白き閃光の異世界の冒険者の話⑨
「「…………ッ!!?」」
はっきりと告げたフランジェリカの言葉に、綾美たちは一斉に彼女へ注目する。
「攻略って……何か見つけたのか!?」
「はい。とはいえ、あくまで“出来るかもしれない”ではありますけどね。でもその前に……皆さんは、この鉱山の中がどんな構造のダンジョンになっているかは理解していますか?」
そう訊いてきたフランジェリカにジェドが挙手して答える。
「入口はあるけど出口の無い、鉱山中の坑道を繋げまくった継ぎ接ぎの巨大迷路なんじゃないの? 魔法理論的に言ったら、ウロボロスの輪みたいな異界?」
「んで、この坑道の何処かに鉱山内を異界化させている基点があるってんじゃなかったか?」
「あ、そこまで解ってるなら話は早いです。この鉱山内の坑道はアベコベですけどデタラメじゃないですからね。何でもありな妖精郷と違い、きちんとした法則に則って運営されています。その元となっている何かさえ見つけられれば、攻略の可能性は出て来るでしょう」
今、フランジェリカが述べた内容――もし今、彼女らのいるダンジョンが本当の意味での妖精郷であった場合は、殆どルールの無いランダムな転移に惑わされ、それこそそこにいる妖精種を根絶やしにするしか対処法が無い。
しかし、一行の進んできた通路は基本的に決まった場所へ転移したり戻ったりできるという、ちゃんとした法則性の定まった迷路であり、これは現象によって自然発生したものではなく、誰かの手によって構築された異界であることが確認できる。故に、異界を異界たらしめている基点が存在する筈であり、それの発見と消去こそが手っ取り早い攻略法となるのである。
「ってもよ、そう簡単に基点とやらを見つけられるんなら、苦労は――」
「それで、コレを使います」
言いながら、フランジェリカは服のポケットから何かを取り出してみせた。それはホログラム加工されたように輝く金属板のようなアイテム――
「あっ、妖精門鍵!」
であった。久々に登場したようなそれを目にし、綾美は思わず声を上げる。
「もしかしてこの鉱山、妖精門があるの!?」
「そうです。コメットさんによると元々、ここには資機材や採掘した鉱物資源を搬入、搬出する為の妖精門が各所にあるみたいで……実は私達が今いるこのエリアにも、一つ敷設されているんですよ」
「えっ、マジで!?」
自分たちのいる足元を指差してみせたフランジェリカに、ジェドは驚きの顔で地面を見下ろす。
「ああ、そうか。フランの嬢ちゃんは魔審眼で直接、目視できっから……」
「てことは、妖精門鍵を使えば、妖精門からすぐに外へ出られちゃう?」
「いえ、現時点ではおそらく無理です。ここで妖精門を起動させても、異界を形成している基点が邪魔して堰き止められちゃいます。――ですけど、代わりにその基点がある場所へ飛ぶことは可能でしょう」
「……っ! だったら、その行った先で異界の基点を潰しさえできれば……!」
「異界化した坑道は本来の状態に戻り、外への脱出が出来るようになる訳です」
「ちょっと待て。お前達だけで話を進めているが、同行している以上は私にも情報を共有しろ。まず、妖精門は何だ?」
すると、ディアンが話の中に割って入っては、そのように問い質してきた。
「あっ、その通りですよね。すみません、配慮が足らなくて……妖精門とはですね――」
そして、フランジェリカは一通りの必要な情報に関する説明をディアンに行った。
「――なるほど。であれば、その旧文明時代の転移装置にて、異界の基点があるポイントへ直接向かおうというのだな」
「はい。妖精門は後から設置されたものではなく、元からあった転移点なので、作動さえさせれば異界の防護機能が働いて、半ば自動的に私達を基点のある位置へ連れて行ってくれると思います」
「ですが、異界の核となっているものが何なのかまでは不明なままですので、油断は禁物ですわ。まずはまだ合流できていない、ルヴィスさんとサフィアさんも見つけてから、戦力を揃えた上で挑むべき――」
「いいや、進言させてもらうが基点の攻略は今すぐ、直ちに行った方がいいだろう」
途端、ディアンはコメットの言葉を遮って、無理やり気味に意見を述べた。
「えっ、何で? 基点ってのがあるところに何が待ってるか判んないんだから、きちんと全員揃ってから行った方が――」
「この先、あの兄妹を探す為に移動を行ったとして、上手く全員が揃いきる保証が無い。場合によっては、妙な不条理から再びパーティを分断されてしまう可能性もある」
彼の言に思わず反論した綾美であったが、それに対してもディアンはすぐに理由を以て言い返した。
