白き閃光の異世界の冒険者の話⑦
綾美がジェドとハンターの二人と合流してから翌日。一旦、またディアンの所持品である携帯型休息施設で寝泊まりした後、四人は引き続き、鉱山内での移動を再開したのであったが、
「はあ……こんだけずっと探し回っても、中々誰とも出会えないねえ。てか、このダンジョンってどんだけ広いんだろ……」
何時間も探索を行って尚、他の仲間と全く合流できない為に、ついジェドが疲れたように息をついた。
「なあ、ディアンの旦那。一応聞いとくが、もしこの坑道から脱出しなきゃならないってなった場合、外に出る算段はついてたりすんのか?」
「……いいや、正直に言うと、まだその為の手段は確保出来ていない。これは私がここでの探索を行った上での所感――いや、殆ど結論だが、おそらく今のようにただ坑道を練り歩き続けても、外への出口に辿り着くことは不可能だろう」
「えっ、そうなの!?」
ディアンの述べた言葉に、綾美は驚いて彼の方を向く。
「この鉱山はもはや、一つの異界として成立しているように思える。一度入り込んでしまった者は、ガラス瓶に閉じ込められた虫のように、通常の手段での脱出は叶わない。今、我々が進んでいる坑道には出口が無い――正確には、出口へ辿り着けないようにダンジョン内が構築されている筈だ」
「おいおい、何だよそりゃ。出口が無いだって? そんじゃあ、仮に皆集まれたとしても、外に出られなきゃどうしようもないじゃねえか」
「まあ待て、あくまで通常の手段ならの話だ。別に八方塞がりとまでは行っていない。――ここからの脱出を図りたくば、まずはこの鉱山内がどのような場所なのかに着目するのだ」
落ち着き払ってそう言ったディアンの台詞に、綾美は改めて考えを巡らせてみる。
「ここがどんな場所か……そういえば、ルヴィスさんはここが妖精郷になってるかもしれない、とか言ってたっけ……」
「あー、それは僕も思った。実際にここって妖精種の巣窟だし。んじゃあ、この鉱山内にいる妖精たちを片っ端から殲滅していく?」
「いや、それが直接的な解決策になるとは思えんな。逆に、下手をすれば例の崩落に見せかけた転移現象以上に厄介な事象を引き起こすかもしれない。――しかし、妖精が沢山いるという事実への着眼点は良い」
そう言って、ディアンは人差し指を立てた。
「この坑道内は確かに、妖精郷の“ような”不可思議なダンジョンだ。しかし、だからといって妖精郷そのものかと言うと、正直怪しいところがある。というのも、本来ならこの地域の環境条件で妖精郷が成立することは有り得ないからだ」
「有り得ない? 何で?」
首を傾げる綾美にディアンは続ける。
「妖精郷とは、妖精が一箇所に密集する事で形成される。そして、妖精が繁殖するには土地に多量のマナがいる。ところが、この鉱山が仮に豊潤なマナスポットだったとしても、その周辺全域は逆にマナが枯渇しきっている。これ程までに極端な差があると、マナは外側へ散逸していってしまう為、大量のマナが特定箇所に留まることはない。故に妖精が増えることはなく、妖精郷が出来上がることもけしてないのだ」
「はあ……」
「でも、僕たちが今いるこのダンジョンは、現に妖精郷と呼べるだけの場所になっている。それはどうして?」
「うむ。これはあくまで私に憶測に過ぎないが……私はまず、“順序”が違っているのではないかと考えている」
「順序?」
「通常なら、マナスポットに湧いた魔力で妖精が繁殖し、妖精郷が出来上がる。だが、ここでは妖精郷のような空間――入口はあっても出口の無い異界を先に構築することで、本来なら霧散してしまうマナを外に漏れ出ないようにし、結果として妖精にとっての生存圏を成立させている……謂わば、妖精種のみを生かす箱庭世界を形成しているのだ」
「へえ、なるほどねえ……ってもよ、何でそんな変なもんがこの鉱山の中に出来上がってるんだ?」
ディアンの説明を一頻り聞いた後、ハンターが尋ねる。
