白き閃光の異世界の冒険者の話②
ディアンと二人だけになった後、綾美は数時間ほど彼と鉱山内を移動してまわった。しかし、ルヴィスやサフィアどころか、他のパーティの誰とも全く出会うことはなかった。
逆にこの鉱山内に巣食う例の妖精種たちとは、相変わらず何度も遭遇した。だがその度に、ディアンが一人であっという間に蹴散らしてくれた。戦闘自体は何回もあったが、その中で綾美に危険が及ぶことはほんの少しも無かった。
(うーん、やっぱこの人ってすっごく強いなあ……。ルヴィスさんやサフィアと一緒で、剣技も魔法も使えるし、遺物装備も持ってるし……そりゃあ、一緒に来てもらった方が、間違いなく戦力増強にはなるんだろうけど……)
そんなことを考えながら、綾美がディアンの後をついて行っていたところで――唐突に、間の抜けた音が坑道内に響いた。それは、綾美のお腹が鳴った音であった。
(あっ、ヤバ……!)
あまりの恥ずかしさに綾美は顔を染めながら、思わず手でお腹を押さえてしまったが、
「――ふむ、少し早いが今日はもう休息を取るか。ちょうど場所的にも悪くないしな」
ディアンは振り返らないまま、懐から近未来的な意匠の懐中時計らしきものを取り出して覗くと、そのように告げた。
「えっ、休息って……」
「勿論、食事と睡眠をとる。――つまりは野営だ」
「はあ……」
こんな、いつ魔物が湧いて来るかも知れないダンジョン内で野営をしなければならないのか、と綾美は一抹の不安を覚えながら周りを見回す。
彼女らの今いる地点は、またちょうど広めの空間になっていて、ある程度の面積が確保されている場所であった。故に一応、魔物が襲ってきても対処しきれないという事はなさそうである。なんてことを綾美が思っていると、
「剣陣退魔結界――ッ!」
ディアンは手にしていた大剣を唐突に思いきり、地面へと垂直に突き刺した。直後、突き立てた剣を中心にして、魔法陣のような文様をした光の輪が地面に刻まれる。
「えっ!? これって一体……」
「魔物除けの結界を張った。これであの敵性妖精が近寄って来ることはない」
などとディアンは告げると、次に彼は腰に下げている、これまた近未来的なデザインのポシェットらしきものに手を翳した。途端、彼の手中に500ml缶くらいの大きさをした、何かの機械装置のような物が握られる。
彼はそれを地面に刺した剣の少し先に置いては、何やら一言、呪文らしき言葉を呟いて後ろに下がった。そして数秒後、一瞬の発光と共にその機械装置的な何かは、電話ボックスか仮設トイレのような形状とサイズの四角い物体へと転じた。
「ちょっ!? 何ですか、これ!」
「今日の休息場所だ」
淡々と言ったディアンが指差した物体には、明らかに扉らしきものが一つついていた。ディアンは出現させたもの――休息場所と呼んだそれに近づいては、その扉を開けてみせる。
するとその中には、ちょっとした家具のある小部屋が存在していた。とてもじゃないが、目の前にある四角い構造物内へ物理的に納まりきれる広さではなく、綾美は以前乗ったことがある遺物の乗り物のように、きっと室内は空間操作などが施されているのだと認識した。
「うわっ、すごい! 中がコテージみたいになってる!」
「ここでしばらく体を休める。君も早く入りたまえ」
言いながらディアンは部屋の中に入っていき、綾美もそれに続いて扉を潜ろうとする。しかしその直前で足を止めては、ふと懸念したことを尋ねた。
「えっと……この扉を閉めたら、外の様子が判らなくなりそうですけど、大丈夫ですか? あと、あの剣も外に置きっぱなしになりますけど……」
『――それについてはご心配なく。私は見張りも兼ねてここにいますので』
その時、自分の背後――地面に突き立てられた剣より突然、女性の声が聴こえてきた為に、綾美は慌てて後ろを振り返った。
「へっ!? 今の声……もしかして、剣が喋った!?」
「ああ、言ってなかったが、その剣はインテリジェンスソードなんだ。つまりは、疑似的ながら自分の意思を持っている。外での異常を感知すればすぐ私へ伝えてくれるし、自衛能力だって有している。だから心配は要らん」
『はい、マスターの言う通りです。ですので、私の事はお気になさらず、どうか安心してお休みください』
「はあ、どうも……それじゃあ、お世話になります……」
剣から礼儀正しく物腰の柔らかい口調で入室を促され、綾美は驚く事の連続にドキドキしながらも、部屋の中に入っては扉を閉めた。
「――さて、私はこれより夕食を作る。勿論、君の分も含めてだ。君はそこのソファーにでもかけてゆっくりしているといい」
そう言うと、ディアンは身に纏っていた銀の全身鎧とマントを一瞬にして消し去り、紺色に赤いラインの入った、スタイリッシュなコート姿となった。一瞬にして武装と普段着の早着替えが出来るというのもまた、クリストル兄妹の鎧と同じ機能だと、見ていた綾美は内心思う。
「ええと……寝床だけでなく、食事までいただいて良いんですか? 私も一応、携帯食料くらいは持ってますけど……」
「それは非常時に備えてとっておけ。あの兄妹ならともかく、非戦闘員の婦女子を無下に扱う程、私もケチではない。――無論、君が私の提供を受けたくないのであれば、無理強いはしないが」
「あ、いえ……でしたら、有難くいただきます」
綾美の回答を聞いた後、ディアンはまたポシェット型の遺物に手を添えると、そこから何かを取り出しては室内にあるテーブルの上へと置いた。更にそれを何度も繰り返しては、次々に色んな物品を並べていく。
その一連の行動に綾美はとても既視感があった。というか、ディアンが幾つも品物を取り出している魔道具は形こそ異なるが、機能的にはハンターの身に着けている遺物――虚ろなる空箱とほぼ同じなのである。
(この人もハンターさんのと似たような遺物持ってるんだ……。ていうかアレ、正直言って未来のロボットの四次元ナントカみたいだよね。便利な秘密道具が色々出てくるのも含めて……)
なんてことを綾美が考えていると、品物を一頻り出し終えたディアンはそのうちの一つ、茶筒ほどの大きさの銀色をした円筒形の物品を手にとっては、その上を指先で掴んで魔力を流した。その後、掴んだ部分を捻ると蓋が開き、彼は中に入っていたものを先に用意していた金属製の容器内へと入れた。
それは一口大にカットされた、何かの肉らしきものだった。続けて、彼はまた別の同じような容器を手にとっては、同様の手法で開けて、中身を取り出す。すると今度は、おそらくキノコと思しき食材が出てきた。
「あっ、それ……もしかして、缶詰ですか?」
ふと尋ねてしまった綾美に、ディアンは手を止めて彼女の方を向く。
「カンヅメ……? 君はこれが何なのか、知っているのかね?」
「え……? まあ、私のいた世界にも同じようなのがあるので……」
「私のいた世界? まるで別の世界からでも来たような口振りだな。……ふむ」
そう答えた後、ディアンは何やら考えながら綾美のことをジッと見てきた。