「うーん、それについては俺ちゃんも旦那の意見を無視出来ねえなあ。俺ちゃん達は数日、このダンジョンの探索を行ってきた訳だが、かといってその全貌を知り得てる訳でもねえし」
「変な事が起きて仲間がまた散り散りになるリスクがあるってんなら、今これだけ人数のいるうちに対処しちゃった方が良いって話か……。そう考えると、僕はディアンの案に賛成かなあ」
「……フランはどう思う?」
「ええと……確かにルヴィスさんとサフィアさんもいるのが理想的ではありますけど、またパーティが離れ離れになってしまったら、流石に致命的過ぎますからね。幸い、ディアンさんもいますから、ここはあえて対処に移った方が無難だとは思います」
「私は皆さんの方針に合わせますわ。他二人と合流して戦力を万全に整えてから挑むか、それともパーティの分断と消耗を避ける為に今すぐ異界の基点へ向かうか……どうなされます?」
「…………」
◇
その後、一行は小休憩も含めて幾らか話し合い、結果として、これよりすぐに異界の基点がある場所へと赴くことになった。
(あー……、結局、異界の核がある所へ向かうのに話が纏まっちゃった。せめて、何事もなく全部解決して、サフィアやルヴィスさんとも会えればいいんだけど……)
綾美としては内心、特にルヴィスとサフィアへの信頼が強かった為に、二人を揃えないまま事態の対処へ進んでしまうことがどうにも納得しきれずにいた。とはいえ、仲間達が選んだ方針の理屈もきちんと理解は出来るし、逆に反対する尤もらしい理由も浮かんでこないので、引き留められはしないのであるが。
「そういえば、この鉱山にいっぱい出て来るあの妖精――《メタルイーター》とかいったっけ? アレって、超古代の頃はここにいなかったって話してたよね、コメット」
そんな中、全員が準備を整えて、これから異界の核たる地点へ向かうといったところで、ふとジェドがそういった話を口にした。
「ええ、少なくとも鉱山が運営されていた頃は間違いなく駆除対象ですから、元からいたなんて事は有り得ませんわ。おそらく廃坑となった後、他所から移り住んできたのでしょう」
それに対し、すぐに答えを返すコメット。実を言うと、ジェドとハンターの二人は最初に四人で行動していた時、コメットから鉱山内に出没するモンスターがどういったものなのか、ある程度の話は聞いていたりする。そしてこの時点で、綾美やディアンもまた昨日のうちに二人から説明を受けている為、今この場にいる全員がオリハルコンの外皮を有する妖精種――メタルイーターの名前と特性を知り得ていた。
「前にも話した通り、メタルイーターは金属鉱石を主食とし、しかも食べ続けた金属の性質をその身に宿すことの出来る種族ですが……しかし、彼らが好むのは専ら鉄鉱石で、オリハルコンは食べない――いいえ、硬すぎて消化できないので食べられません。ですが、この鉱山にいるメタルイーターはどういう訳か、そのオリハルコンを取り込むことが出来てしまっている……」
「生存の為か、それが出来るように進化を果たしたのでしょうか……だとしても、その適応には相当な年月が必要だと思いますけど……」
「それ程の長い時間、この鉱山の中でメタルイーターは生きてきた。いや、生かされてきた。今、僕たちのいるダンジョンは、明らかにメタルイーターを生かし続ける為の場所だよね。――でもどうして、誰がそんなものを作ったんだろう?」
「目的は推察できても、動機の不明な異界構築は不気味だな。とはいえ、基点に向かうと決めた以上は気にしていてもしょうがないが」
そう告げたディアンであったが、かく言う彼も頭に引っかかって気になり続けている事はあった。
それはメタルイーターと呼ばれる妖精種の存在そのもの。というのも、彼が以前、このアールゼクス鉱山に訪れて調査を行った時は、妖精になど全く出くわさなかったからである。それが今回の再来訪にいたっては、幾らでも頻繁に遭遇する。この違いはどうにも無視しきれないが、かといって判断材料が無い為に答えの出し様もない。
(まさか、この鉱山の正体は――)
「それもそうだねー。変に時間取っちゃってごめん。とりあえず、僕の方は準備オーケーだけど皆は?」
ディアンがふと考えを巡らせていると、ジェドの声掛けに対して、他の者たち全員が準備は完了していると答えた。
「ディアンさんはどうですか? そちらも準備完了でしたら、直ちに妖精門鍵を使って転移を行いますけど」
「ん? ああ、私も大丈夫だ。いつでも構わんぞ」
「了解しました。でしたら……」
ディアンからも了承を得たことで、フランジェリカはいよいよとばかりに、妖精門鍵を掲げる。
「では、行きますよ。――反転せよ、妖精門!」
そして彼女が久しぶりに口にする呪文を唱えたところで、一同は一斉にその場より姿を消失させた。




