妖の鉱山に異世界で迷い込む話⑦
「――ッ!?」
(兄さん、初撃から!?)
彼にしては珍しく、一発目からいきなりの大技にサフィアは内心かなりの驚きを見せる。
急速且つ全力という無茶な魔力起動で無理やりに隙を極力無くし、一瞬で間合いを詰めては剣を突き出してきたルヴィスの突撃に、ディアンは咄嗟に大剣の腹でそれを受けた。
だが、いくら最強の冒険者たる彼でも抑えきることまでは流石に出来ず、剣の接触時に生じた衝撃によって、後方へ大きく吹っ飛ばされてしまう。
「くッ……!」
突き飛ばされたディアンに、ルヴィスは更なる強引な魔力制御で自身の軌道と姿勢を急に変えると、大出力の魔力奔流はそのまま利用する形で追撃を掛けた。
「雷電光剣――ッ!」
剣の刀身から稲妻が迸り、瞬間的により威力と速度を増した斬撃がディアンへと振るわれる。まずは一撃、なんとしてでも食らわせる。とにかく先手を取って畳みかけることを意識した戦法であったが、
「甘いわッ!」
ディアンもまた吹っ飛ばされた後に無理やり体勢を直すと、長大な剣を片手で棒きれの如く振り回し、ルヴィスからの攻撃を弾いてしまった。
「……ッ!」
初手からかなり無茶をした手段が通用しなかった結果にルヴィスは内心歯噛みしつつも、手元は冷静にディアンからの反撃を最低限で流し、衝撃を利用する形で後方に下がる。そうして距離を幾らか開けたルヴィスに、
「ギロチンブレイク――ッ!」
今度はディアンが急接近し、大剣の刀身に風と雷の凄まじい魔力を纏わせた大斬撃――ディアンの十八番として知れ渡る、魔法剣の必殺技を仕掛けてきた。
「クリティカルブレイド――ッ!」
それに対し、ルヴィスもまた彼にとっての必殺奥義で咄嗟に応対する。
二人の剣士の振るう膨大な魔力斬撃がぶつかりあった途端、猛烈なスパークと共に爆発が起き、それから周辺一帯の空気を震わせるような衝撃波さえ生じた。
「…………ッ!」
その壮絶な光景に、サフィアと綾美は共に言葉すら発することが出来ず、息を呑む。
一方、魔力の爆発を引き起こした二人はそれによってまた距離を開けこそしたものの、どちらも未だ負傷や疲弊といった様子は微塵も見せていなかった。
「はああ――ッ!」
「ふん――ッ!」
それから両者は互いにすぐ接近していき、目にも止まらぬ高速斬撃を叩きつけ合っては、目を晦ませる閃光と耳をつんざく剣戟音を立て続けに発生させていく。そうして、そんな猛ラッシュのぶつけ合いがしばらく続いたところで、
「ぬッ……!」
一瞬、剣を受けたディアンの手元が狂い、体勢を僅かながらよろけさせた。
(――今だッ!)
「龍角雷剣――ッ!」
それを勿論見逃す筈などなく、ルヴィスは技の出の速さに特化した魔法剣の突きをここぞとばかりに繰り出す。その攻撃をディアンは大剣で受けこそしたが、姿勢が悪かった為に抑えきれず、大剣は遠くへと弾き飛ばされてしまった。
当然、そうなれば得物を失った剣士など隙だらけも同然で、有効な一撃を与える絶好のチャンス到来――かと思いきや、何故かルヴィスの視界から、吹っ飛ばされた武器を持っていた本人であるディアンの姿が消えてしまっていた。
「――ッ!?」
しまった、相手がよろけて視えたのは瞬間的な幻影だ、そう理解したと同時にルヴィスは側面へ反射的に剣を振るう。
「三重蠍旋――ッ!」
すると、その方向から徒手空拳の状態のディアンが既に近づいてきており、ルヴィスに対して連続の回し蹴りを繰り出してきた。
「ぬおッ……!」
魔力を帯びた強烈な蹴りの連発を全て剣のガードで受けきるも、ルヴィスは後方へと突き飛ばされて大きくよろめいてしまう。
「獅子星蹴撃――ッ!!」
そんな彼に、ディアンは軽い助走から足に魔力奔流を迸らせると、猛烈な飛び蹴りで以て間髪入れぬ追撃を掛けてきた。
「ぐあッ!!」
それさえもルヴィスは剣を盾に受けることで肉体への直撃こそ避けはしたが、それでも接触時に生じた爆発と衝撃で大きく吹っ飛ばされ、地面をゴロゴロと転がることになった。
「ッ……!」
(くっ、すぐに体勢を――)
更なる追撃を畳みかけられる前に、ルヴィスは慌ててその場より起き上がっては、ディアンからの攻撃に備える。ところが、
「――ッ!」
