白き閃光の異世界の冒険者の話⑭
「ッ! 遂にトドメを……!」
「あ、でもディアン! 確かにヤツは動けなくなったけど、攻撃を転移させること自体はまだ可能かもしれないよ! 下手に斬りかかっちゃって大丈夫!?」
得物を再び手にし、構えを取ったディアンの姿にジェドが後ろから慌てて訊ねるが、
「安心しろ、私にはとっておきの技がある。ヤツの能力で防ぎも逸らしも出来ぬ――秘奥義がな」
ディアンは自信を以てそう告げると、霞の構えで持った剣の切っ先をキングメタルイーターに真っ直ぐ向けては、深く腰を下ろした。
そうして、緊張感に満ちた只ならぬ空気が感じられたかと思うと、彼の剣の刀身が光を吸収し尽くしたかのように突如、真っ黒に染まりきる。それから、ディアンは一瞬にして、縮地の如く敵の目の前まで一息で急接近すると、
「――次元穿孔牙!」
剣を思いきり正面へ突き伸ばし、キングメタルイーターの胸部を貫いた。剣の先端が敵の身体に触れようとした瞬間、まるで空間そのものがガラスみたいに割れて穴が空いた――ような一瞬の光景を傍から見ていたフランジェリカとジェドは感覚的に幻視する。
ディアンが秘奥義と呼んだ今の技は、彼が修める最強の魔法剣のうちの一つ。その正体は空間どころか次元に対して限定的ながら亀裂を入れつつ対象を貫く絶技であり、あらゆる防御手段や耐久強度を突破する、対物破壊に優れた特殊殺法である。
「ギ……ギャ……」
一方、胸から背中までを一撃で刺し貫かれたキングメタルイーターは、数秒ほど身体を小刻みに痙攣させた後、力の抜けきったように長い両腕を垂らした。
「王国、消エルノカ……ワシ、死ヌノカ……楽園、終ワルノカ……ワシ、死ネルノカ……」
そして、キングメタルイーターは自身を仕留めたディアンを見つめて酷く憎らしそうに、続いて名残惜しそうに呟き、それから最後に――どこか嬉しそうな、ほんの一瞬ながら安堵した笑みを零しては、動かなくなった。
数秒後、鉱山に巣食っていた妖精の王の全身は灰のように一気に崩れ、跡形も無く消え去ってしまった。
「やった! メタルイーターのボスを倒したぞ! これで、この鉱山の中から出られるかなー!」
「さて、どうかな。そうなってくれると良いのだが……ん?」
剣を降ろした後、ディアンはキングメタルイーターが崩れ去ったことにより生じた灰の山の中に、何かが埋もれている事に気づき、それを拾い上げた。
――その何かとは、煌々とオレンジ色に輝く、何かの種子のような形をした鉱石らしきものであった。
「あら……ディアンさん、何ですかそれ?」
「判らん。何かの結晶体のようだが、おそらくこのモンスターの体内にあったのだろう。むしろ、魔審眼持ちの君の方が、これが何なのか解析できるのではないか?」
そう言って、ディアンは拾ったばかりのそれをフランジェリカへと手渡す。
「どれどれ? ――うわあ、何これ……」
すると、フランジェリカは受け取ってから一目覗き込んだ途端、すごく気味の悪いものを見たような表情を浮かべた。
「どうしたの、フラン? 何か、変なものだった?」
後ろから近づいてきて尋ねた綾美に、フランジェリカは振り向くと、引いたような顔をそのままに答える。
「変というかヤバいというか……これ、情報量があまりに凄すぎて、私の眼でも上手く読み取れないんですよね……。とりあえず視てすぐに判ったのは、これがものすごい量の魔力を自己生成していることと、この石そのものが生きてるってことくらいで……」
「えっ、その石って生きてるの!?」
フランジェリカがここまでドン引きした反応を露骨に示しているのも珍しいので、綾美もまたどうにも心配になってきてしまう。
「まさか、さっきの妖精、消え去ったように見せかけてまだ倒れてないんじゃ……」
「ああいえ、そういう訳じゃないです。あの妖精に関しては、きちんといなくなりましたよ。――むしろ、この石のせいで特殊な力を得た個体になっていたのかもですね」
「ふうん……。因みにそれ、レフィリアの復活に役立てられたりとかはするの?」
「さあ……魔力量自体はすごいですけど、扱い方が判らない上に得体の知れないものなので、今は何とも……」
そう言うと、フランジェリカは自分の荷物から、中身が空の小瓶を取り出しては、摘まんでいた結晶体をそれに入れた。
「あまり直接触れない方がいいかもしれないので、ひとまずは瓶の中にでも入れておきます」
「その方が無難だろうな。外部から魔力波の反応を受けて、何か変質しないとも限らん」
「えっと……とりあえず、危険はもう去ったってことでいいのかな……。コメットさんとハンターさんは大丈夫?」
「ああ、俺ちゃんはもう平気だ。回復もかけてもらったし、伊達に竜血が流れてる訳じゃねえさ」
綾美に声を掛けられ、今はもう殆ど傷の癒えた様子のハンターが立ち上がりながら、そう答えた。
「コメットの方はどうだ? 致命傷じゃなかったとはいえ、それでもかなりヤバかっただろ?」
「ええ、不覚でしたわ。フランさんのお陰で大事に至らず済みましたが……せめて、先にアイギスシールドを使えていれば、こうはならなかったのでしょうけど……」
その隣でコメットもまた、若干ふらつきながらも立ち上がっては、申し訳なさそうに返事をする。
「今回は不意打ち食らったんだから仕方ないよ。まあ、流石にコメットが最初にダウンしたのは正直、かなり焦ったけどねー」
「だな。コメットがもしやられちまったら、蘇生魔法使えるヤツがいなくなっちまうしよ。マジで即死貰わなかったのは幸運だったぜ」
「一応、私もコメットさんからリザレクションは学びましたけど、完全蘇生みたいな精度は出せないですからね……本当に、最悪の事態にならなくて良かったです」
「すみません。皆さんには色々と心配をかけてしまって……」
「別に貴方が謝罪する必要はない。誰もけして責めてはいないのだからな。……それより、このエリアに無かった筈の出入り口が向こうに出来ているぞ?」
ディアンの指した方向に全員が視線を向けると、彼の言った通り、その先にはついさっきまで存在していなかった通路への入口がいつの間にか出現していた。
「あっ、本当だ……もしかして、ここが異界じゃなくなったから?」
綾美の言葉にディアンが頷く。
「おそらくな。やはり先ほど倒した大型妖精こそが、この鉱山を異界たらしめていた元凶だったのだろう。それが消滅したことで、坑道が元の状態に戻ったのだな」
「だったら、とりあえず外に出てみようか。そんでもって、無事に脱出可能なのが確認できたら、改めてルヴィスとサフィアを探しに行こう!」
ジェドの発言に、一同は現れたばかりの出入り口へと早速向かい、妖精の王と戦いを繰り広げたその場所を後にした。
――そして、一同がいなくなった数秒後、そこの空間そのものが初めから存在していなかったかのように、幻の如く消え去ってしまった。




