白き閃光の異世界の冒険者の話⑧
ようやく見つけられた仲間二人の元に、綾美たちは直ちに近づいていく。
そんな二人は、これといって負傷や不調を抱えている様子は見受けられず、妖精避けの魔法陣を敷いては、どうやらその中で休憩をしている最中のようであった。
「えっ……アヤミさん!?」
彼女らも誰かが近づいてきた気配、そして聴こえてきた人の声にすぐ振り向いては、その場より立ち上がる。
「いやあ、良かった! 二人共、生きてて安心したよ!」
「そちらこそ、ご無事で何よりですわ。それにレフィリアさんとも合流できるとは……!」
遂に再会が叶って声を掛けたジェドにコメットが安堵した表情で返す。すると、フランジェリカは飛び出すようにして綾美の元へ駆け寄って来た。
「アヤミさん、とっても心配しましたよ! どこか怪我とかしてないですよね!?」
「うん、大丈夫。ここに来てから、一度も怪我したりはしてないよ。幸い、一人だけにはならなかったから……。そっちこそ、すごく大変だったでしょ?」
傍まで寄って来た彼女を優しく抱き留めた綾美に、フランジェリカは頷く。
「はい、正直しんどかったですけど……でもこうして、アヤミさんとまた会えてホッとしました。本当に……アヤミさんが無事で、良かった……」
「ありがとう。私も貴方が生きててくれて、嬉しいよ……」
自分を心から大事に思ってくれていると伝わるフランの言葉に、綾美はつい涙が込み上げてきてしまいそうになる。
「――ところで二人共、こちらの人があの金剛級冒険者、白き閃晄のディアン。ルヴィス達と離れたレフィリアを助けてくれて、その後も護衛を引き受けてくれてるんだ」
綾美がフランジェリカを離したところで、ジェドはディアンのことを差して紹介し、彼もまた仮面の装甲を解除しては、新たに出会った二人へその素顔を見せた。
「ディアン・プレシャストだ。一時の契約で雇われた身だが、宜しく頼む」
「貴方があの高名な冒険者の……! 私はフランジェリカです。どうか宜しくお願いします。――あと、アヤミさんを守ってくださって、ありがとうございます!」
「私はコメット。ご親切に助力いただき、誠に感謝いたしますわ。それと……」
名乗った後、コメットはディアンを足先から頭までじっくり観察するように眺めては、彼の顔を見つめた。
「失礼ながら、貴方が身に付けられているその鎧……アンドバム王国軍の重機動装甲服ですわね。久しぶりに目にしましたわ……」
「む……? この装備について、何か知っているのか?」
「ええ、それは《アンドバム》――私がいた時代最大の王国の近衛兵団のみに与えられていた、特注の具足です。しかし、その鎧が完全な状態でこのエルジアにあるとは思い難いので……もしや、元の世界の方で手に入れられたのではないでしょうか?」
物知り顔で色々と語るコメットの様子に、ディアンは眉を顰める。
「……何者だ、貴方は? 何やら、超古代の遺物に詳しいようであるが――」
「あー、コメットはその超古代当時に生きていた人間――れっきとした旧文明人そのものなんだ」
横からそう告げたハンターの言葉に、ディアンは珍しく顕著に驚きを示した。
「何ッ!? それはどういう事だ!」
「おっと、食いつきがすげえな。どういう事、と言われても言葉通りじゃああるが……まあ、驚くのも無理ねえか。コイツはエスターニャの遺跡に封印されていた、超古代の神子さまなんだよ」
「神子……そういえば、超古代では一神教の巨大宗教組織が存在していたと妻から聞いたことがあったが……しかし、俄かには信じられんな……」
腕を組んではぶつぶつと呟きつつ、ディアンは唸るように顔を顰める。
『いえ、マスター。こちらの方の生体情報をスキャンしたところ、私が製造された時代に生きていた人間と遺伝子構造が一致しています。この方はマスター達の言うところの、旧文明人にあたります』
すると、ディアンの携えている剣――《燿きの宝剣》がそのように知らせてきた。
「何だと? では、本当に……」
