白き閃光の異世界の冒険者の話①
「――■■――■■■――」
――突然、意識が途切れたと思った矢先、水の底から浮かび上がってくるように、ぼうっと意識が戻って来る。
私のすぐ傍で何か聴こえる。何だろう……? どうやら、人の声であるようだ。
「■■――■■――■■■■――」
…………? どうも、今聴こえている声は、私に話しかけてきているものらしい。でも誰の声だろう? サフィア? ルヴィスさん? よく判らない――
「――おい、大丈夫か――おい!」
「……う……ううん」
なんだか、聞き馴染みのある声ではないな、と思ったところで、綾美はようやく目を覚ました。
気が付くと、綾美は自分が仰向けで地面に倒れていることを認識した。そして、顔以外を銀の全身鎧に包んだ男――ディアンに、肩を手で揺すられていることも。
「……あれ、貴方って……」
「……っ! 意識が戻ったみたいだな」
ディアンにそう言われた後、綾美はゆっくりと上半身だけを起こす。
「一応、既に治癒魔法は掛けておいたが、痛むところはあるか? もしあるようなら、すぐに言うように」
彼の言葉に、綾美はその場で用心しながら立ち上がっては、自身の体の状態を確認する。
衣服に多少の土汚れこそあるものの、坑道の崩落に巻き込まれてかなりの高さを落ちてきたにしては、これといって怪我をしているようには感じられなかった。大した痛みもなければ、動かないところがある訳でもない。
「えっと……大丈夫みたい、です……」
「そうか、ならばよい」
そう言っては、特に無理している風でもない綾美の様子に、ディアンは納得したように頷く。しかしそこで、綾美の方はハッとしたように周囲を見渡すと、慌ててディアンに話しかけた。
「あの……! ルヴィスさんやサフィアは!? 二人共、姿が見当たらないんですけど……!」
「生憎、私にも判らん。今、ここにいるのは私と君の二人だけだ。どうやら我々は先の場所での崩落――に見せかけた転移現象で、それぞれ別の地点に飛ばされてしまったらしい」
「えっ、嘘……!?」
いたって冷静に述べたディアンの言葉に、綾美はまたキョロキョロと辺りを見回す。ふと天井を仰ぐと、綾美は地面が崩れて落下した筈なのに、頭上には穴など何も無いことに改めて気づいた。周囲には土砂や瓦礫といったものも一切見当たらない。
かといって、ディアンが別の場所へ自分を運んできたという様にも思えない。つまりは彼の語った通り、自分達は崩落に巻き込まれた様でいて、どういう訳かまた別の場所へ転移してしまったのだと認めざるを得なかった。
「……でも、どうして? 転移って、それが起きる通路とかを通らないと発生しないんじゃ?」
「ああ、本来ならな。しかし、これは私の推測だが……先の場所で私とルヴィスが戦闘を行い、それによって生じたマナスパークがこの鉱山内における、何かしらのギミックを作動させてしまったのやもしれん。少なくともあの場所で起こった事象は、通常の崩落でない事は確かだ」
「そんな……」
ディアンの述べた説明の理屈はいまいち理解しきれなかったが、それでも綾美は自分たちが転移させられたという事実だけは受け止めるしかなかった。
自分はルヴィスやサフィアと離れ離れになってしまい、代わりに先ほどルヴィスと勝負をしていた、この男性だけと一緒にいる、今の状況も含めて。
「さて、君が目を覚ましたのなら、ここに留まる必要は無い。移動を再開するとしよう」
「え……」
さらっと言っては歩き出していったディアンに、綾美は戸惑ったように彼の背を見る。それから数歩歩いたところで、困惑したままついてこない綾美の様子に、ディアンはチラッとだけ彼女の方を向いた。
「どうした、ついてこないのか? まあ、君が一人でも良いというのであれば、私は別に構わないが」
「あの……ご一緒しても良いんですか?」
「流石に私も戦う術を持たない婦女子を魔物の巣に放置しようとは思わん。いくらあの兄妹の連れでもだ。君の仲間の誰かに出会うまで、護衛くらいはしてやろう。――とはいえ、君が良ければの話だがね?」
そう告げたディアンの声色は、ついさっきまでルヴィスやサフィアを相手に話していた時に比べると、随分落ち着いていて、薄っすらだが優しさすら感じるようなものであった。
その印象の違いに戸惑いこそ消えなかったが、それでも助けてもらえるのなら実際に有難いと、綾美は素直に頭を下げた。
「あ、その……宜しくお願いします、ディアンさん」
「ふむ、承知した。であれば、まず君の名前くらいは訊いておこうか。私だけ名を知られているのも不公平だしな」
「えっと……私は綾美と言います。苗字は如月、ファーストネームが綾美です」
「アヤミ・キサラギか。ではアヤミ嬢、これより私は君の護衛を請け負うが、共に行動する際は必ず私の指示に従うように。私は可能な限り、君の身の安全を守るよう務めるが、それも私の言う事を聞いてもらえなければ保証はし兼ねる」
「分かりました……」
「よし、では行くぞ」
綾美の返事に頷くと、ディアンはまたツカツカと歩き出していってしまった。その彼に、綾美は慌てて足を速めては後を追いかけていく。
(うわあ……まさか、この人と二人っきりになっちゃうだなんて……。誰でもいいから、他の誰かに会いたいなあ……)




