白き閃光の異世界の冒険者の話⑥
「えっ、ディアンさん!?」
「あれ、一緒に行かないんです?」
意外そうに尋ねたジェドに、ディアンは首を横に振る。
「私がアヤミ嬢を護衛するのは、仲間の元に連れて行くまでという条件だった。それを果たした以上、私が共にいる必要は無い。――別に護衛の依頼を受けた訳でもないしな」
「えっと、ディアンさん! ちょっと待って!」
背を向けて立ち去ろうとしたディアンに対し、綾美は慌てて大声で引き留める。
「今の最後の言葉……護衛の依頼を受けた訳じゃないって事は、逆に依頼をしたら一緒に来てくれるんですか?」
「……何?」
「ディアンさんって冒険者なんですよね? だったらその……私、依頼します! この鉱山からパーティ全員を連れて脱出するまで、傭兵としての協力を依頼したいです!」
振り返っては眉を顰めたディアンに、綾美は臆せずその目をジッと見返して言い放つ。
「――ふむ。であれば、報酬は何を寄越すつもりだ? 依頼を出すからには、その仕事に見合った報酬が必要だが?」
「……っ。えっと、私がエーデルランドに預けている、これまでの活動で受け取った謝礼金から言い値でお金を支払います! それなりの金額はある筈ですので――」
「悪いが、却下だ。今の私に金銭は訴求力が無い。そもそも、現状ではすぐに手渡せるものでもないだろう?」
「う……それは、そうですけど……」
だったら、どうすればいいのだろう、と綾美は内心酷く狼狽えた。自分が持っている物の中から差し出せるもので、彼の協力を得られる何かが果たしてあるのだろうか、と綾美は言葉に詰まってしまう。
「ははあ、なるほど……んじゃあ、報酬としてコイツならどうだい? ディアンの旦那?」
そんな中、ハンターが二人の間に割って入って来ると、いつの間にか右手に握った何かをディアンに掲げて見せてきた。それは何やら、ペンダントらしき装飾品の類であるようだった。
「む……? 何だ、それは?」
「そいつを答える前に一つ訊くが、アンタ――モルガニー博士って知ってるか?」
「…………ッ!?」
ハンターがとある人物の名前を口に出した途端、ディアンの表情が顕著な変化を見せた。
「何故、その名をお前が言う?」
「おっと、予想通りの反応だ。実は俺ちゃん、超古代の遺跡を巡って遺物を蒐集して回ってるトレジャーハンターなんだがね。旧文明にも詳しい有名考古学者、モルガニー女史とは昔から知り合いなんだ。――クリスティナ・モルガニー……あー、今じゃ姓が変わってクリスティナ・プレシャスト先生かな?」
ニヤッとしながら答えたハンターに、綾美は思わず目を瞠る。
「えっ!? もしかして、その人……ディアンさんの奥さん!?」
「おうよ。そんで、そのクリスティナ博士には前から欲しがっている物があった。“月の五秘宝”といってな、数千年前に月の民を自称してた古代エルフの王国に伝わる国宝にして神器……まあ、その正体は超古代の遺物だった訳だが、歴史の中で散逸したそれらを博士は探し求めていた。旦那のアンタも、その話は嫁さんから聞いたりはしてないかい?」
「……ああ、勿論知っている。月の五秘宝――枝の神杖、龍の数珠、聖なる石鉢、火除けの外套、宝貝の護符。そのうちの四つを妻は既に手に入れている。であれば、お前の手にあるそれは、残り最後の一つ……」
「そう、宝貝の護符……真の名を《栄えの貝飾》という。俺ちゃんが遺跡探索の中でたまたま見つけたもんだが、次に博士と会った時に渡してやろうと取っておいたのさ。それを旦那のアンタに譲渡してやるよ。条件として、レフィリアの姉さんの依頼を受けてくれるんならな」
「……当然の事を問うが、その護符が本物である証明は?」
訝しむように返すディアンにハンターは肩を竦めながら、懐より愛用のコンパクトルーペを取り出してみせる。
「俺ちゃんにはこの見定めの透視鏡っていう、解析・鑑定用の遺物がある。このアイテムが本物であることは確かだ。何なら、確認してくれてもいいぜ?」
そう言ってはハンターが差し出した透視鏡をディアンは受け取り、彼が交渉材料に出した装飾型の護符をそれ越しに覗き見た。
「……ふむ、確かにこれは本物だ。そしてこの解析用魔道具の性能と情報に偽りがないこともまた、実際に使ってみて確認出来た」
「そりゃあ良かった。もういっそ、旦那が見つけたって手柄にして、博士にプレゼントしてくれてもいいぜ? きっと、かなり喜んでくれると思うが……どうだ?」
「…………」
ハンターに透視鏡を返した後、ディアンは静かに何かを考えるような表情をしては、彼の手中にあるペンダントと、それから綾美の顔を一瞥する。
「――いいだろう。その依頼、受けることにしよう」
そして小さく頷いては、引き続き同行することを承諾した。
「オーケー、取引成立だな。そんじゃあ、宜しく頼むぜ?」
「あっ……ありがとうございます、ディアンさん!」
「私に礼を言う必要は無い。感謝ならそこのトレジャーハンターに言いたまえ」
などとクールに返答をしたディアンに、綾美は笑顔で頷いてはハンターの方を向く。
「はい。ハンターさん、どうもありがとう! 後で改めて何かお礼するね!」
「いやいや、んなもんいいって。仲間なんだし、このくらい気にすんな。――てか俺ちゃん、いざって時に頼りになるだろ?」
「やったー! ディアンさんが一時でも同行してくれんの、メッチャ頼もしー! ――あ、今のうちにサインとか貰っちゃおうかなー」
すると、これまた興奮気味な声で言ったジェドの反応に、ハンターは綾美へカッコつけていた顔から一転して、おいおいといった目を向けた。
「って、お前なあ……さっきから何をそんなにはしゃいでんだよ。いくら超有名冒険者さまとはいえ、お前も同じ金剛級だろうが」
「そりゃそうだけど、流石に年季が違いすぎる大先輩だからねえ。ついテンション上がっちゃうというか、ランクは一緒でも同格扱いはちょっと恐れ多いというか……」
「私相手に謙遜する必要は無い。黄昏の爪というと、復活した古の大魔人討伐の功績で金剛級になったのだろう? それ程の実力者ともなれば、けして私が軽く扱っていい同業者ではない」
「んー、それ程でもー。ていうか、ディアンさんに面と向かって認めてもらえるのって、正直テレちゃうなー」
えへへ、といった顔で頬を掻くジェドだったが、そんな彼女にハンターは意外そうな顔を向ける。
「マジか。つーかお前って、魔人なんか倒してたのかよ?」
「そうだよー。しかもただの魔人じゃなくて、国レベルの被害出すような、数千年クラスのヤツ。いやあ、あの時もまたなかなか大変だったけどねえ。今となっては最早、懐かしいなー」
「何なら、私のことは呼び捨てで呼んでくれても構わんぞ? 歳の差は多少あるといっても、同格相手に持ち上げられることもないしな。むしろ、その方が楽なまである」
「えっ、ホントですか!? んじゃあ、敬意を込めて、呼び捨てで呼ばせていただきます! 勿論、僕のことも同じようにどうぞ!」
「……なんか、いつにも増して浮かれてんなあ、コイツ……」
「あはは……まあ、本人が喜んでるんならいいんじゃないかな」