「おや、貴方の持っている剣の宝玉……そちらはもしや、ペルソナイトではありませんか? 確か、軍の特殊部隊用に開発された、携行武具を自律思考兵器化させる魔導装置だった筈ですが……」
これまた、如何にも詳細を判っているとばかりに語ったコメットの様子に、ディアンは思わず目を瞬かせた。
「ううむ、この遺物についても存じているとなれば、疑いの余地は無いな……。しかし、まさか有史以前の人間が現世で生きているとは、何とも驚くべきことだ……」
「クリスティナ博士が知ったら卒倒するだろうなぁ。つーか、何で私に会わせないのよーって旦那、ブチ切れられるかもしんないぜ?」
「……それは有り得るというか、むしろ容易に想像出来るから大いに恐ろしいな。胸ぐらを掴まれて喚かれるどころか、魔杖で思いきりぶん殴られるかもしれん……」
半笑いで言ったハンターの言葉に、ディアンは心から思い悩むような表情で額に手を当てた。
「クリスティナ博士って……あの有名な、クリスティナ・モルガニー博士?」
「おっ、流石に賢者の嬢ちゃんは知ってるか。そうそう、そのモルガニー博士がこのディアンの旦那の嫁さんよ。かく言う俺ちゃんも、幾らか交友があるんだがね」
「えっ、そうなんですか!? 私も是非、いつかお会いしたいと思ってる著名な魔導師の方の一人なんですよ! なんせ、私と同じ魔審眼持ちですからね!」
見るからに憧れを滲ませた視線を正面から向けられたことで、ディアンはやや困った表情を浮かべた。
「嫁は別に魔導師としての実力で名が通っている訳じゃないが……とはいえ、尊敬してくれているのは素直に嬉しいな。――ところでハンター、お前は先程、彼女のことを賢者と呼んでいたが?」
「ああ、冗談抜きで免許持ってるマジモンの賢者さまだぜ? こう見えて結構な修羅場潜ってきてるから戦い慣れもしてるし、充分頼りになるぞ」
「その年齢でか。非常に優秀というか、紛れもない天才だな……。そんな君に羨望の眼差しを向けられたとなれば、妻もけして悪い気はしないだろう」
「いえ、ディアンさんにそう仰ってもらえるのは、こちらこそ光栄です……」
「謙遜することはない。私にとっては戦士としてより、むしろその魔導の才の方が欲しかったくらいだ。……それと、コメット嬢」
「はい?」
「もし宜しければだが、機会が出来た時にでも、私の妻に会っていただけるととてもありがたい。彼女は貴方の生きた時代について研究しているのだが、その当事者である貴方と話すことが出来れば、何よりも喜んでくれる筈だ」
そう真っ直ぐに見つめて告げたディアンに、コメットもまた微笑みを以て見つめ返した。
「ええ、それは構いませんわ。私としても、忘れ去られた私たちの営みについて、知ろうとしてくれている者が存在する事は、実に喜ばしいですので」
そこまで言って、コメットは意味深にウインクしながら、人差し指を立てた。
「あと、私を呼ぶ時に“嬢”をつける必要はありませんわよ。あいにく、レディではありませんから」
「何? それはどういう――」
「コメットは野郎なんだ。その外見からはまず判んねえだろうけどな」
「なあッ!?」
ハンターからの回答に、ディアンは思いも寄らぬといった形相で目を瞠る。
「因みに僕は女だけどー、嬢はつけなくていいよー。今まで通り、呼び捨てで呼んでねー」
「にいッ!?」
(なんか、ディアンさんが面白い表情で翻弄されてる……)
彼のこれまでのイメージや性格的に、まずなかなか見せないだろう奇妙な表情を目にして、綾美は思わず、何とも言えない苦笑いを浮かべてしまった。
「ところで……フランさん、せっかく仲間と合流出来たことですし、早いうちに“あの事”について話しておいた方が良いのではないですか?」
すると、唐突にコメットが何かを思い出したように、フランジェリカへとそう声を掛けた。
「あっ、それもそうですね。話しそびれないうちに」
「あの事? 何かあるの?」
尋ねた綾美にフランジェリカは頷く。
「はい、大事な話があります。それはですね……何を隠そう、この転移スポットだらけの坑道を攻略できる“かもしれない”方法です!」