その時、唐突にルヴィスの真横から何かが高速接近してきたことを感じ取り、ルヴィスは反射的にそれから身を守る為に剣を振るった。
彼のラスターソードが勢いよく突っ込んできた物体を弾き返す。なんとそれは、先ほどルヴィスが弾き飛ばしたディアンの大剣で、それが独りでに動いてはルヴィスへ攻撃を仕掛けてきていた。
しかもその剣は弾かれて尚、また宙を浮いては、それ単独で生きているかのような挙動で、ルヴィスに向けて再攻撃を行ってくる。
(武器投射魔法か!? いや、それにしては動きが複雑すぎる。おそらく、別の手段で遠隔操作されている筈――)
奇襲を掛けてきた大剣を凌いだ後、ルヴィスは急いでディアン側へと向き直る。だが、その時点ではもう遅かった。
側面からの大剣を弾いたルヴィスへディアンは時間差攻撃を敢行、全身に魔力を迸らせて一直線にすっ飛んできては、
「蛇王噛牙脚――ッ!!」
某有名ヒーローの如きドロップキックをお見舞いし、しかもそこから空中でルヴィスを更に何度も蹴り上げた。
「ごはああ……ッ!!」
遂に肉体へ凄まじい直接ダメージを受け、派手にぶっ飛ばされたルヴィスは坑道の壁へと激突し、その衝撃で周りの岩盤に大きな罅を広げさせる。
「兄さん!」
「ぐッ……」
思わず口に出してしまったサフィアの叫びが響く中、ルヴィスは壁面に叩きつけられて半分埋もれこそしたものの、そこからまた反撃の為に立ち上がろうとした。
――しかし、彼のすぐ傍にはいつの間にかディアンが立っており、しかも既に得物の剣を手にした状態でいた。そして、その切っ先を動こうとしたルヴィスの首筋ギリギリに差し向けてきた。
「……ッ!!」
「勝負あったな。――ふん、威勢の良い台詞を言っていた割にはこの程度か。口ほどにもない」
などと、落胆しきった表情で言い放ったディアンであったが、ルヴィスとしては煽りこそしても、彼が別に命まで取ろうとするつもりでないことは直感的に判っていた。彼は自分達兄妹を嫌ってはいるが、そこまでの卑劣で酷薄な人物でもないと。――まあ、それもルヴィスがこのまま敗けを認めて抵抗しなければの話であるが。
「ぐっ……」
一応、ルヴィスの鎧には致命傷を一回限りキャンセル出来る緊急離脱機能がある。それを利用した不意打ちを試みるということも可能ではあったが――仮にそこまでやってしまえば、もうそれから先は本当の殺し合いと変わらない。
そもそも、遺物装備を持っているのは相手側も一緒なのだ。ディアンの持つ装備の機能や特性が判明していない以上、下手にこちらの切札を見せる訳にいかない。故にルヴィスは悔しくも歯痒くも、自身の敗北を認めるしかなかった。
「これで理解しただろう。私にとってお前達は不必要な存在だ。それでも、まだしつこく付きまとうようであれば――」
だがその時、一同のいる場所全体が突然、地響きを立てては大きく揺れた。それにより、その場に立っていた全員が思いきり地面に倒れ込むこととなる。
「きゃああ!?」
「な、何だ!?」
地震か、と全員が驚いたのも束の間、立ち上がれない程の揺れが続くのに合わせて、いきなり地面に大きな罅が走った。
それが蜘蛛の巣状に細かく、一気に今いるエリア全体へ広がったかと思うと――あろうことか、地面そのものが丸ごと崩落した。
「ぬッ!?」
「なッ!?」
「うおッ!?」
まるで砂の城が崩れたかのように足元の全てが失われた後、四人は土砂と共に何処までも闇が続く、巨大な地底の穴の奥へと落ちていった。
あまりの急すぎる事態に対処出来た者などいなかった。鉱山内での崩落事故など、どんなに強くて凄い冒険者だとか英雄だろうと、どうにも出来るものではない。
とはいえ、天井が崩れて落ちて来るのならともかく、地面だけがあっという間に無くなって、しかもその下に奈落の如き大穴が空いているのが、どうにも不思議でならなかったが――
「きゃあああああッ!!!!」
そんな事がほんの一瞬だけ脳裏を過ぎるも、気にしている場合である筈もなく、悲鳴を上げながら落下していった綾美は、意識も含めてその全てが深淵へと呑み込まれた。
――その十数秒後、底がぽっかり抜けたその場所は、まるで時間を巻き戻したかのように、誰もいない形で即座に元通りになってしまった。