「まず自然に出来るもんじゃねえだろうし、かといって、作ろうと思っても簡単に出来るもんじゃねえだろ。それに出来たとして、誰が何の目的で作ったってんだよ?」
「さあな。動機や手法については、流石に私も知り様はないが……」
やれやれと肩を竦めては、ディアンは周りの景色を見回した。
「しかし、この鉱山内を転移スポットだらけの異界たらしめている基盤、もしくは基点となる何かが坑道の何処かに存在している筈だ。それを機能停止、ないし破壊さえ出来れば、坑道は異界化する前の状態に戻って外への脱出も可能になるだろう」
「異界化の基点……そいつの発見と停止、ね。言うだけならシンプルに聞こえるが、下手に実行しちまっても問題ないのか? 何かの間違いで土の中に埋められでもしたら、どうしようもねえぞ?」
「それは多分、大丈夫だろう。お前達は今いる場所が、露天掘りされた鉱山の底から更に地底だと思っているのかもしれんが、実際はそうではない。ここはこの鉱山に設けられた、第1坑道から第108坑道までの何処かなのだ。そしてその中を転移スポットによって、何度も入ったり来たりしているのだよ」
「ちょっ、マジで!?」
「ああ、これに関しては以前の来訪時、私は全ての坑道を調査し終えているからな。まず間違いはない筈だ」
ディアンの述べた言――それは現代風に言い換えると、高層マンションの内部構造がメチャクチャに繋ぎ変えられているようなものであった。
三階に行ったと思ったら六階に上がっており、七階に行った筈なのに五階に降りている、601号室に入ったら、203号室から出てきた……等といった具合に。ただし、外へ出れる1階の玄関口や窓際などのような場所へは、絶対に近づけないといった感じだ。故に、内部に入ってしまった者からは、巨大な一つの迷路の中にいるような感覚にさせられてしまうのである。
「ははーん、何となく判った。ここって要するに、ウロボロスの輪を再現した異界なんだねえ。出口の無い世界の中だけでマナを循環させて、妖精だけを生かしてるんだ」
「ああ、私もそのように考えている。とはいえ、そもそも何故、その妖精だけを生かす世界が作られたのかについては謎だが、脱出する分にはさして重要な要素では――」
『マスター、この先にある左の通路は転移地点となっています』
すると、ディアンの持つ大剣――実際には、その柄の部分に内蔵された魔導器の疑似人格が、四人の進んでいる先にある出入り口の一つを示して、そう発言した。
「おっ、またか。にしても、その剣って便利だよねー。自動で転移地点の感知と報告してくれるだなんて、いちいち使い魔出して調べなくて済むの楽ちんじゃん」
「まあな、利便性に関しては文句のつけようがない。疑似人格の本体は剣じゃなく柄に嵌めた宝珠の方だが、これを付けていれば武器の自律稼働と自律思考が可能になる。更には魔力供給装置や魔法支援砲台としても機能する。旧文明人とはつくづく、凄まじいテクノロジーを有していたものだ」
「そいつについては同意するけどよ。しかしその人格のモデルを嫁にするとは、旦那も随分と愛妻家だなあ」
「あいにく、モデルの設定を勝手にしたのはその嫁の方だ。まあ、私としては別に構わなくはあったがね」
「へっ、そうかいそうかい」
からかうようにニヤニヤしているハンターに、ディアンは肩を竦める。
「話もいいが、転移地点を抜けるぞ。くれぐれも気を抜いて、出合頭の会敵にだけはやられるな」
「解ってるって、心配すんな」
「りょーかいー」
ディアンがこれまで通りに刻印魔法で、転移地点のある出入り口のすぐ傍に印をつけた後、四人は揃って左側の通路の先へと進んでいく。その直後、
「……ん? あっ、あれって――」
「フラン!? コメットさん!?」
綾美たちの視界の先、少し広くなっているフロアの奥にて、地面に座り込んでいるフランジェリカとコメット、二人の姿がその目に飛び込んできた。




