白き閃光の異世界の冒険者の話③
「もしや、あの兄妹が最優先で護衛をしていた理由はそれか? ……そういえば、魔王が呼び出した使徒とやらも異世界からの存在という話だったな。ならば君もまた、それらと同様に他所の世界からやって来たというのかね?」
「はい……一応、そうなります」
「……そうか、別の世界か」
何を考えているのか判別し辛い、何とも言えない表情でそう答えた後、ディアンはそれ以上問うことは無く、先程までの開封作業の続きをしだした。
それを十数秒程眺めてから、無言の気まずさに耐えられなくなってきた綾美は再び話しかける。
「その……逆にディアンさんの口振りだと、まるで缶詰は一般的ではないように聞こえたんですけど……」
「ん? ああ、そうだな。少なくとも、私の知る文化圏では瓶詰はあっても、このように金属製の容器へ封入する食材保存法は無い。これらの物資は私がこの大陸を旅している途中、旧文明人の地下保管庫から手に入れたものだ。謂わば、これもまた超古代の遺物だな」
「えっ、でも超古代って、もう一万年以上も昔なんですよね? そんな時代の食材なんて、食べても大丈夫なんですか?」
「それについては問題ない。私も念の為、開封時に毎度調べてはいるが、この缶に入っている食材はどれも驚く程に鮮度が保たれている。元より、旧文明では物品をクリスタル等に封入する文化と技術があるが、食材はまた別枠でこのように保管していたのだろう。私はこれを勝手に魔封缶と名付けている」
言いながら、ディアンはソロキャンプで使われるバーナーのような魔導器の上にクッカーに似た調理器具を置き、手慣れた動作で食材や水に油、その他に調味料なども揃えて下準備を行っていた。綾美が見たところ、食材の缶詰以外にも保存用の容器や魔道具などが幾つもあるようである。
「まあ、もし食材が腐っているようなら、私はとっくに食中毒を起こしている筈だ。しかし、そんな事はここに来てから一度としてなかった。仮に腹を下したとしても、魔法で治療できるから心配する必要はない」
「な、なるほど……でしたら、安心できそう……かな?」
しばらくして、ディアンは鶏肉と茸のトマト煮――によく似た料理を作ってくれた。いくら旧文明の超技術により保存されていたとはいえ、一万年以上前の食材ということで一抹の不安はあった綾美であったが、
「ごちそうさまでした。……とても、美味しかったです」
味付けとしては想像以上に美味だったこともあり、いつの間にか全部食べてしまっていた。今のところ、特に体調が悪くなった感じも無い。
「そうか、口にあったのなら何よりだ」
そんな彼女の反応に、ディアンはほんの僅かにだが笑みを浮かべては、魔法による調理器具や食器の洗浄作業を始めた。
「そういえば……ディアンさんはいつぐらいから、この鉱山に入ったんですか?」
「む? いつからと言えば……ここに入ってから、もう四日になるか。とはいえ、この鉱山に来たのは今回が初めてではないがな」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ、もう結構前になるが、一度ここに訪れてから全ての坑道の調査をし終えた。その時は結局、何も見つからなかった上、今回のような転移ギミックだらけの地下空間は無かったんだがね」
洗浄魔法で綺麗にした食器類を収納用魔道具に仕舞いながら、ディアンはやれやれと肩を竦めた。
「しかし四日前、この辺りに偶然立ち寄ったところで、不自然な魔力の流れを検出してな。調べに赴いたところで、以前はなかった謎の坑道に入り込んでしまった訳だ」
「はあ……でしたら、脱出ルートの確保などは――」
「今はまだ出来ていない。だが、まずは君を仲間の元に届けるのが優先だ。それが済み次第、そちらの問題も解決しなければならないだろう」
そう言った後、全ての物品を片付け終えたディアンは、腕を組みながら息をついた。
「まあ、これ程の特殊な空間ともなれば、私が求めている物が隠されている可能性も充分ある。おいそれと脱出のことだけを考える訳にもいかないがね」
「ディアンさんが探し求めている物……。確か、ディアンさんも魔王軍から世界を救う為に活動されているんでしたよね?」
「……まあな」
今の綾美の問いに対し、ディアンはあからさまにその話題については答えたくなさそうな素振りを見せた。
もしかしたら、ルヴィスやサフィアと行動を共にしている自分が彼の詮索を試みている、と思われたのかもしれないと、綾美は内心戸惑う。彼女としては、別にそんなつもりはなかったのであるが。
「……私、実は神様から英雄としての力を与えられた上で、皆さんの世界に呼び出されたんです。今、魔王軍にいる異世界の使徒――六魔将っていうんですけど、彼らも私と同じ存在で……私は人類側の味方として、色んな国を渡ってはもう何度も魔王軍と戦ってきました」
「何……?」
「ですけど、今の魔王軍内には人類とか魔族とか関係なく、異世界転移者全員と世界の創造神を纏めて滅ぼそうとしている、恐ろしい存在が潜んでいて……私はその敵によって、英雄としての力を消し去られてしまいました。そして、それを取り戻せるかもしれない手段がこの古代大陸のどこかにある……そう神から聞かされて、私を含めてルヴィスさん達のパーティはこの世界にやってきたんです。ですので――」
「待て、アヤミ嬢。何故、そのような話を私にする? まさかと思うが、その話をすれば私に協力をしてもらえるなどと考えてるんじゃないだろうな?」
「あ、いえ……そんなんじゃないです。私はただ、ルヴィスさん達も併せて私達が何をしているのかを知ってもらいたかっただけです。知られて困ることでもないですし……」
「…………。その君の力とやらを元に戻すものが何なのかについて、正体、手段、在処、その全てが現時点でも一切判明していないのだな? 情報源とされる神からも、その辺りの説明は伝え聞いていないと?」
「はい。それにあくまで、取り戻せるかもしれない、なので……」
「……ふむ」
これまた気難しそうな顔でディアンは目を顰めた後、唐突に座っていた椅子から立ち上がった。
何か自分の語ったことが気に入らなくて席を立ったのかも、と綾美は一瞬不安になったのだが――彼は再び、ポシェットから色々と器具や缶などを取り出すと、なんとコーヒーを作り始めた。
「あ、あの……」
「しばし待て」
そう言われたので綾美が黙っていると、それ程時間は掛からずして、インスタントコーヒーが出来上がり、ディアンはカップの一つを綾美へと差し出してきた。
「えっと……ありがとうございます」
綾美は渡されたカップの中の熱いコーヒーを少し啜り、ディアンもまた一口飲んだところで話を始めた。
「まあ、実を言うと私も似たようなものだ。私の場合はある予言の情報を元に、この古代大陸へ訪れたのだが……こちらも探し求めている物に関して、具体的に詳細が判っている訳ではない」
「そのー……そちらのお話、聞いちゃっていいんですか、私?」
「何、こっちも聞かれて困るものではない」
言って、ディアンは何やら手帳らしきものを取り出してみせた。
「私の妻は考古学者なのだが、世間だと御伽噺扱いされている旧文明についても真面目に調査していてな……。そんな彼女がある遺跡にて超古代の碑文を発見し、その解読を行った結果、このような内容が書かれていた」
そう述べた後、ディアンは手帳を開いては、あるページを見せる。すると、そこにはこのような文章が書かれていた。




