白き閃光の異世界の冒険者の話⑫
「なッ!?」
「えっ、嘘!?」
「アヤミさん!?」
後ろから聴こえた綾美の悲鳴に、全員は更に驚かされる。なんと、ジェドが放って敵に当てた筈の魔弾は、綾美の目の前の何もない空間から突如飛び出し、彼女を襲ったのだ。
だが、今の綾美は防具として、慈しみの髪帯を身に着けている。超級魔法すら防ぎきるその効力により、綾美は魔弾の雨に晒されるも、その全てが彼女の身に触れる寸前で脇に逸れ、一切負傷せずに済んだ。
「宝剣、アヤミ嬢を守れ!」
『了解です、マスター!』
その事態に、ディアンは咄嗟に剣をブーメランの如く投擲する。投げられた宝剣はその後、自ら宙を飛んでは、驚きから尻もちをついてしまっている綾美の傍へと駆け付けた。
『――ウェポントレース!』
続けて、彼女のすぐ傍に浮かんだ宝剣は自身で魔法を行使し、なんと四本の剣に分身。綾美の四方を守るように、周囲を囲んだ。
「おい、旦那! 武器無しでも大丈夫なのか!?」
「問題ない。私は体術も心得ている。――それよりあのモンスター、どうやら体に接触する寸前で魔法攻撃を転移させたようだな」
ディアンは格闘戦の為の構えを取った後、冷静な口調で分析した内容を口にした。
「チッ、嫌に器用な真似してきやがる……。でも、どうするよ? これじゃ迂闊に攻撃が出来ねえ。幸い、魔法はレフィリアの姉さんにゃ通じねえが、下手に物理攻撃なんて仕掛けようもんな――」
などと話していたその時、突然、ディアンのすぐ目の前にキングメタルイーターが現れた。――否、ハンターの方が敵の目の前まで引き寄せられた。
「ら――……ッ?!」
その状況にハンターが驚いたのも束の間、キングメタルイーターは出迎えとばかりにその場で爪を振るう。そしてそれは、避け様の無い彼の体を正面より斬りつけた。
「うがあ……ッ!?」
「ハンター君!?」
またもや、予想できなかった事態に困惑するジェド。だが、ハンターは咄嗟に身を捻り、急所へのダメージだけは何とか避け、傷を負って倒れながらもその場より転がるように離れた。その甲斐あって、ハンターは続けて振るわれた追撃による負傷を食らわずには済んだ。
「くそッ! コイツ、やりやがったな……! まさか、戦ってる相手まで転移させられるたあ――」
悪態をつきながら、ハンターは急いで起き上がると、一旦距離を離す為に後ろへと飛び退く。しかし、敵から距離を取った筈である彼は、次の瞬間にはまた敵の目の前にいた。
「なあッ!?」
回避途中の状態であった彼は、今度の一撃を凌ぐことは出来なかった。むしろ、それを狙ったかのような奇襲であった。キングメタルイーターは、爪を引っ掻きではなく突き刺しで繰り出してきた為、ハンターは胴を派手に貫かれることとなってしまった。
「ごはあ……ッ!」
「ハンターさん!?」
彼が重傷を食らってしまった事に、フランジェリカが悲鳴じみた叫びを上げる。キングメタルイーターはフォークで刺した料理を掲げるように、長い爪を深く突き入れたハンターをそのまま持ち上げては、もう片方の手の爪でトドメを刺そうとした。
「こなくそがあーッ!!」
だがその前に、ハンターは腹を爪で刺された格好のまま、むしろそれを利用してキングメタルイーターの腕にしがみつきながら、燦めきの短刀を取り出して敵の手を滅多刺しにする。
「ギャアアッ!?」
それにキングメタルイーターは驚かされ、まるで虫でも払うように腕をぶん回しては、爪に突き刺していたハンターを振り飛ばした。あまりの勢いに敵の爪はハンターの腹から引き抜かれ、彼は宙を飛んでいくが、
「フッ――!」
直後、その隙を見逃さず、急接近したディアンがキングメタルイーターを蹴り飛ばした。
その威力は凄まじく、成人男性を見下ろす程ある大型妖精の巨体が跳ねて転がっていく。至近距離からの思わぬ急襲を食らったことにキングメタルイーターは更に驚くと、すぐさま自身を転移させては、一旦その場より大きく距離を取った。
「今だ! 後衛は味方の回復!」
「は、はい!」
「了解!」
敵モンスターをコメットの傍から離れさせたディアンは即座に叫び、フランジェリカとジェドはそれぞれ、負傷した二人の元へ急ぐ。
(しかし、面倒な相手だ。どうやら、通常の個体と違ってオリハルコンの外皮は持たないようだが、如何せんあの転移能力が厄介この上ない……)
相手を蹴りつけた時の感覚からそう認識したディアンは、距離を離したキングメタルイーターを視界に収めつつ、そう考える。
オリハルコンの外皮を持たない以上、魔法への完全耐性自体は有していない筈だ。しかし、それを補って余りある特殊能力を備えている以上、まず簡単にダメージは与えられないだろうが。
「ヨクモ……ヤッタナ!」
そうしていると、キングメタルイーターは双眸を光らせた途端、自身の周囲の空間に無数の鋭い水晶塊を出現させた。そして展開したそれらをディアン達の方へと一斉発射してきた。
(……ッ! 地属性上級魔法だと……!)
敵の魔法攻撃を予見したディアンは、賺さず腰の収納用魔道具から短剣型の魔杖をその手に取り出す。
「虚空舞い飛ぶ蛍火の光礫――フライグレネード!」
そしてキングメタルイーターが展開させた水晶塊を一斉射出してきたのと同時に、彼もまた自身の周りへ出現させた無数の光の球を全弾放出した。
もしディアン単身であれば、わざわざ迎撃などせずに通常回避で済ませるところ、今は後衛が味方の回復中なのでそういう訳にもいかない。彼の放った大量の光弾は的確に全ての水晶塊に着弾し、炸裂しては一発も撃ち漏らすことなく粉砕せしめた。
「……ッ!?」
「ッ――!」
撃ち放った範囲攻撃を完全に防がれた結果に、キングメタルイーターが動揺したところで、ディアンはすぐさま疾走しては、一気に敵との距離を詰めに掛かる。
「ナメ……ルナッ!」
それに対し、キングメタルイーターは甲高い声を上げた後、迫って来る彼だけを狙い、またもや魔法を発動――今度は地面より夥しい鋭利な水晶棘を槍の如く突き出させては、ディアンを貫こうとした。
(地属性超級魔法まで使えるのか! だが――)
とはいえ、津波のように迫ったその魔法攻撃をディアンは軽やかな身のこなしで避けきり、そのままの勢いで敵への接近を続ける。
強力な魔法行使も、ディアン相手には返って大きな隙に生じてしまった――かと思いきや、キングメタルイーターは一瞬、ニヤッとした笑みを浮かべると、両腕を高く掲げてみせた。
その一見、隙に隙を重ねる不可解な動作にディアンが眉を寄せた直後、なんと彼と綾美以外の四人がその場より転移し、なんとついさっき、敵がプリズムスティンガーで生じさせた水晶棘の真上から落とされてしまった。




