白き閃光の異世界の冒険者の話⑬
「……ッ!?」
「えっ!?」
「ちょっ!?」
仲間の治療中であったフランジェリカとジェドは突然の転移からの危機的状況に驚くも、対処など出来る筈も無い。魔導師二人とまだ回復途中だった負傷者の二人、計四人は成す術無く、槍の如き水晶に串刺しとなってしまった――
『――タービュランス!』
かと思われたが、綾美の傍に展開していた、四本の宝剣が竜巻を発生させる魔法を咄嗟に発動。上空から水晶槍に落下していた四人を吹き上げることで、最悪の事態だけは間一髪で回避させた。
その状況にディアンは安堵しつつも、ふと頭に過ぎった不可解な現状に思考を巡らせる。
(あのモンスター、何故に今、四人だけを転移させた? 私を足止めするにしても、それなら私も転移させれば良かった筈――いや、私とアヤミ嬢を転移させなかったのではない。転移“させられなかった”のだ……!)
先の転移させられた魔法矢を弾いた時と同様、綾美は身に着けている髪帯の効力によって強制転移の影響を受けなかった。また、ディアンも装備している鎧の機能で同じように敵の能力を無効化できた為、二人だけが転移させられずに済んだのだろう。
そう考えつつ、ディアンは遂にキングメタルイーターの傍まで辿り着くと、敵の胴体に向かって、またもや強烈な蹴り技を叩きこんだ。
しかし、ディアンのキックが当たる直前で敵はその場より転移してしまい、攻撃は空振りに終わってしまう。更にそれだけでなく、キングメタルイーターはなんと綾美のすぐ傍に出現しては、彼女に向かって爪を振り下ろしてきた。
「きゃああ!!」
綾美が悲鳴を上げたのとほぼ同時に、耳をつんざく金属音が響き渡る。それは彼女への攻撃を瞬時にガードした、宝剣の刀身より生じた音であった。
また、一本の剣が敵の攻撃を受け止めたところで、残り三本が一斉にキングメタルイーターに向かって斬りかかる。
「キッ――」
だが、それすらもキングメタルイーターは寸前で瞬間転移により躱してしまうと、今度は先ほど竜巻により吹っ飛ばされて、着地からまだ態勢を立て直せていない四人の傍へと現れた。
殆ど無防備同然な彼女らに対し、キングメタルイーターは蹴散らすように爪を振るおうとするが、
「次はそこに転移だろうと思っていた」
いつの間にか、ディアンもまたそこへと移動してきており、背後からの声へ反射的に振り向いたキングメタルイーターに対して、彼はその顔面を思いきり殴りつけた。
「ギギャア゛ッ!!」
先回りしていたディアンのパンチは抉り込むようにヒットし、キングメタルイーターの片目を完全に潰してしまう。その痛烈なダメージに敵は半ばパニックじみた声を上げると、慌ててそこから転移しては再び大きく距離を取った。
「あっ、惜しい! アイツ、何度もピョンピョン飛び回って上手いこと攻撃が決まらないよ、もう!」
ディアンが続けてラッシュを叩きこもうとした直前で逃げてしまったキングメタルイーターの姿に、ジェドが悔しそうに喚く。
「しかし、これまでのヤツの動きを見ていて、分かったこともある。やり様はなくもない」
そんな中、ディアンの方はいたって落ち着いた様子で姿勢を戻すと、自分たちから離れた敵の位置と距離を確認しつつ、そのように言った。
「えっ、それってどんな……?」
「それをやる前に確認を一つ……フラン嬢、君は賢者だそうだが、ホーリーバインドは使えるか?」
「は、はい。使えます!」
「結構。ならば、ジェド。お前は私のこれより放つ攻撃にワンテンポずらして魔法を放て。使用するのは“あの術”だ」
そう告げると、ディアンは片手で人差し指を上に突き上げるようなハンドサインを見せた。
おそらく、具体的に魔法名を言わなかったのは敵側に悟られないようにする為だろうとジェドは推測する。
「あー、アレ? いいけど、アイツに魔法撃っても転移させられるんじゃ――いや、その感じだと何か策有りっぽいね。良いよ、やったげる」
「フラン嬢は更にそのワンテンポ後だ。タイミングを誤らぬように」
「了解です……!」
女魔導師二人との打ち合わせが済んだ後、ディアンは再度、手にした短剣型の魔杖を敵に差し向ける。
「では、行くぞ。――魔弾よ撃ち抜け、マジックアロー!!」
そして、彼は自身の眼の前に無数の光弾を展開させると、それらを一斉にキングメタルイーターに向かって発射した。
「キヒッ……!」
対してキングメタルイーターは、馬鹿め、とでも言いたげに口元を歪ませては、その場を全く動かぬままに自身の体表面へ転移能力を生じさせる。この能力を使用している状態ならば、たとえ全方位から一斉砲火を食らったとしても、このモンスターがダメージを受けることは無く、逆にその全てを相手側へ返すことが可能なのだ。
「――転換」
ところが、ディアンがキングメタルイーター目掛けて放った光弾は、彼が呪文を一言呟いた途端、その全てが攻撃目標へ着弾する直前に、別方向へ逸れてそのまま飛んでいってしまった。
接触するギリギリで全部の光弾が避けるように外れていったことに、キングメタルイーターは訳が判らないと困惑した素振りを見せるが、
「そそり立て、ロックグレイブ!」
次の瞬間、キングメタルイーターの足元から尖った岩塊が飛び出てきて、真下よりその巨体を大きく突き飛ばした。
「ギャギイ゛ッ!?」
「聖なる鎖よ、ホーリーバインド!」
更にその直後、フランジェリカがキングメタルイーターの周囲の空間より、何本もの光の鎖を出現させる。思いも寄らぬ攻撃を食らったことで転移能力を解いてしまったキングメタルイーターは、それを防げぬままに全身を縛り上げられてしまった。
「やはりな。あのモンスターは自分以外の対象に転移能力を行使する際、自身はその場より動くことが出来ない。また、外部からの攻撃を転移させられるといっても、接地している足下だけは能力を生じさせられない」
光の鎖によって雁字搦めにされ、抜け出そうと必死に藻掻いているキングメタルイーターを前に、ディアンは淡々と述べる。
「そして、ホーリーバインドには拘束した対象の空間転移を阻害する効果がある。いくらお前といえども、一度捕まってしまえば簡単には逃げられないだろう。――宝剣!」
その後、ディアンは短剣型の魔杖を仕舞うと同時に、もう片方の腕を高く掲げて叫ぶ。
すると、今まで綾美の傍で彼女を守っていた宝剣が、分身を解除しては自らすっ飛んで行き、またディアンの手に握られることとなった。




